京都府長岡京市の医師が、全身の筋肉が徐々に動かなくなる筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症した義母に十分な説明をせずに、人工呼吸器による延命措置を行わないことを決め、この女性が昨年死亡したとの報告を、専門誌に発表していたことが2日分かった。
 
日本神経学会のALS治療ガイドラインは、人工呼吸器装着の意味などについて「十分に説明することが必要」としている。終末期医療のあり方をめぐり論議を呼びそうだ。
 
医師は長岡京市で開業している神経内科医。専門誌「神経内科」平成19年5月号で、義母が死亡するまでの経緯を明らかにした。
 
同誌によると、女性は15年に発症し総合病院でALSと診断され病名告知を受けた。在宅治療を引き受けたこの医師が家族と対応を話し合い、女性に詳しい病状を伝えないことや人工呼吸を一切行わないことなどを決定。女性は病気が進んで寝たきりとなり、昨年10月に死亡した。
 
医師は同誌で、女性が日ごろ「呼吸器などはつけたくない」と言っていたと説明。「患者の自己決定権を尊重するのと正反対の『旧来型』の対応で、問題点も多くあるかと思う」と認めた上で「呼吸器装着の決定を、患者すべてに一律に求めることは妥当なのか」と指針に疑問を示している。医師は取材に対し「現段階ではコメントできない」としている。患者団体の「日本ALS協会」は「患者の命は本人のもので家族が決める権利はない」と批判している。
(長岡京の医師、難病の義母死亡 延命措置説明せず)


筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)とは、重篤な筋肉の萎縮と筋力低下をきたす神経変性疾患です。きわめて進行が速く、半数ほどが発症後3年から5年で呼吸筋麻痺により死亡する場合があります。有効な治療法は、現在、確立されていません。

この患者さんの場合、病名は告知されたものの、詳しい病状が伝えられておらず、人工呼吸を一切行わないことなどを家族のみで決定していることに問題があると思われます。

そもそも、治療を含めた医療行為全般は、他でもない患者の自己決定権が最優先されるべきです。それは、家族が反対しようとも、覆せるものではないはずです。
"「呼吸器装着の決定を、患者すべてに一律に求めることは妥当なのか」と指針に疑問を示している"とのことですが、十分な説明をせず、その上で患者自身の意見を端から無視しようとするこの対応に、疑問をおぼえざるをえません。

患者自身の意志決定能力がはっきりしているということは、"女性が日ごろ「呼吸器などはつけたくない」と言っていたと説明"とあることから、明らかであると思われます。たとえこれが、精神的に変調をきたしている状況であったのなら、この意志に乗っていることを"消極的安楽死の理由"としては挙げることができないと思われます。

それならば、十分な説明の後、しっかりと同意を確認するべきではなかったでしょうか。たしかに、悲観したままで死にゆく姿をみたくない、という家族の感情は分かりますが、それを支えるのも医師としての役割であると思われます。

果たして、この報告を専門誌に掲載することは、どういった意図があったのでしょうか。理解に苦しみます。呼吸器装着の決定権は、認識がはっきりとしている患者なら、本人にあるはずです。それを医療者や家族が決定しようとするのは、明らかに越権行為ではないでしょうか。家族間で何があったのか、詳細は分かりませんが、こうした事例が再び起こらないことを願います。

【関連記事】
「終末期医療」でガイドラインができる?

日本医学会「適性に欠ける若者は医師を志すな」と対話シンポ