「バブルガム・ブラザーズ」での歌手活動にとどまらず、役者や作家としても活躍するブラザートムさんは50歳だった平成18年4月、急性心筋梗塞で入院。若いころから暴飲暴食を続けた「ミスターエンゲル係数」も、「倒れてから健康になりました」と苦笑いする。あと一歩で手遅れとなったかもしれない病は「今を真剣に生きる」という人生訓をもたらした。

心筋梗塞というと、突然倒れるというイメージがあるけれど、前兆はあったんです。1ヶ月くらい前からすごく肩が凝って、歯が痛かった。痛み止めをバリバリかみながら飲んでいました。それから酒の量が増えた。いくら飲んでも酔わない。あと、夜中に果物をすごい食べた。

でも、肩が凝ってると、女の子にもんでもらえるじゃない。痛み止めを飲んで、ぼーっとして肩をもんでもらっているんですから、結構ハッピーですよ(笑い)。小川の石がカラカラと落ち始めたことに気がついていなかったんですね、そのときは。

そうして、ライブのリハーサルが行われる朝、コンビニからの帰り道、両手がぶらんと伸びたまま、「うっ」と息ができなくなって。例えるなら、焼き芋を一気に食べて詰まったときの胸焼けと、失恋の切なさが重なった感じ。

何か悪いことが起きていると分かりました。吸う息より吐く息の方が多くて、頭を下げてじっとしていました。時間がたって歩けるようになったけれど、前かがみの姿勢はなおらず、歩幅も小さくて。

家に帰ってコンピューターのエッチな画像を全部消した(笑い)。もしかしたら、二度と帰ってこられないと思ったんです。

リハでは、歌うのがすごくつらかった。終わった後、「ちょっと医者に行ってくる。帰ってこないと思うけれど、そのときはごめん」とみんなに言ったんです。近くのクリニックで症状を話したら、動かないでくれと言われ、すぐに救急車が呼ばれた。先生が『心筋梗塞のようだ』と先方に話していたのが聞こえました。

自分から『医者に行く』って言ったのは初めて。医者にさえ行かなければ病気なんて分からない。それが自分から救急車に乗ったんだから。

大学病院へ運ばれ、すぐに服を脱がされて、剃毛(ていもう)。「ハート形にしてくれ」と言ったのに、看護師さんに「冗談はいいです」と冷たく返されました。こっちは、冗談でも言わないと恥ずかしいじゃないですか。人生で一番受けなかったギャグですね。

そのまま入院することになり、エレベーターで病室に運ばれるとき、「紳士服売り場へ」と、また冗談を飛ばしたのに、これまたちっとも受けなかった(笑い)。カテーテルを入れられ、いくつも管がぶら下がり、不思議な操り人形みたい。でも、部屋で横になったらすごく楽になっていました。

何日かして、点滴が増えたりして嫌な感じだなと思っていたら、先生が「危険な時期は終わりました」って。入院は10日くらいしてたかな。
(病と生きる 歌手・俳優、ブラザートムさん(54))

心筋梗塞とは


心筋梗塞とは、心臓を栄養している冠動脈の血流量が下がり、心筋が虚血状態になり壊死してしまった状態です。日本全体では、約25万人の急性心筋梗塞症の発症が推測されています(その中で、約8万人が死亡しているとされています)。

冠動脈が閉塞する原因としては、冠動脈の粥状動脈硬化(アテローム硬化)による狭窄が基礎にあります。粥状動脈硬化(アテローム硬化)とは、脳や心臓などの太い動脈内にコレステロールなどが沈着し、粥状のかたまりができて血管内が細くなった状態です。

具体的には、冠動脈内膜下に形成された粥腫(血管壁にたまったコレステロールが、血管の内側にこびりついたもの)が破綻し、 血小板が凝集して冠動脈血栓の形成が起こり、結果として冠動脈が完全閉塞して起こると考えられています。

