28歳のころだから、12年前です。ご飯を食べていて、いきなりふらっとした。頭痛とか呼吸困難とかが、2、3時間おきに。1カ月で4つの病院を回りました。耳鼻科、整形外科、脳神経外科、内科。でも、何にもない。

「大丈夫だ」と思うんですけど、舞台に出ると「また来るんちゃうか」と思う。怖くてお酒を飲む。酒を飲むと忘れるんですよ。ただ、次の日に尋常じゃないくらい(発作が)来る。で、またお酒飲んで。もう悪循環。最後に、精神的なもんかなと思って病院に行ったら、そこで「パニック障害や」と言われました。

きっかけがなんだったかは分からないけど、今考えると人間関係とかかな。芸人には段階がある。ちょっと上の先輩とからんで、その先輩が仲介になってそのまた上の先輩とからんで、って。でも、ぼくらの場合はデビューして、いきなり上の先輩にからんでしまった。「何をしゃべっていいか分からん」みたいな悩みは持ってましたね。ずっと緊張してて、それがストレスやったと思います。

息が苦しいし、電車に乗られへんし、車も、エレベーターも、なんでもかんでも怖くなる。いつ息吸っていいか分からん。一番困ったのは髪を切るとき。(美容師に)何回も止めてもらって、トイレに行くふりをした。仕事も、現場に行くまで時間がかかる。収録中もすぐ止めてもらう。

当時はそんな病気誰も知らんから、「サボってる」と思われてたでしょうね。外傷もなければ、血液検査もレントゲンも悪いところはない。でも病名が分かって、ちょっと落ち着きました。それに、病院の先生が面白かった。「それでいいんですよ。芸人さんはみな病気や。普通の神経の人はいない」って。

確かに、人に頭どつかれて喜ぶ仕事って、普通の人にはできへん。上司の頭をはたいて、お客さんが笑う。笑えば笑うほどほめられる。そんな仕事ないですよ。でも、病気になったいうことは、ぼくは芸人に向いてないんかな(笑い)。

そのうち毎回飲む薬も忘れてしまった。あるとき、「薬取りにいかな」と急いで病院に行ったら、先生が「もう来なくていいです。普通に来られたじゃないですか」って。電車に乗れないことも忘れてしまってた。薬を飲んでたのは、1年くらいでしょうか。

この病気って、まじめな人がなるんじゃないかな。ぼくも当時は、くそまじめやった。お笑いの世界や、「いじられる」ということをなんも知らんかったんです。

「お前、アホやな」と言われると、「アホなんや」と思ってしまう。「兄貴やのに、ちっさいな。親違うんちゃう?」と言われると、「違うんかな?」とほんまに悩んでましたからね。向こうはいじってくれてるわけや。それをいじめられてると思ってた。いじられてなんぼ。すごいチャンスをもらってたのにね。

症状がなくなったころには仕事も楽しめるようになってた。よくも悪くもええかげんになって。一度、どうでもええと思ったら人間は強いです。できんかったらできん、苦しかったら苦しい、とさらけ出した方が楽です。まずは打ち明けることじゃないですかね、自分の病気を。

ぼくも病気を打ち明けて、先輩と仲良くなれた。仕事もやりやすくなった。「なんかお前、訳の分からん病気らしいな」とネタになって。「パニック」いうあだ名まで付けられて。みんなゲラゲラ笑ってて、そのうちに治ってた。

今思うと、あれはなんやったんやと思う。たまに息とめてみたりするけど、もうならへん。なってくれたらええのに、と思いますけど、全然なれへんわ(笑)。
(芸人さんはみな病気や 「中川家」中川剛さん)

パニック障害/パニック発作とは


パニック障害とは、パニック発作が特別の原因なしに、突然出現する(予知できずに起こり、反復性)障害と言うことができると思われます。

一般人口における生涯有病率は、0.9%程度であるといわれ、患者さんの約7割は発作で救急外来を受診しています。男女ともに起きますが、女性の罹患率が2倍程度高いといわれます。好発年齢は、20〜40歳であるとのことです。

パニック発作の症状では、動悸・頻脈、息苦しさ・過呼吸、死の恐怖が最も多く、そのほか悪心、めまい感、手足のしびれ、冷汗、気が狂う恐怖なども起こりえます。大きく分けて、突然の強い不安感(死ぬのではないか、気が狂ってしまうのではないかという恐怖)と自律神経症状(動悸、頻脈、呼吸困難、発汗、息切れ、胸腹部不快など)が起こる、と考えられます。

こうした発作は反復性に生じ、慢性に経過していきます。症状の再発を恐れる「予期不安」を伴うことが多く、さらに発展して広場恐怖に至ることも多いです。

広場恐怖とは、助けが容易に得られない場所にいることへの恐怖です。1人で戸外や混雑の中にいたり、バスや電車で移動しているときに起こることが多いようです。このような状況を回避するため、1人では外出をしなくなったり、重度になると家にこもりっきりになってしまうこともあります。

1回の発作は通常数分〜30分、長くとも1時間以内に自然に消失します。発作が反復するうちに予期不安が形成されます。

パニック発作の治療


治療としては、以下のようなものがあります。
治療としては、まず疾患教育を十分に行い、発作そのものに生命の危険はないことを保証する(しっかりと納得してもらう)ことが重要です。それでも不安状態がなかなか治まらない場合は抗不安薬(ジアゼパム)を静注することもあります。

こうした発作が出現する時のために、抗不安薬(ワイパックスなど)を持参してもらうことも、安心につながるようです。

他には、薬物療法と精神療法があり、様々な治療が有効性を認められています。薬物療法では、発作の抑制を目的に抗うつ薬(SSRIや三環系抗うつ薬・スルピリド)が用いられ、不安感の軽減を目的にベンゾジアゼピン系抗不安薬が用いられます。精神療法としては、認知行動療法などがあります。

これらの薬物には明確な有効性があり、特に適切な患者教育と指導と併用した場合の有効性は極めて高いといわれています。また最近は、新型抗うつ薬であるSSRIの有効性が語られることが多いです。基本的に、パニック発作が治療されれば、広場恐怖も時間とともに改善されることが多いようです。

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