ザ!世界仰天ニュースで取り上げられていた内容です。

1998年、アメリカ・ニューヨーク州。マンハッタンにある不妊治療クリニックを訪れていた一組の夫婦。妻ドナ・ファザーノと夫のリチャード。2人とも子宝に恵まれず、ここ数年、このクリニックで治療を受けていた。二人の治療にあたっていたのは、リリアン・ナッシュ医師。医師の薦めで体外受精に挑戦することになった。3日後の4月24日、受精卵がドナの体内に戻された。1ヵ月後、無事妊娠。

しかし妊娠して、しばらくたってからドナの元に一本の電話が…電話は不妊治療のナッシュ医師からだった。別の夫婦の受精卵を移植したようで別の夫婦の受精卵が育っている可能性があるという内容だった。

ドナの卵子は別室に運ばれ、夫の精子と受精させた。担当はバイオ師のマイケル・オバサジュ。受精卵を培養器に入れ、3日間にわたって様子が見守られた後、受精卵をドナに戻す日にオバサジュは、受精卵を妊娠しやすい物と妊娠しにくい物に分けたのだが、この時、実は別の夫婦の受精卵の選別も行われていたのだ。

手術室で待つドナに戻すため妊娠しやすい受精卵だけを抽出していたのだが、妊娠する確率を上げるため、勝手に捨てるはずだった妊娠しにくい受精卵も混ぜようとしていた。そのとき、あろう事か別の夫婦の、妊娠しにくい受精卵を間違って混ぜてしまった。

結果、ドナには自分の受精卵と別の夫婦の妊娠しにくい受精卵が子宮に戻されてしまった。その後、オバサジュは自分の犯したミスに気付いたが、黙っていてもバレないだろうと判断して、誰にも伝えなかった。ところが、1ヵ月後…妊娠していることを知ったオバサジュは、これ以上は隠しておけないとナッシュ医師に打ち明けたのだった。

検査をしたところ、ドナは双子を妊娠していた。さらにDNA検査を行ったところ、1人はドナ夫婦の子供であったが、もう1人はDNAが一致していなかった。中絶か、それともこのまま2人を産むのか、ドナは苦悩した。結果、ドナは二人とも産むことを選択した。

1999年3月、ドナは双子を産んだ。二人とも自分の子供として愛した。だが、平温で幸せな日々は長く続かなかった。出産した2か月後に、双子の一方、ジョセフの「生物学的な母親」であるデボラが、ファザーノ家に連絡してきた。実は、ナッシュ医師は双方に、起こった医療ミスを打ち明けていた。しかも、生物学的にはデボラの子供(ジョセフ)である受精卵が育っていた、ということも伝えてあった。子供が欲しいという一心で、デボラたちは探偵を雇い、ドナたちが自分たちの子供を妊娠、出産していたことを突き止めた。

かかってくる電話に、ドナは拒否し続けた。そして、ついには裁判へと発展。ドナたちが住むニューヨーク州では、遺伝学的なつながりを親子として認定する、強い理由とするため、ドナたちは劣勢と判断。

「この子(遺伝的につながりがない)が、もし成長して自分のが実の子ではない、と知ったらどう考える?この子は、どこにいるべきなんだろう」という夫の諭しに、月に一度および夏休みは一週間会える、という面会権と引き替えに、子供を引き渡すことに応じた。

裁判での合意をみた後、ついにその日はやってきた。双方の弁護士立ち会いの下、子供が受け渡される日が来た。ドナは、子供を離すことができなかった。自分が産み、その日まで『我が子』であった子供と引き離される。その辛さは、まさに身を切られるような思い。止めどなく流れる涙を抑えることができなかった。

その後ジョセフはアキールと改名、幸せに暮らし始めた。しかしロジャーズ夫婦がファザーノ家を訪れ、アキールと面会した際、デボラはドナがアキールという名を無視してジョセフと呼ぶ事に深く傷ついたと主張し、後に面会権を却下する訴えを起こし面会権を失った。両夫婦ともクリニックから多額の示談金を受け取ったが、双方の家族に悲しい記憶を残した。


生殖医療における体外受精(In Vitro Fertilization:IVF)とは、不妊治療の一つで、通常は体内で行われる受精を体の外(シャーレ上)で行う方法です。受精し、分裂した卵(胚)を子宮内に移植することを含めて体外受精・胚移植(IVF-ET)といいます。

自然での人間の周期あたり妊娠率は、平均15%前後とされていますが、IVF-ETの場合、25%程度まで引き上げることができます。卵管閉塞などの器質的原因や、タイミング法・人工授精を試したが、妊娠に至らなかった場合に用いられます。

手順としては、採卵と採精をして、採卵から1〜3時間後にシャーレの中で調整済みの精子を振りかけて受精を行います。受精した卵は分割をし、翌日には受精卵として確認できます。

体外受精が成功するかどうかの1つの鍵は、どれだけ質の良い受精卵を選別することです。色がきれいで、透明感があり、形が良く、はりがあって、傷がない受精卵が着床率が良いそうです。上記のニュースでも、「妊娠しやすい受精卵、しにくい受精卵」と分けていました(ですが、「妊娠しにくい受精卵」を戻したにもかかわらず、妊娠していました)。

国内でも、すでにこの方法で約6万人が生まれたと言われています。こうした医療ミスが、もしかしたら起こってしまって可能性は捨てきれないのではないでしょうか(しかも、ほぼ日本人しか受診してないでしょうから発覚しにくい)。

もし起こってしまったとしたら、非常に痛ましい傷跡を残すことになってしまう、というニュースでした。ご両親の「子供が欲しい」という人一倍の切なる願いが、傷つけられないことを願います。

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