iPS細胞を使って目の網膜の一部を再生し、病気で失われた患者の視力を回復させる臨床研究について、厚生労働省の審査委員会は、計画の内容に妥当だとして実施を了承しました。来年夏にも、iPS細胞から作った網膜の組織を患者に移植する世界で初めての手術が行われる見通しになりました。

この臨床研究は、「加齢黄斑変性」という重い目の病気の患者の網膜の一部をiPS細胞を使って再生し、失われた視力を回復させようというもので、神戸市にある理化学研究所などの研究チームが、ことし2月、厚生労働省に実施を申請しました。

厚生労働省の審査委員会は、26日、非公開で3回目の審議を行い、追加で提出を受けた安全性のデータも含め、倫理面や技術面から研究計画の妥当性を検討しました。その結果、計画の内容は妥当だとして計画書の一部修正を条件に臨床研究の実施を了承しました。

26日で、国による研究計画の実質的な審査は終了し、研究チームは今後、厚生労働大臣の了承を得て、臨床研究に参加する患者を選ぶ作業に入ります。そして、来年夏にも、神戸市にある先端医療センター病院でiPS細胞から作った目の網膜の組織を「加齢黄斑変性」の患者に移植する世界で初めての手術が行われる見通しです。
(初のiPS臨床研究 国審査委が了承)

加齢黄斑変性とは


加齢黄斑変性は、50歳以上の人の黄斑部に生じる疾患です。黄斑部とは、目の「網膜」の中心にあり、水晶体を通して入ってきた光線が映像を結ぶ網膜の中心です。 モノを見る細胞である視細胞が集まっている場所です。初期には中心暗点(視野の中心部が見えにくくなります)、変視症(物の形状などが実際と異なって、ゆがんだりして見える症状)、視力低下を自覚しますが、進行すると高度な視機能障害に至ることも多いです。

萎縮型と滲出型に大別でき、萎縮型加齢黄斑変性の進行は緩徐ですが、有効な治療法は存在しません。滲出型加齢黄斑変性は中心窩近傍に脈絡膜新生血管を生じることが多く、新生血管からの滲出性変化により視機能が低下します。新生血管が中心窩下に存在するかしないかによって、治療法は大きく異なります。

診断としては、眼底検査、造影検査、光干渉断層計検査などの検査を駆使し、診断・病変の広がりをとらえることが治療法の決定・予後の推測に重要であると言われています。

加齢黄斑変性の治療


加齢黄斑変性の治療としては、以下の様なものがあります。
光線力学療法は、中心窩下に脈絡膜新生血管を伴った加齢黄斑変性に対してのみ保険適用となっています。薬物治療との併用療法(トリアムシノロンなど)も試みられています。

薬物治療(局所投与)としては、脈絡膜新生血管の発生・進展に関与する血管内皮増殖因子(VEGF)をターゲットとした薬物の眼局所投与が、現在では治療の主流となっています。薬剤が作用する期間は長くないため、繰り返し投与を要することが多いです。

網膜光凝固(レーザー凝固)は、中心窩外に境界明瞭な脈絡膜新生血管を伴った加齢黄斑変性に対しては第1選択となります。ただ、実際には、適応となる症例はそれほど多くはないといわれています。

薬物治療(内服)では、ルテイン、亜鉛、銅、β-カロチン、ビタミンC、ビタミンEなどの配合剤を内服することもありますが、進行した滲出型加齢黄斑変性には効果は少ないです。前駆段階の加齢黄斑症の段階での予防投与、他眼への発症予防のための投与には一定の効果が期待されます。

生活指導として、たばこは重要な危険因子であるため、禁煙が必要です。