1983年11月に自動車事故にあって以来2006年まで昏睡状態にあると信じられていたベルギー人の男性が、実はその23年間ずっと意識があったことが明らかになりました。

事故当時20歳だったRom Houben氏は現在46歳、身体は麻痺(まひ)状態にあるのですが理学療法によりわずかながら運動機能を回復し、コミュニケーション用の特別なコンピューターにより忍耐の23年間を語っています。

事故のあった1983年当時ベルギー・ゾルダーの医師たちは国際的に認められているGlasgow Coma Scale(グラスゴー・コーマ・スケール:開眼・言語・運動の3分野による意識障害の評価分類スケール)を用い、再三にわたりHouben氏を診断しました。しかし、Houben氏は毎回植物状態であると不正確に分類されてしまったそうです。

事故前のHouben氏(当時20歳)。4カ国語に堪能な工学部の学生でした。
「周囲の人々に意識がないと思われていると気付いた時、最初は非常に怒りを感じました。しかし我慢することを学ばざるを得ませんでした」と現在46歳のHouben氏は語っています。

事故後に意識を回復した時、Houben氏は体が麻痺していることに気付き、医師が言っていることはすべて聞こえるのに、コミュニケーションをとることができなかったそうです。

「叫んでも叫んでも声が出ないのです。夢を見るしかありませんでした」と車イスに搭載された専用コンピューターのタッチスクリーンで語るHouben氏。このコンピューターを使い横になったまま本を読むこともできるそうです。

麻痺は事故後に数分間心臓が停止し、脳への酸素の供給が絶たれた結果でした。「わたしが感じていたものは、フラストレーションという言葉ではとても言い尽くせません」とHouben氏。違った人生を夢見て日々を過ごし、瞑想(めいそう)することで乗り切ったそうです。植物状態は誤診であるということに医師たちが気付いた時には、生まれ変わったような気持ちになったとのことです。

息子に完全に意識がないとはどうしても信じることができなかった母親のFina Houbenさん(73歳)は、3年前に最先端の脳の専門家にコンタクトをとり再検査を依頼しました。リエージュ大学のSteven Laureys博士がHouben氏の脳をスキャンした結果、脳はほぼ正常に活動していて、身体は動かせないものの、Houben氏は自身の身のまわりで起きていることは完全に把握しているということが明らかになりました。

BMC Neurology誌に掲載された論文でHouben氏のケースについて触れたLaureys博士は、「医学の進歩がHouben氏の症例に追いついた」と語り、Houben氏のように間違って植物状態と診断され、なんとか意思を伝達したいと切望している患者は世界中の病院のベッドにいるのではないか、と示唆しています。

Laureys博士らの研究では、植物状態と分類された症例のうち誤診の割合は、現在でも15年前からほとんど減っていないことが明かされています。

研究では意識状態がVegetative State (VS)またはMinimally Conscious State (MCS)と分類された症例について、観察に基づく医療チームの統一見解による診断と、意識状態を神経行動学的に評価する分類スケールJFK Coma Recovery Scale-Revised (CRS-R)による診断を比較しました。その結果、医療チームの総意でVSと診断された患者44人のうち、CRS-Rによる診断では18人(41%)がVCより軽いMCSに分類され、4人(10%)がMCSよりさらに軽症であるということが明らかになりました。
(23年間植物状態と思われていた男性に実はずっと意識があったことが判明)

閉じ込め症候群とは


閉じ込め症候群(locked-in syndrome)とは、上位運動ニューロンの両側障害により、顔面や四肢が麻痺し発語不能な状態です(上位運動ニューロンとは、皮質脊髄路ニューロンを指し、この障害は運動麻痺・痙縮などを起こす。大脳皮質第4および6野[いわゆる運動野]に端を発し、内包・大脳脚・脳幹錐体を経て脊髄側索を下行する)。

一見、無動無言症に似ていますが、本質は意識障害ではなく運動障害で、大脳機能の身体表現が制限され「閉じ込められた」状態のために、"閉じ込め症候群"という名があります。

ちなみに、無動無言症は、間脳、脳幹障害により大脳皮質機能低下による無動無言の状態を指します。視床、視床下部、前頭葉の障害によっても起こりえます。

しかしながら、患者さんの状態は閉じ込め症候群と異なります。その違いは、以下のようなはものがあります。続きを読む