柔道でひざ靱帯を断裂した妹(24)に、兄(28)のひざ後部から取った腱を移植する手術を健保連大阪中央病院(大阪市)が実施、成功したことが7日までに分かった。病院によると、本人以外の腱の移植は国内では珍しい。さまざまな事情で自分の腱が使えない人の救済手段になり得るという。

妹は神戸市在住。今年3月、練習中に右ひざの前十字靱帯を断裂したが、過去に両ひざの同靱帯を計4回損傷し、そのたびにひざ周囲の腱を取って移植していたため、これ以上腱を取るのが難しくなった。「柔道は幼いころから生活の一部」と話す妹は「子供に教えるなど今後も続けたい」として、同じく柔道好きな大阪市在住の会社員の兄に相談。兄が提供を決意した。

病院は兄にウイルス感染がないことなどを確認後、直径約9ミリ、長さ約6センチの円柱形の腱を6月下旬に移植した。2人とも経過は順調。妹は9月ごろにはジョギングも可能で、移植した腱は土台となり、数カ月で妹の組織と入れ替わるという。

手術した井上雅裕整形外科部長によると、腱は別の人からの移植でも拒絶反応はほとんどなく、治療成績は自分の腱の場合と差がない。提供者はひざを曲げる力が一時的に落ちるが、周りの腱が機能を肩代わりし、通常は1年以内に回復する。手術は病院内の倫理委員会が承認し、日本整形外科学会の移植に関する指針に従って行われた。兄は「柔道の夢みたいなものを妹に持ち続けてほしい」と話している。
(兄から妹へ、腱の移植成功 柔道で断裂の靱帯再建)


前十字靭帯(ACL:Anterior Cruciate Ligament)は、膝関節の中にあって大腿骨と脛骨を結ぶ強靭な紐で、関節を安定に保つ支持機構をいいます。主に、膝関節が過伸展(伸びきってしまう状態)を制限するように作用する靭帯です。

膝前十字靭帯損傷は、主にスポーツをしている人に起こります。特に、サッカーやバスケットボール、スキーなどの急激な方向転換を伴うスポーツや、ラグビーやアメリカンフットボール、格闘技など、コンタクトの多いスポーツにおいて、自分の意思とは違った方向に関節が強制的に持っていかれたり、地面に着地した際に、体重で大きく曲がってしまったときに起こります。

受傷時にはたいてい、体内で「ブチッ」と音がし、そのときには多少の困難さは有るが、歩行は可能なことが多いそうです。受傷後の翌日には、膝に多くの血液が溜まっていることが多く、こうなると歩行は困難となります。また、膝前十字靭帯は単独での損傷は少なく、たいていは他の器官(半月板、内側側副靭帯など)の損傷を伴うことが多いです。

膝前十字靭帯は、血液の流れが非常に悪い部分のため、自然治癒することはありませんが、損傷・断裂した場合でも、膝周りの筋肉を鍛えることで日常生活やレクリエーション程度のスポーツであれば問題なくこなすことができます(保存療法)。しかし、競技レベルでのスポーツに復帰するためには、手術によって再建するしか治す方法はありません。

前十字靭帯は再生することがないため、他の器官である膝蓋腱、半腱様筋腱を切除して靭帯の代わりとする再建手術が行われます。また、人工靭帯を用いることもあります。最新の術式は、二重束再建術が主です。

アスリートの中には、繰り返してしまう人もいるようです。そのため、こうした移植も必要となる場合が出てくるのかもしれません。腱は、別の人からの移植でも拒絶反応はほとんどなく、治療成績は自分の腱の場合と差がないとのこと。夢を追い続ける人を支える、こうした技術があることが喜ばしいことと思われます。

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