大事な会議など緊張の場面にかぎってお腹がゴロゴロ、キュー。あるいは電車内などトイレに駆け込めない場所で突然もよおして脂汗がタラタラ…。そんな症状を伴う過敏性腸症候群(IBS)は、患者数が国民の約1割と推計されているにも関わらず、放置されているケースが多い。

人気お笑い芸人も番組でネタにするほど一般的だ。にもかかわらず、医療機関で正しい診断が行われていないのが現状。この際、きちんと治そうではないか。

【大腸は正常でも腹痛】
緊張するとお腹が痛くなるのは、珍しい話ではない。お笑い芸人でも、雨上がり決死隊の蛍原徹、ケンドーコバヤシ、中川家の弟・中川礼二、有吉弘行、笑い飯の西田幸治などが、自称「OPP(お腹ピーピー)芸人(アメトーークDVD11)」といってネタにしているほどだ。

では、どういう症状がIBSなのか。

先日、IBSプレスセミナーで講演を行った兵庫医科大学内科学講座(上部消化管科)の三輪洋人主任教授は説明する。

「過去3カ月間に、月に3回以上に渡り、腹痛や腹部の不快感が繰り返して起こるというのが、診断基準になります。その状態で、
1) 排便によって症状が軽減される。
2) 1日に何度もトイレに行くといった排便頻度の変化
3) 下痢や硬い便など形状の変化

のいずれか2項目以上があると、IBSである可能性が高い」

補足:
過敏性腸症候群とは、「腹部不快感や腹痛が、排便または便通の変化に伴って生じ、臨床像としては排便障害を呈する機能性消化管障害の1つ」と定義(Rome )されています。便通異常(便秘、下痢、交替性)が持続し、種々の腹部症状を訴えますが、腸管に器質的な病変はなく、機能異常によって起こると考えられます。

診断基準(Rome )としては、
過去3ヶ月間、月に3日以上にわたって腹痛や腹部不快感が繰り返し起こり、次の項目の2つ以上がある。
1)排便で症状が改善する。
2)排便回数の変化を伴う
3)便の性状の変化を伴う
6ヶ月以上前から症状があり、最近三ヶ月間は上記の基準を満たしていること。
腹部不快感は、痛みとは表現されない不快な感覚を意味する。
病態生理学的研究や臨床研究に際しては、週に2日以上の痛み/不快感があるもの的確症例とする。

となっています。ちなみに、児童・青年期(4〜18歳)の診断基準は別途あります。
IBSの人は、大腸にはポリープなどがなく、正常であることも特徴だそうだ。

【約10年もガマンして】
大腸は正常であっても、緊張するとお腹がゴロゴロ。「ストレスがお腹にくる」と自覚はしていても、どうしたらよいのかわからない。そんな実態が、三輪教授のインターネットを用いた調査で明らかになった。

日本全国の20〜60代の一般生活者1万人を対象としたアンケートでは、IBS該当者が症状とつき合っているのは平均約10年間。今年5月に行った調査では、IBS該当者1341人のうち医療機関を受診した経験を持つ人は29%だった。

「IBSの認知にはほど遠く、どういう病気かを理解している人が極めて少ない。しかし、調査結果では、IBS患者さんが症状によって、仕事の能率低下や、日常活動の障害など、OQL(生活の質)を損なっているのは明らかです」(三輪教授)

過敏性腸症候群の治療としては、以下のようなものがあります。
【治療薬はあるけれど】
IBSでは、緊張するとお腹に症状が出てしまう。その理由は、セロトニンという神経伝達物質が関係しているという。脳などの中枢神経に存在しているセロトニンは、わずか1〜2%で、残りの約90%は腸内にある。ストレスによって腸のセロトニンが分泌されると、腸のぜん動運度が異常をきたすことで、IBSの症状は起こるそうだ。

このセロトニンによる異常な状態を改善するため、2008年にセロトニン5−HT3受容体拮抗剤(製品名・イリボー錠)が発売された。医療機関では、IBS治療剤として使われているが、三輪教授の調査では、IBSと正しく診断されているのはわずか6%にすぎない。受診者が少ないだけでなく、医療機関でも正しい認識に乏しいのが実態のようだ。

「日本消化器病学会では、一般の医療機関で診断を行いやすいように、IBSの診断と治療のガイドラインの作成に着手しています。IBSではないかと思われる方は、日本消化器病学会の専門医を受診していただきたいと思います」(三輪教授)

急な下痢を止める一般用医薬品も人気だが、それは「応急処置にしかならない」と三輪教授はいう。
(仕事中に腹痛…過敏性腸症候群は薬で治る)

補足:
心理的治療と生活指導を基盤にして、そのうえで消化器症状に応じた薬物治療を行います。過労を避け、十分な睡眠をとり、規則正しい日常生活が必要となります。

こうした生活指導や環境調整をはかり、食事指導として高線維食を勧めます(高線維食は特に便秘型に効果があるといわれています)。下痢、便秘、腹痛の強いときに薬物治療は有用です。線維製剤であるポリカルボフィルカルシウム、抗コリン薬、およびトリメブチンなどには効果が期待できるといわれています。

抗不安薬は、一時的なストレスにより不安・緊張感が生じた場合や、身体症状がさらに不安を増すといった症例で適応となります。抗うつ薬のうち三環系抗うつ薬は、抗うつ作用のほかに抗コリン作用もあり、腹痛と便通異常にも効果が期待できることから使用されることもあります。

こうした治療に加え、下痢型の人にはポリカルボフィルカルシウム製剤が使用されています。これは、人工の食物繊維で、下痢の場合は吸水性、便秘の場合は保水性を発揮して腸管内の便の形を整えます。ただ、効果が表れるまでに1〜2週間かかり、腹痛や腹部不快感は改善しにくい難点がありました。

これに対し、ラモセトロン塩酸塩錠は、即効性や腹痛の軽減効果が期待されます。セロトニンの働きを抑えることで、腸管の過剰な運動や、過敏になった腸の痛覚が脳に伝わるのを防ぐ作用があります。

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