今年で歌手デビュー40周年を迎えた高橋真梨子(64才)は、その40年間のうち35年連続で全国ツアーを行ってきた。しかし、その裏側にはあまり語ることのなかった苦悩の日々があった。the best 高橋真梨子

1972年に音楽バンド「ペドロ&カプリシャス」の2代目ボーカルにスカウトされ、1973年にデビュー。その後、『for you…』『桃色吐息』『はがゆい唇』『ごめんね…』など数々のヒット曲を世に送り出し、“バラードの女王”と呼ばれてきた。その高橋が体に不調を感じ始めたのは1996年ごろのこと。

「最初に何か変だなと思ったのは47、48才のころです。やる気がなくなったというか、今まで一生懸命やっていた掃除とか些細なことが手につかなくなったんです。何か変だなという感覚はあちこち出てきて、どこも悪くないのに頻尿だったり、お腹が痛くなったり、ホットフラッシュが出たり。そんなときに親知らずを抜いたり、歯の治療をしたことで体調がさらに悪化してしまって…」(高橋)

40代の後半から50代の閉経前後の約10年間、女性ホルモンが減少し卵巣の働きがゆっくりと衰えていく更年期。脳が女性ホルモンの分泌を促しても卵巣が応えられないため、脳がパニックを起こし、自律神経の乱れから体にさまざまな不調(更年期障害)が生じる。急に体が熱くなるホットフラッシュや、頭痛、耳鳴り、吐き気、動悸、めまい…その症状は100以上にのぼるといわれる。個人差はあるものの、多くの女性が最初は何かの病気なのではないかと不安に襲われる。

「ご飯も、飲み物ものどを通らなくなって、胃もムカムカする。食べ物も飲み物も見るのも嫌なくらい。病院で胃を診てもらっても何も悪いところはない。結構、ドクターショッピングもしましたよ。内臓や胃とか、MRIやCTも撮ったり、とにかくいろいろ診てもらったけど、別に悪い箇所はなく、結局、そういう年齢なんだと」(高橋)

更年期障害は、体だけでなくメンタル面にもイライラや倦怠感などの症状を引き起こす。そこからうつ症状などに悩まされる人も少なくない。高橋もそのひとりだった。仕事も3か月ほど休み、外にも出ず、家で寝たきり状態になってしまったという。

「仕事も、したいとは思うんですが、思うように体が動かない。じっとしとくしかない。でもじっとしているのが嫌で、イライラする。いざ動こうとすると動けないんです。今はホルモン補充療法なども一般的になりましたが、私たちの年代の人はあまり…ね。たまに精神安定剤や食欲の出る薬をのむ程度でした」(高橋)

そんな苦悩と闘う彼女を、ずっとそばで見守り、支えてきたのが、夫であり、彼女のプロデューサーでもあるヘンリー広瀬(69才)だ。互いに“戦友”といって共に歩んできたが、1993年にふたりは結婚した。当時の高橋を、ヘンリーはこう見ていた。

「食べられないからステージに立てない、食べられないから歌うことができなくなるっていう恐怖感が自分の中で膨れていったみたいで。その葛藤がどんどんひどくなってうつになってしまったんですね」
(高橋真梨子 更年期障害に伴う「うつ」「寝たきり」を告白)

更年期障害とは


更年期障害とは、更年期(閉経の前後約5年)に現れる多種多様の症候群で,器質的変化に相応しない自律神経失調症を中心とした不定愁訴を主訴とする症候群を指します。

原因としては、性腺機能の変化が視床下部の神経活動に変化をもたらし、神経性・代謝性のさまざまな生体変化を引き起こすことによると考えられています。一方で、更年期では、心理的・社会的にも不安定な時期であるため、その発現には社会的・心因的要因も大いに関与するといわれています。

具体的には、エストロゲン濃度の低下により、negative feedback機構が作動し、視床下部からLH-RHを、下垂体からはゴナドトロピン(LF、FSH)の過剰放出を促します。この機能亢進状態は視床下部に存在する自律神経中枢へ影響を及ぼし、自律神経失調の状態となると考えられます。

一方、心理的・環境的な要因は大脳皮質−大脳辺縁系を刺激するため視床下部の自律神経中枢にも影響を及ぼし、自律神経失調症を発症すると思われます。

症状としては、
・ホットフラッシュ(熱感、のぼせ、発汗)、不眠などを中心とした自律神経失調症状
・不安感、抑うつ、恐怖感、疲労感などの精神神経症状
の2つに大別されます。
このような症状は、上記でも現れており、更年期障害と言っても差し障りはないようにも思われます。

その一方で、「更年期うつ病」(初老期うつ病)といった言葉もあります。女性では閉経期に現れるうつ病で、これを更年期うつ病と言う場合もあります。女性だけでなく、男性にもみられます。

ですが、精神障害の診断と統計の手引き (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)や疾病及び関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)では認めておらず、正式な病名としては次第に用いられなくなっています(躁鬱病に含まれています)。

不安、焦燥が強く、抑制が目立たない特徴もありますが(激越性うつ病といいます)、これは初老期にかぎらず老年期のうつ病でもみられます。不安、焦燥の背後に心気妄想、罪業妄想があることがあり、自殺企図の危険も高いので注意を要します。

更年期障害の治療


更年期障害の薬物療法として頻用されているものは、ホルモン補充療法と漢方療法があります。ほかにも、抗うつ・抗不安薬などが用いられます。

ホルモン補充療法の適応となる症状は、のぼせ、ほてり、発汗、抑うつ、不眠、腰背痛、神経質、頭痛、手足のしびれなどです。一方、漢方療法の適応となる症状は、倦怠感、冷え、のぼせ、ほてり、発汗、腰背痛、神経質などがあります。また、精神神経症状が主な場合や卵巣機能が温存されている女性、エストロゲンが使用できない症例などで抗うつ・抗不安薬などが用いられます。

ホルモン補充療法は、子宮摘出後の女性の場合にはエストロゲン単独投与(ERT)でよいですが、子宮を有する女性には子宮内膜過形成の発症を予防する目的でエストロゲンに黄体ホルモンを併用する必要があります(HRT)。実際の方法としては両者を持続併用投与する方法と、周期的に黄体ホルモンを併用する周期的投与法があります。

ただ、副作用として若干ですが乳癌、血栓症のリスクが高まることや不正性器出血や乳房緊満感があります。また、骨粗鬆症や動脈硬化に予防的に作用するといわれてきましたが、現時点では原則として更年期障害にのみ適応であり、HRTは少量で短期間の投与が推奨されています。

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