1985年、イギリス・ノーフォーク州に動物が大好きなクレア(11歳)という少女がいた。家の近くの牧場によく遊びに行っていたクレアは、人間の都合で動物が殺されるのが辛く、ある日から肉を食べるのをやめベジタリアンになった。

それと同じ頃、イギリスのある牧場でBSEにかかった牛が発見された。当時、病気にかかった牛たちは、その様子から狂牛病と呼ばれ、その被害はイギリス全土に拡大していった。1987年、イギリス政府はBSEの原因を牛の飼料の肉骨粉とし、肉骨粉の使用を禁止した。すると、事態は収束に向かった。

数年後…クレアは22歳になり、ペットショップで売り場の責任者として働いていた。さらに、彼女はサムと言う男性と婚約し幸せな生活を送っていた。しかし、彼女の体には異変が起き始めていた。
1) 自身の感情をコントロールできなくなり、急に泣きだしたり恋人や同僚に強い口調で責めだしたりすることがみられる(前頭葉の変化)。
2) 視力が弱くなり、視野の異常もみられていた(後頭葉の変化)。
3) 口の周りの感覚が無くなり、味覚も次第に弱くなっていった(視床の変化)。
4) 体が勝手に動き、てんかん様の発作がみられるようになった(頭頂葉の変化)。
5) 虫が這っているという幻視
6) 精神科病棟に入院中、自傷行為に及んだ後、意識障害がみられた(大脳全体の萎縮による)。

当初、原因不明とされたこの病気は、BSEにかかった牛が関係していた。ケイトは、10年以上、肉を食べていなかった。しかし、それ以前に食べた病気の牛が彼女の体をむしばんでいったのだ。

変異型クロイツフェルト・ヤコブ病と診断されたクレアは1998年に、家族に見守られて自宅で息を引き取った。イギリスでは、22人目の犠牲者だった。その後、様々な対策の結果、世界中でBSEの発生は激減した。日本国内ではBSEが原因での変異型ヤコブ病の発症は一切なかった。

変異型クロイツフェルト・ヤコブ病とは


クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD;Creutzfeldt-Jakob disease)とは、1920年代にCreutzfeldtとJakobが報告した疾患で、1) 認知症と2) ミオクローヌス、3) 脳波上の周期性同期性放電(PSD)を3主徴とします。異常プリオン蛋白(PrP)を感染因子の本体とするプリオン仮説が有力です。

変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(変異型 CJD)は、ウシ海綿状脳症(BSE)に感染している肉製品を摂取することにより発症する伝播性の海綿状脳症と考えられています。

症状としては、
第I期:抑うつ、体重減少、睡眠障害などの非特異的症状で発症する例があります。精神症状と高次脳機能障害(記銘力・計算力低下、失見当識、行動異常、性格変化、失行、失認、幻覚など)、運動失調、不随意運動、歩行障害、めまい感、眼振、眼球偏位、複視、視覚異常(半盲、皮質盲)などが生じる。


第II期:数か月以内に精神症状、高次脳機能障害が悪化し、情動障害、認知症、妄想、失行などが進行。筋強直、深部腱反射亢進、病的反射陽性、Gegenhalten、構音・嚥下障害、眼球の異常運動、尿失禁、意識障害などを認める。ほとんどの症例にミオクローヌスを認める。全身痙攣や振戦を伴うことあり。


第郡:起立・歩行が不能になり、発病より3〜7か月で無動性無言状態に陥る。四肢の自発運動はなくなり、屈曲、拘縮、除皮質または除脳状態となる。


診断としては、以下の様なものがあります。
血液,髄液などの一般検査は異常ありません。髄液のneuron specific enolase(NSE)は初期より高値を示しますが、特異性に乏しいです。髄液中の「14-3-3 protein」の上昇は感度、特異度ともに高い(感度92%、特異度94%)です。

頭部CTでは、初期には異常なく、萎縮に比較して認知症症状が強いときにはプリオン病を疑います。末期には進行性脳萎縮を認めます。頭部MRIでは、T2強調像、プロトン強調像にて両側線条体前部のびまん性高信号を認める例があります(感度67%、特異度96%)。拡散強調像にて早期から皮質の高信号が認められることが多いです。

脳波では、病初期、末期にはPSDを認めないことが多いです。検査を繰り返し行うと、3相あるいは多相性で0.5〜2Hzの周期性放電が検出されます。

再現VTRでは、脳波検査でほとんど脳波を認めず、神経内科医がCJDを疑っていました。その後、胸腺の生検でCJDの確定診断がついています(変異型 CJD 患者さんにおいて直腸、副腎と胸腺で少量の PrPScが検出されています)。