深谷赤十字病院(埼玉県深谷市)で脳死と判定された男性からの国内59例目の脳死臓器移植が1日午前、東京女子医大などで始まった。
 
心臓は国立循環器病センター(大阪府吹田市)で拡張型心筋症の40代女性に、片方の肺は岡山大でα1-アンチトリプシン欠損型肺気腫症の40代男性に、肝臓は北海道大で劇症肝炎の30代男性に移植されることが決定。膵臓と片方の腎臓は東京女子医大で1型糖尿病の30代女性、もう片方の腎臓は東京都立清瀬小児病院で多発性嚢胞腎の10歳未満の女児への移植が決まった。
 
提供者の男性は8月31日午前、臓器移植法に基づく脳死と判定された。ほかに提供意思を示していた小腸については該当者がおらず、片方の肺は医学的理由により移植が断念された。
(59例目の脳死移植始まる 東京女子医大など)


脳死(brain death)とは、ヒトの脳幹を含めた脳すべての機能が不可逆的に(回復不可能な段階まで)廃絶した状態のことです。通常、心臓機能の停止→脳機能の停止という過程で死ぬのに対して、脳死は脳機能の停止→心臓機能の停止という過程を辿る特殊な状態です。

日本国における法的な脳死の定義については「臓器の移植に関する法律」第6条の規定によります。同法による臓器移植による脳死判断の初適応は1999年2月28日です。

脳死判定の前提条件としては、以下のようなものがあります。
・深昏睡である。
・原疾患が確実に診断されており、回復の見込みがない。

さらに、以下のような場合は、除外条件として脳死の適応からは除かれます。
・6歳未満の小児(ただし、法的な意思確認の関係上、15歳未満が事実上の除外条件となっている)
・急性薬物中毒
・低体温
・代謝・内分泌障害
・妊産婦
・完全両側顔面神経麻痺のある時
・自発運動、除脳硬直、除皮質硬直、痙攣が認められる時

上記の二条件を考慮した上で、以下の判定基準に従って脳死は判断されます。
脳死判定は移植に関係のない、脳死判定の経験のある2名以上の医師で行い、6時間後にも同所見であることが必要です。なお、脳死判定に先立って臨床的脳死判定する場合は1〜4を確認します。
1.深昏睡(JCS300またはGCS3)である。
2.瞳孔固定 両側4mm以上。
3.脳幹反射(対光反射、角膜反射、網様体脊髄反射、眼球頭反射、前庭反射、咽頭反射、咳嗽反射)の消失。→よって失明、鼓膜損傷などでこれらが施行できない場合は脳死判定はできない。
4.平坦脳波(刺激を加えても最低4導出で30分以上平坦)
5.自発呼吸の消失(100%酸素で飽和したのち呼吸器を外し、動脈血中二酸化炭素分圧が60mmHg以上に上昇することを確認。脳に影響を与えるため、必ず最後に実施する)

2回目の判定が終了した時刻を死亡時刻とします。

脳死の患者は死亡したものと解釈すれば生命の維持に必須の臓器を生体移植に準じた条件で摘出することが可能となります。当然のことながら臓器を摘出した患者は個体死に至ってしまいます。

臓器移植は、命を繋ぐ、という点で非常に重要な働きを担っています。ドナーの不足により、海外に行って移植をするという現状にあります。ですが、それには多くの問題を孕んでいるという指摘があります。たしかに、多くの倫理的問題をもつ技術ですが、今後、より普及が望まれる技術であるという面は否めないと思われます。

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