京都大医学部付属病院は1日、白血球の機能が異常となる遺伝性希少疾患「チェディアック・東症候群」の8歳女児に対する母親(31)からの生体肺移植手術を2月に行い、経過は順調と発表した。同症候群での肺移植は世界初という。
 
同症候群は、感染症への抵抗力が著しく低下するため、近年は骨髄移植による治療が行われている。女児は4歳の時に母親から骨髄移植を受け、白血球の機能は正常になったが、骨髄細胞が体内の正常組織を攻撃する病気GVHDのために肺の機能が失われていた。このため京大病院は2月20日に母親から右肺の一部を女児に移植した。女児は酸素吸入なしに歩行できる状態に回復し、2日に退院する予定。母親の経過も順調という。
 
手術を担当した呼吸器外科の伊達洋至教授は「女児は、母親の骨髄を移植されているので、肺移植による拒絶反応はほとんどない。今後、通常の学校生活が送れるようになるだろう」と話している。
 
京大iPS細胞研究所は、女児の皮膚細胞からiPS(人工多能性幹)細胞を作製し、同症候群の治療法の研究を始めている。

チェディアック・東(Chediak-Higashi)症候群とは


チェディアック・東(Chediak-Higashi)症候群とは、「白血球その他の細胞の原形質内の巨大顆粒の存在と毛髪、皮膚、眼底の部分白子症を特徴とする常染色体劣性遺伝を示す免疫不全症」と定義されています。白血球のうち主に好中球の機能異常を認める疾患です。

要は、好中球が細菌を取り込みはしますが、殺菌できないために免疫力が低下する病気です(白血球の中の、好中球は細菌の貪食(取り込み)後、食胞(phagosome)を形成しますが、本症ではこの食胞と巨大顆粒との融合が障害され、顆粒・酵素の食胞内放出が障害されるために、殺菌能低下が起こるとされています)。

なお、同様の機序で、NK細胞活性や細胞傷害性T細胞機能の低下をきたし易感染性となる.本症の動物モデルとしてアリュウシャンミンク、牛、ネコ、シャチ、ベージュマウスなどが知られており、種の如何を問わず責任遺伝子の相同性が証明されています。

マウスのbe-geneに相当する遺伝子は、ヒトでは1q42-44に座位する巨大な遺伝子(13,449bp)で、その機能からLyst(lysosomaltraffickingregulator)と命名されています。これまでのところ、チェディアック・東症候群の方では、例外なくLyst内に遺伝子変異が見つかっています。

好中球は破壊亢進により減少し、殺菌能、遊走能の低下がみられます。しかし、NBT(nitrobluetetrazolium)還元能や活性酸素産生能は正常で、この点が慢性肉芽腫症とは異なります。

日本では、2000年現在18人が厚生省免疫不全症調査研究班に登録されており,本症の平均寿命は6歳前後とされています。
症状としては、
1) 皮膚、毛髪および眼底の部分的白子症(メラノソームの凝集による)
2) 白血球およびその他の体細胞における原形質内の巨大顆粒または巨大ライソゾームの存在
3) 乳児期からの重症感染症の反復
4) 増悪期には発熱、肝碑腫、リンパ節腫大、血球減少など血球貧食症候群の症状(EBV感染後に発症する場合が多い)
5) 知能障害や痙攣、小脳失調,脳神経・末梢神経障害などの神経学的異常

を特徴とします。