13年前、子供たちも独立し、夫婦水入らずで悠々自適の日々を過ごしていたT・Kさん(73)。しかし、それからほどなくして、最愛の夫が死去。彼女は自宅でぼんやり過ごすことが多くなりました。

そんな様子を見かねた娘からの提案で、家を改築し娘家族と2世帯で住むことになったT・Kさん。それから7年後、朝起きがけに声がかすれているような気がし、掃除中にそれまで軽く持てていた花瓶が持ち上がらなくなります。

さらに、買い物に出かけた時、自分でははっきり注文しているつもりなのに、なぜか相手に伝わらなくなったのです。
1)声がかすれる
最初は、朝起きて声が掠れるように自覚していました。その後、日中も声が掠れるようになりました。
2)力が入らない
以前なら持てた壺が、うまく力が入らなくなり、持ち上がらないようになってしましました。
3)声が出にくい
声が出にくく、買い物に行っても上手く伝わりませんでした。自分でははっきりと注文しているつもりでも、店員には聞こえにくいようです。

このような症状がみられ、T・Kさんはなんらしらかの悪性腫瘍を疑って耳鼻咽喉科を受診しました。

そこで検査を受けて、告げられた診断は「声帯萎縮」と、それに伴う「声門閉鎖不全」でした。

声帯萎縮とは


「声帯萎縮」とは、喉の奥にある声帯がやせ衰えてくる老化現象のことです。そもそも私たちの声は、肺から出た空気が声帯の隙間を通る際に、細かく振動することで発生します。つまり、声を出すための筋肉である「声帯」を自由自在に操ることで、声を出しているのです。

ところが年を取るにつれ、他の筋肉と同様に、声帯は少しずつやせ細っていきます。すると、二枚の声帯がしっかり閉じなくなり、隙間から空気が漏れ出すことに。その結果、「声のかすれ」や「声が出にくい」といった異変が生じてしまうのです。この状態を「声門閉鎖不全」と言います。


実は「声帯萎縮」は、誰にでも起きる可能性がある、ごく一般的な老化現象に過ぎません。では、どうして彼女は、あそこまで悪化させてしまったのでしょうか。

その原因こそ、極端な会話不足です。声帯を萎縮させるのは、老化だけではありません。あまり使わないことで、萎縮が早く進むと考えられるのです。T・Kさんの場合も、ご主人を失くして以来、会話をする機会が激減。その後、夕食の時の会話こそ増えたものの、24時間のうちのわずかな時間だけ。1日中ほとんど喋らないという生活を7年近く続けた結果、彼女の声帯萎縮は、一気に進行してしまったと考えられるのです。

また、彼女におきた「力が入らない」という症状もせこうした病状と関係あります。というのも、通常、人は吸い込んだ空気を外に漏らさないよう声帯を閉めることで、筋力を最大限に発揮します。しかし、声帯から空気が抜けると、力が入らなくなってしまうというのです。

声帯萎縮の診断


嗄声(させい[声が掠れる])がみられた場合、特に息漏れの激しい気息性の嗄声であれば、最長音声持続時間を測定します。正常では15秒以上ですが、声門閉鎖不全があれば、数秒程度で発声が停止してしまいます。

また、頸部の断層写真も役に立つことがあります。発声時と吸気時に撮影するとX線上で左右の声帯の運動量の差が観察されます。

また、ファイバースコープを用いた喉頭内視鏡を用いて喉頭を観察することも重要です。吸気および発声をさせて声帯の運動の状態を観察します。完全に不動か、また固定しているのはどの位置か、一側か両側かなど検討します。この内視鏡検査で診断は確定します。

声帯萎縮の治療


声帯萎縮の治療としては、以下のようなものがあります。続きを読む