Thomas Jefferson Universityで内科的腫瘍学を専門とするBarbara Campling教授らの研究によると、長年喫煙者であったものの肺癌の診断を受ける前に禁煙したという患者の多くは、肺癌のほかの症状が出る前に禁煙しているとのこと。慢性的なせきや息切れなどといった喫煙を困難にする症状によりタバコをやめたわけではなく、自発的禁煙は肺癌とかかわる何らかの機序による初期症状であると考えられるそうです。論文はJournal of Thoracic Oncology誌の2011年3月号に掲載されています。

「多くの肺癌患者が診断を受ける前にタバコをやめていることは広く知られています。この所見はこれまで、患者たちはせきなどの症状が出たためタバコをやめたのだろうと片付けられてきました」とCampling教授は語っています。

「今回の研究では、診断前に禁煙した肺癌患者の大多数は肺癌の症状があらわれる前にタバコをやめていることが明らかになりました。さらに、過去に何度も禁煙に失敗した経験があるにもかかわらず肺癌の診断前には苦労することなく禁煙できたという患者が多いことも判明し、自発的禁煙が肺癌の初期症状であったケースもあると考えられます」

Campling教授らがPhiladelphia Veterans Affairs Medical Centerの肺癌患者115名(全員が喫煙者)に聞き取り調査を行った結果、55名(48%)は肺癌と診断される前にタバコをやめていて、そのうち禁煙前から肺癌の症状を経験していたのは6名(11%)のみだったとのこと。また、肺癌前にタバコをやめた患者も吸い続けた患者と同様にニコチンに依存していたのですが、やめた患者の31%はまったく困難を感じることなく禁煙することができたと報告しています。

比較のため、喫煙歴があり病気の診断の前あるいは発作を経験する前にタバコをやめている前立腺癌患者と心筋梗塞経験者にも聞き取り調査を行ったところ、禁煙から診断までの期間の中央値は肺癌で2.7年、前立腺癌では24.3年、心筋梗塞の場合は10年と、肺癌患者は診断される「直前」にタバコをやめている傾向があり、肺癌と禁煙の関連がうかがえます。

肺癌患者の「自発的禁煙」は肺癌の初期症状であると考えられ、ニコチン依存を阻害するような成分が腫瘍から分泌されるのではないかと研究者たちは推測しています。

「長年タバコを吸ってきた人が急にやめると癌になる」というわけではなく、「長年ヘビースモーカーだったのに突然禁煙に成功した人は、癌の症状としてタバコを吸いたくなくなった可能性がある」ということなので、喫煙者の人は「タバコがまずくなる日を待つ」のではなく今日からでも禁煙した方が健康リスクを減らせるということに変わりはありません。

この「自発的禁煙」が肺癌の初期症状である可能性を喫煙者本人やその家族が知っておくと、肺癌の早期診断につながることもあるかもしれません。
(「思ってたより簡単に禁煙できちゃった」という人は要注意、肺癌の初期症状かもしれません)

「過去に何度も禁煙に失敗した経験があるにもかかわらず肺癌の診断前には苦労することなく禁煙できたという患者が多いことも判明し、自発的禁煙が肺癌の初期症状であったケースもあると考えられます」とのことです。

その理由として、「ニコチン依存を阻害するような成分が腫瘍から分泌されるのではないか」と考えているようです。それが事実かどうかはまだ不明でしょうが、病気を機にタバコを止める、という方のほうが多いようにも思います。是非とも、病気になる前に禁煙を心がけていただきたいと思います。

肺癌の症状や診断については、以下のようなことがいえると思われます。
肺癌の症状としては、他の癌腫と同様に早期では無症状のことが多く、進行期になると多彩な症状を呈することになります。

全国肺癌登録4,931例の分析によると、症状としては咳がもっとも多く、49.3%となっています。その他、痰(23.7%)、血痰(19.0%)、胸痛(15.8%)、呼吸困難(6.3%)、やせ(5.8%)、発熱(4.8%)、嗄声(4.0%)の順で症状がみられますが、無症状の方も17.5%いらっしゃいます。

肺門型(気管が肺に入る入口付近)の肺癌では咳・痰などの症状が出やすく、肺野型(肺門から離れたところにできた癌)では無症状・健診発見が多いと言われています。

肺門型であると、咳、痰が早期からみられ、血痰も早期にみられることがあります。また、進展するにつれ喘鳴、呼吸困難をみることがあります。区域あるいは肺葉性の閉塞性肺炎を起こすこともあり、発熱、せき、痰などの肺炎症状を呈することもあります。

胸郭内隣接臓器への浸潤、転移によるものとしては、胸痛や胸水貯留(原発巣の胸膜直接浸潤、癌性リンパ管症による胸膜リンパ流のうっ滞)、Horner症候群(交感神経圧迫による顔面の発汗、瞼の下垂、神経損傷のある側の瞳孔縮小などがみられる)、患側上肢や胸部の激痛、運動麻痺(Pancoast腫瘍)、横隔膜麻痺、不整脈、心タンポナーデ、上大静脈症候群(頭頸部や上肢の浮腫、表在静脈の拡張が起こる。上大静脈への浸潤による)などが起こります。

咳、痰などの症状がある場合、まずは胸部レントゲン写真撮影を行います。次に、癌かどうか、あるいはどのタイプの肺癌かを調べるため、喀痰細胞診、穿刺吸引細胞診などによる細胞診、気管支鏡や経皮的肺生検(CTガイド下肺針生検)などを行って組織診を行います。

胸部CTでは、単純胸部X線で描出できない小結節、肺門、縦隔リンパ節転移、隣接臓器浸潤、胸膜播種、他臓器転移を明確に描出することができます。CT画像でみられる悪性病変の特徴は、胸部X線の場合と同様ですが、さらに鮮明な画像が得られます。肺野末梢型の孤立結節影の画像上の鑑別診断には、thin slice CTが有用です。

気管支ファイバースコピーは、咳、痰、血痰などの症状で肺癌が疑われる症状を有する場合、または胸部画像診断で肺癌が疑われる場合が対象となります。こうした場合、さらに生検が行われ、組織学的に検査が行われることもあります。また、経皮的肺生検(CTガイド下肺針生検)が病理学的な診断に用いられることもあります。ほかにも、ファイバースコピーあるいは透視下、CTガイド下針生検で診断のつかない場合、VATS生検や開胸生検を行い確定診断を得ることもあります。

血液検査や胸水検査で、腫瘍マーカーが測られることもあります。腫瘍マーカーとは、腫瘍細胞などが産生する物質で血液を中心とする体液、排泄物組織などに見い出され、腫瘍の存在、性状、進展度を示唆する蛋白質です。

肺癌では、CEA、NSE、Pro GRP、CYFRAなどが上昇する場合があります。通常、血漿または血清中の濃度を検討することが多いです。

ですが、いずれも特異性、感受性に問題があり、特定診断に用いることはできません。主として治療効果判定や再発の有無のチェックに用いることが多いです。

【関連記事】
肺癌で化学療法、放射線治療を受けていた−ジョー山中さん

肺癌と診断され、抗癌剤治療を受ける−井上ひさしさん

肺癌に対する化学放射線療法の末、亡くなる−勝野七奈美さん