絹の繊維を織物の技法で筒状に編んだ人工血管を、東京農工大や農業生物資源研究所などの研究グループが作った。ラットでの実験では、移植から1年たっても血栓ができず経過は良好だ。人工血管は海外製がほとんどだが、研究グループは、日本の伝統的な材料と技法の組み合わせで国産の巻き返しを狙う。

人工血管には、生体になじみやすいことに加え曲がりやすくつぶれにくい特性が求められる。市販品はポリエチレンなどの合成繊維製や合成樹脂製が主流だが、直径2ミリ以下の細い人工血管は血栓ができやすかった。

朝倉哲郎・東京農工大教授(構造生物学)らは、絹が手術の縫合糸に使われ、生体へのなじみやすさと強度を兼ね備えていることに着目。「組み」や「巻き」と呼ばれる織物の技法を活用し、絹(太さ約30マイクロメートル=マイクロは100万分の1)を筒状に編んだ。これを絹の繊維を溶かした液に浸し、すき間を繊維でふさいだ。

出来上がった人工血管(直径1.5ミリ、長さ1センチ)は、東大病院でラットの腹部大動脈に移植。1年後も血流は良好で、血栓もなかった。血管の内側には、生体になじんだことを示すたんぱく質の層もできていた。

グループはブタなどの大型動物で実験を重ね、人での実用化を目指す。絹を軟骨や角膜を再生するための土台に使う研究も進める。朝倉教授は「絹には血栓の形成を抑制する働きがあり、再生医療の素材や生体材料として有用だ」と話している。
(人工血管:絹の繊維を織物技法で筒状に)


人工血管は、大動脈解離や大動脈瘤などの疾患で用いられます。
手術に用いる人工血管の材質は Dacron とよばれる化学繊維で織り込んで作ったものやGoreTexという撥水性材料で作られた筒状構造のものです。

Dacronの織物の場合は、血液が折り込みの目から 漏れることで出血がおこるわけですが、最近の人工血管材料の場合、筒の外表面にコラーゲンやゼラチンを”塗って”出血がおこらないようにしたものとなっており、吻合部以外か らの出血の問題はほぼ完全に解決されています。このような人工血管の耐用性は非常に長く、人工血管の劣化によって再手術を要するような事態になることはありません。

今回の発見では、さらに血栓形成も抑制されたようです。
生体への生着率も良さそうなので、実用化が待たれます。

【関連記事】
縫い合わせ不要の角膜再生技術を開発

がん予防成分を理研グループ、合成の仕組みを解明