将来医療、保健の専門家を目指す学生の喫煙率を調べたところ、歯学部生は男性62%、女性35%で最も高く、患者の喫煙に関しても比較的寛容であることが、厚生労働省研究班の調査で分かった。また、女性に限定すると全学部で全国平均を上回っていた。喫煙は歯周病を発症、悪化させる危険因子としても知られる。主任研究者の林謙治・国立保健医療科学院次長は「将来患者を指導する立場として、学生のうちから喫煙の影響についてしっかり学ぶ必要がある」としている。
 
研究班は昨年12月、保健医療分野の学部、学科を持つ大学のうち、協力を得られた医学部19校、歯学部8校、看護学部28校、栄養学部13校の学生を対象にアンケートを実施。各学部の4年生計6312人(医1590人、歯677人、看護2545人、栄養1500人)から回答を得た。
 
喫煙率は歯学部が最も高く54%。次いで医学部36%(男性39%、女性23%)、看護学部32%(男性47%、女性30%)、栄養学部27%(男性40%、女性25%)。05年度の国民健康・栄養調査によると、20代の喫煙率は男性49%、女性19%で、歯学部は男女とも平均を上回っていた。
 
喫煙者を対象に、ニコチン依存症の指標となる質問をしたところ、「起床後30分以内の喫煙」をすると答えた学生の割合は医58%、歯53%、看護29%、栄養24%。他の質問でも同様の傾向で、医歯学部生の喫煙者にニコチン依存症が多い可能性があるという。
 
一方、自らの喫煙について「保健、医療を学ぶ学生の立場上喫煙してはならない」と答えた人は、医、歯、栄養の各学部で6割を超え、将来の専門家としての自覚は高かった。だが、患者の喫煙に関し「患者の自由意志にゆだねるべき」と回答したのは、栄養学部が16%と非常に厳しい態度を示したが、医、看護学部はそれぞれ32%、歯学部が47%だった。
(男女とも歯学部生が高率 医療系学生で 厚労省調査)


「歯学部生は男性62%、女性35%で最も高く、患者の喫煙に関しても比較的寛容」ということからも、「別に、喫煙して病気になるんだから自己責任じゃないの?」と思っている医療関係者(の卵)がかなりの数いるというのは、驚いた…というよりショックでした。

動物実験などの知見から、ニコチンは明らかな依存性を持つことが知られています。ニコチンは、神経伝達物質であるアセチルコリンに分子構造が類似し、ニコチン性アセチルコリン受容体(レセプターとも)に作用することで、中枢神経のドパミン神経系、特に脳内報酬系を活性化します。

そのため、摂取後に一時的に快の感覚や覚醒作用を得られるそうです。ちなみに、このような報酬系を介した薬理作用は、覚醒剤など依存性を有する他の薬物と共通です。

ニコチン摂取を続けると、ニコチン受容体がダウンレギュレーション(受容体の数が減ること)を起こし、ニコチンを外部から摂取しないと神経伝達が低下した状態となります。これがニコチン離脱症状であり、自覚的にはニコチンへの渇望が生じます。喫煙に対して依存性を示す者は「喫煙でリラックスできる」と表現するが、実際は離脱症状を喫煙によって一時的に緩和しているに過ぎません。

喫煙によって罹患率が増加することが示されている癌として、肺がん、喉頭がん、咽頭がん、食道がん、膀胱がんなどがあります。

喫煙により慢性気管支炎、肺気腫(これらの2つの疾患のことをCOPDとも言う)などが生じます。軽度のものを含めると、習慣的喫煙者のほぼ100%に気腫性変化が生じます。

タバコの煙に含まれる活性酸素は、血管内皮細胞を障害することが知られています。そのため、動脈硬化が促進され、狭心症、心筋梗塞、脳血栓 、脳塞栓、動脈硬化、動脈瘤、閉塞性血栓性血管炎(バージャー病)などのリスクが増加することが統計的に示されています。

他にも、妊娠中の影響や免疫低下・感染症、歯周病などのリスクが挙げられます。
ここまで健康被害が明らかになってきつつあるにも関わらず、「病気になるのも自由でしょ?」と放置する態度に、首をひねりたくなってしまいます。また、本人だけでなく、副流煙により周囲の人への被害も起こりえます。

「院内は全面禁煙」という施設が増えていることからも、医療者も共に禁煙することが望まれていると思われます。今後は、喫煙率が着実に下がっていくこと、健康意識をしっかりもつ、といったことが重要になってくると思われます。

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