慢性骨髄性白血病(CML)の進行を抑える特効薬「グリベック」の医療費支払いを負担に感じている患者が急増し、現在では7割以上に達したことが東京大医科学研究所の研究チームの調査で分かった。

高い医療費を理由に、内服の中断やその経験のある患者も3%いた。数年間で患者の所得が大きく減少していることが背景にあり、深刻な景気悪化が高額治療薬の使用に影響を与えていることが浮き彫りになった。

グリベックは1錠約3200円。患者は通常1日4錠、毎日服用する。国の高額療養費制度を活用しても、処方の頻度に応じて年間20万〜50万円程度を自己負担する。

研究チームは、血液専門医のいる医療機関485施設と患者会などにアンケート用紙を郵送。今年8月末までに回答が得られた患者566人分の実態を分析した。

その結果、グリベックの医療費の支払いに負担を感じている患者が73%の412人に達し、使用中断を考えたことがある患者も37%の211人いることが分かった。また、医療費が高いため、内服を中断した人や、中断の経験のある人は3%の17人だった。

患者の所得は、00年は533万円だったが、昨年は389万円と144万円減少していた。支払いに負担を感じている患者も42%から73%へと約30ポイント増えている。一方で、中断経験のある17人の08年の所得は300万円台が最も多かった。

同研究所の児玉有子特任研究員は「グリベックの登場でCMLの生存率が伸びた。一方で、患者は高い治療費を長期間支払う。こうした治療薬が今後も増えるだろう。限られた医療財源の中で、患者をどこまで救済していくのか議論が求められる」と話す。

高額な治療薬を使う患者が服用を控えるなど、不況が与える実態が浮かんだ。慢性骨髄性白血病(CML)の患者が使うグリベックは代表例だが、他の疾患でも同様の課題を抱えているとみられる。

グリベック以外にも、大腸がん治療のアバスチンなど20~30種類の抗がん剤も高い治療費がかかる。国は高額療養費制度で、治療が長期化などして医療費が高額化する病気の患者を支援している。

一方、厚生労働相が特定疾病(高額長期疾病)に指定すれば、医療費の自己負担は原則月1万円以内で済む。対象は、人工透析をしている慢性腎不全▽血友病▽一部の後天性免疫不全症候群の三つしかない。人工透析患者は約25万人と推定されるが、血友病患者は約5000人。後天性免疫不全症候群で特定疾病対象は約100人。CML患者数と大差なく、いずれも長期間の治療を強いられる。
([慢性骨髄性白血病]不況が影響、特効薬に7割「負担重い」)

慢性骨髄性白血病とは


白血球や赤血球、血小板などの血液細胞を作る細胞を造血幹細胞といいます。この造血幹細胞が腫瘍化し、異常に増殖したものが慢性骨髄性白血病(CML:Chronic myelogenous leukemia)です。

異常増殖は造血3系統(白血球、赤血球、血小板)のすべてに及びますが、顆粒球系細胞の進行性増殖を主体とし骨髄芽球から成熟顆粒球までの各段階の顆粒球が異常な増殖を示します。

頻度は10万人に1〜2人と比較的まれで、成人における白血病全体の約20%を占めます。中年以降(中央値は50歳代前半)に多くみられ、男女比は1.3:1でやや男性に多くなっています。65歳前後にピークを認め、小児では稀です。

慢性骨髄性白血病は、白血病の発見のもとになった疾患でもあり、各種の成熟段階にある顆粒球(細胞のなかに顆粒とよばれる微粒子をもつ白血球を指す)を含む著しい白血球の増多と、脾腫が特徴的です。

つまり、分化能(未熟な細胞が成熟した細胞になる力)を持ちつつ、ゆっくり増殖するという特徴があります。慢性骨髄性白血病では、正常細胞のように分化して限りなく殖えるため、血球数が非常に増加します。一方、急性型の白血病は分化(未熟な細胞が成熟した細胞になること)傾向に乏しく、増殖が速いです。そのため、骨髄に芽球のままとどまるため、血液中の細胞は減少するという違いがあります。