日本では心筋梗塞は欧米と比較して大変少なかったですが、食習慣や生活様式の西欧化、社会生活におけるストレスの増加、人口の高齢化などに伴って近年増加しています。増加率は若年者に低く、高齢者で高いという特徴があります。

症状としては、狭心痛(胸が締め付けられるような痛み)を生じます。「痛い」よりも「胸が苦しい」「重い感じがする」など、締め付けられる(絞扼感)を訴えることが多いといわれています。

通常、狭心症では胸痛の持続時間は数分程度でおさまりますが、安静にしていても30分以上胸痛の持続する場合は急性心筋梗塞を疑います(通常30分以上持続する前胸部の強度の胸痛や絞扼感で、恐怖や不安感を伴う)。

大多数は典型的な胸痛・絞扼感を主訴としますが、中には心窩部・背部痛呼吸困難、悪心・冷汗・失神などの非典型的な症状を訴えることもあります。典型的な急性心筋梗塞の胸痛と鑑別を要する疾患には、解離性大動脈瘤、急性心膜炎、肺塞栓が最も重要であり、次に胸膜炎、自然気胸、逆流性食道炎などがあげられます。

悪心・嘔吐などの消化器症状も伴うことがあるため、胆石症、胃・十二指腸潰瘍などとの鑑別が必要になることもあります。高齢者や脳梗塞、糖尿病を有する患者さんでは、無痛性に発症することもあります。その結果、放置してしまうケースもあります。

また、関連痛といって、疾患のある臓器以外の部位に出現する痛みが生じることがあります。具体的には、胃の痛みを中枢へと伝える神経と、心臓の痛みを伝える神経が近い位置にあるため、誤って「胃の痛み・不快感」として伝えられてしまったような状態です(共通の神経で痛覚が脳へ伝達されるために起こると考えられている)。

さらに、以下のような検査が行われます。
こうした臨床症状がみられたり、心電図で連続する2誘導以上でST上昇、またはST低下(非ST上昇型)を示し、数時間後にはQ波の出現、あるいは非Q波梗塞ではR波の減高がみられます。

まず心筋傷害を反映したST上昇、数時間後には心筋壊死を反映したQ波、その後に心筋虚血を反映した冠性T波が出現します。冠性T波は左右対称の先端の尖った深いT波で、2日〜1週間以内に出現し、数時間〜長年にわたり持続します。

血液生化学的検査では、白血球の増加は特異性がないが発症早期からみられ、その程度は重症度や予後と関連するといわれています。CPK、CK-MBは、梗塞発症後6時間以内に上昇し、3〜4日で正常値に戻ります。AST、LDHは、CPKより上昇が遅く、ASTの上昇は4〜7日間、LDHの上昇は1〜2週間続きます。そのため、これらは発症時期の推定には有用な指標となります。

ミオグロビンは、CK-MBに比し早期より上昇し、ピークは1時間後で1〜2日後には正常となります。ミオシン軽鎖Iはピーク値は発症から2〜5日であり、7〜14日後に正常化します。

最近では、心筋特異性が高いトロポニンT・トロポニンIも用いられています。トロポニンTは、発症後3〜5時間で高値になり、その後は2峰性の変動を示します。最初のピークは12時間、2番目のピークは3〜5日であり、発症後7〜10日で正常化します。

現在では、H-FABPとトロポニンの2物質を微量の血液から検出し、急性冠症候群かどうかを判定する迅速診断キットも開発されています。

心エコーも有用であり、収縮低下を確認することがほかの疾患との鑑別に有用であったり、他の合併症の有無も判断できます。冠動脈造影は、虚血性心疾患の確定診断には非常に重要となりますが、侵襲性が高いといった難点もあります。

冠動脈造影(CAG)・左室造影法では、急性心筋梗塞の責任冠動脈病変を確定でき、引き続き梗塞サイズの縮小を目的とする再灌流療法を施行することもできます。

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