来年の大統領選挙に向けて、民主党の党内選挙が白熱してきている。争点はイラク戦争の終結と、連邦政府による何らかの健康保険制度の確立だ。

アメリカは先進国で唯一、国民皆保険制度を持たない国である。超貧困者と高齢者向けの、穴だらけの健康保険制度はあるものの、一般の勤労納税者層のための制度がないのだ。

彼らはどうしているかというと、ほとんどは自分が働く企業を通して、儲け主義の民間保険会社のグループ健康保険に加入している。このコストがすごい。ひとりにつき毎月最低400ドル(約4万8000円)、高いもので800ドル(約9万6000円)以上の掛け金。毎年約20%ずつ値上げされる。社員の分は会社がある程度負担するが、家族の加入金額は、全額社員の個人負担だ。

個人健康保険はもっと高い。ひとりでまともな保険に入ろうと思ったら、毎月最低800ドルだ。だれがこんな金額を払えるっつーのか。保険制度を理由に帰国を決めた在米邦人も多い。

では民間保険を持っていれば自由自在に医療を受けられるのかというと、とんでもない。加入した保険会社と提携している医師、病院でないと診てもらえないし、治療内容によっては保険がカバーしない。糖尿病などの既往症がある人は保険に加入することもできない。

マイケル・ムーア監督の最新ドキュメンタリー映画で、アメリカの医療保険制度を叩いた「SiCKO」は、アメリカ社会に大きな波紋を広げている。電気ノコギリで中指と薬指を切断した人に、病院側が「健康保険持ってないって? じゃあ接続手術は中指6万ドル、薬指1万2000ドル。どっちにする?」。
(「健康保険制度」を作ってくれる大統領を待ち望んでいる)


「SiCKO」とは、病気の俗語とのこと。医療をテーマに取り上げていると言うことや、「社会的に病んでいる」といった利益優先のシステムを批判してのことを指してのタイトル、と勝手に思っていたりします。

アメリカにおける健康保険のシステムとしては、会社の補助があれば保険料月175ドルといった価格で入れるにもかかわらず、個人ではいると800ドルと跳ね上がってしまうようです。また、大口の保険会社に加入した人に対しては格安で医療サービスを提供するが、無保険者には検査・治療費を高く設定する(4〜5倍が相場)、といったこともあるようです。

さらに、大観光地などの人口の多い地域は競争が激しい分、保険会社への割引率が高く、無保険者には割高だという、日本における医療のイメージとは大分かけ離れたものが存在しているようです。

医療にも市場原理を導入するべきであるといった声もあるかも知れませんが、そこはやはり一線を画すべきであると思われます。健康な時には分からないことが、そこにはあります。

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