発症の原因としては、DNAに傷がつきその修復がうまくいかないことがあります。結果、自然界にはない融合染色体ができ、増殖のスイッチが入って、その後、多段階に進行していきます。この融合染色体をフィラデルフィア(Ph)染色体といい、転座によって、2つの染色体(9番染色体と22番染色体)の位置が入れ替わります。

その結果、22番染色体における BCR(breakpoint cluster region)遺伝子の一部は、9番染色体のABL遺伝子と融合してしまいます。こうして融合遺伝子が生まれるわけです。この融合遺伝子は、Bcr-Abl融合蛋白を生み出します。そうなると細胞増殖のシグナル伝達に異常が起こり、過剰な細胞増殖が引き起こされ、慢性骨髄性白血病となってしまいます。

この結果、CMLでは造血幹細胞の増殖、特に顆粒球系の前駆細胞の増殖が亢進します。しかし、急性白血病と異なり、分化過程に異常は認められないため、結果として成熟血球の増加,特に顆粒球増加が起こりえます。

このように異常な造血幹細胞から分化増殖して産生された成熟血球は、形態的には正常血球とほぼ同様ですが、成熟好中球のマーカー酵素であるアルカリホスファターゼalkaline phosphatase(NAP)活性がきわめて低いなどの未熟性を示します。

また、Ph1染色体あるいはBCR/ABL融合遺伝子は多能性幹細胞に出現するため、この異常は赤芽球系、骨髄球系、巨核球系、およびリンパ球系のすべての血球に存在します。

CMLの臨床経過は画一的です。発症後一定期間がたつと、増殖過程の異常に加えて分化過程にも異常が認められるようになり、成熟血球にかわって未熟な芽球が増加します。この過程は臨床的に慢性期、移行期、急性期(急性転化)として認識されます。

症状は、慢性期、移行期、急性期(急性転化)で分けられます。慢性期の場合は無症状であり、「白血球数が異常に多い」といった健康診断による結果で偶然に発見されることが多くなっています。病気の進行とともに、血液中の白血球数と血小板数は増えます。その後、赤血球が減少し、次第に貧血になります。白血球数が増加するに従って、全身の倦怠感や、脾腫および腹部の膨満感などが現れます。

急性転化とは、大多数の慢性骨髄性白血病の末期に出現する、急性白血病に酷似した臨床症状、血液像を示す病態をいいます。骨髄、末梢血中の芽球が30%以上に増加します。急性転化時には、発熱や腹部膨満感(脾腫)の進行、四肢の神経痛様疼痛、骨痛、出血傾向、貧血などの症状をきたします。白血病細胞が骨髄以外の場所、たとえば骨やリンパ節に腫瘤を形成することもあります。

慢性骨髄性白血病の診断


検査としては、末梢血液検査ではWBC増加(数万〜数十万/μl)、骨髄芽球から成熟好中球に至る各成熟段階の細胞の比率が、全体としてピラミッド型を呈します。しばしば好塩基球の増加を、ときに好酸球の増加を伴います。

赤血球数(RBC)は正常もしくは軽度減少、血小板数は通常増加しています。好中球アルカリホスファターゼ染色(NAPスコア)が低下します。

骨髄検査では、有核細胞数は著増、顆粒球系細胞/赤芽球系細胞(M/E比)が著しい高値、巨核球数は増加します。染色体分析によるフィラデルフィア(Ph)染色体の検出が重要で、Ph染色体とは第9染色体と第22染色体との相互転座によって生じる、長腕の短縮した第22染色体を指します。FISH法、サザンブロット法やRT-PCRでも bcr/abl 融合遺伝子は検出されます。これらは末梢血でも検査可能です。

血液生化学検査では、血清LDH値、尿酸値、ビタミンB12の増加(WBCの増加とその崩壊による)を認めます。

これらWBC増加、NAPスコア低値、骨髄の過形成とM/E比高値でCMLを考え、Ph染色体もしくは bcr/abl融合遺伝子の検出によって確定します。

急性転化時では、末梢血や骨髄中の芽球比率の急増、貧血や血小板数減少の進行などがみられます。

慢性骨髄性白血病の治療


慢性骨髄性白血病の治療としては、以下のようなものがあります。続きを読む