大鵬薬品工業株式会社(本社:東京 社長:宇佐美 通)が特定非営利活動法人(NPO)西日本がん研究機構(WJOG)に委託、実施したLETS Study(WJTOG3605)の研究成果が、癌研究領域の主要雑誌である医学誌Journal of Clinical Oncology電子版に掲載されました。

LETS Studyは進行した非小細胞肺癌の標準治療の1つとされているカルボプラチン(以下CBDCA)+パクリタキセル(以下PTX)併用療法に対して、カルボプラチン(以下CBDCA)+TS-1併用療法の非劣性を検証する目的で実施されました。その結果、CBDCA+TS-1併用療法は主要評価項目である全生存期間における非劣性が証明され、癌治療に従事されている医療関係者および治療を受けられる患者さんに肺癌治療の新しい選択肢を示すものとなりました。

CBDCA+TS-1併用療法のメリットは、CBDCA+PTX併用療法に比べ日常生活の質(QOL)に影響を与えるしびれなど神経障害の副作用が少ない点、過敏反応を予防するためにPTXで必要な前処理も必要なく経口剤との併用により利便性に優れている点です。

− LETS(Lung Cancer Evaluation of TS-1) Studyとは −
未治療3B/4期非小細胞肺癌に対するCBDCA+TS-1併用療法とCBDCA+PTX併用療法の無作為化比較第III相臨床試験

カルボプラチン(CBDCA)+パクリタキセル(PTX)併用療法
CBDCA:AUC 6 PTX:200 mg/m2を第1日目に投与し、これを21日毎に繰り返す。

カルボプラチン(CBDCA)+TS-1併用療法
CBDCA:AUC 5を第1日目に投与し、TS-1を体表面積に合わせて40mg/m2を1日2回(朝、夕食後)14日間服用し、これを21日毎に繰り返す。


AUC (Area under the curve)
薬物濃度時間曲線下面積。薬が使用された後の血中薬物濃度をY軸に、時間をX軸にとったときに描く山なりのカーブの下側の面積部分。体内の薬物総吸収量の指標になる。
カルボプラチンの薬物動態では、AUCがDLT(投与制限毒性)である骨髄抑制とよく相関する。

− Journal of Clinical Oncology (米国臨床腫瘍学会誌)とは −
American Society of Clinical Oncology(米国臨床腫瘍学会:ASCO)の学会誌で、2009年のImpact factorは17.793。癌研究領域における主要な医学雑誌の一つ。

◆ LETS Study試験の概要 ◆
【 目 的 】
本試験の目的は、進行期非小細胞肺癌の初回化学療法においてCBDCA+PTX併用療法に対して、CBDCA+TS-1併用療法の全生存期間における非劣性を証明することである。
【 方 法 】
2006年8月〜2008年5月の間に、日本国内30施設より564例がCBDCA+TS-1群とCBDCA+PTX群に無作為に割り付けられた。CBDCA+TS-1群はCBDCA:AUC 5を第1日目に投与し、TS-1を体表面積に合わせて40mg/m2を1日2回(朝、夕食後)14日間服用し、これを21日毎に繰り返した。CBDCA+PTX群はCBDCA:AUC 6、PTX:200 mg/m2を第1日目に投与し、これを21日毎に繰り返した。
【 結 果 】
プロトコールに規定された中間解析の結果、CBDCA+TS-1療法のCBDCA+PTX療法に対する全生存期間の非劣性が証明された(ハザード比0.928、99.2%信頼区間0.671 - 1.283、非劣性の片側p値 0.002)。全生存期間中央値はCBDCA+TS-1群15.2ヵ月、CBDCA+PTX群13.3ヵ月であり、1年生存率は、CBDCA+TS-1群57.3%、CBDCA+PTX群55.5%であった。
グレード3/4の白血球減少、好中球減少および発熱性好中球減少、脱毛、神経障害の発現率はCBDCA+PTX群で高く、一方、血小板減少、悪心、嘔吐、下痢はCBDCA+TS-1群で高かった。
【 結 論 】
経口のTS-1とCBDCAの併用療法は、CBDCA+PTX併用療法との比較において全生存期間における非劣性が証明されたことから進行期非小細胞肺癌における有効な治療選択肢といえる。
(非小細胞肺癌に対するTS-1の研究成果がJCO(米国臨床腫瘍学会誌)電子版に掲載)

肺癌における化学療法治療


肺癌の治療法としては、主に3種類のものがあります。外科療法、放射線療法、抗癌剤による化学療法です。治療法の選択は、癌組織型、進展度(staging)、performance status(一般全身状態)、肺肝腎などの主要臓器機能、合併症の有無、により左右されます。

非小細胞肺癌の場合、通常はI期からIIIA期の一部が手術の対象となります(N2 症例に対する手術単独の治療成績は不良であり、集学的治療の対象)。IIIB期症例に対しては、プラチナ製剤を含む化学療法と胸部放射線治療の併用療法が標準であり、IV期は化学療法などが用いられます(ただし、治療意義は生存期間の延長と癌に伴う症状の緩和)。

非小細胞癌、特に肺腺癌であれば、まずはカルボプラチン(CBDCA)もしくはシスプラチン(CDDP)と、パクリタキセル(PTX)といった組み合わせや、カルボプラチン(CBDCA)もしくはシスプラチン(CDDP)とアリムタ(Alimta)などの組み合わせがfirst lineとなると考えられます。

最近では、カルボプラチン(CBDCA)もしくはシスプラチン(CDDP)とアリムタ(Alimta)などの組み合わせに、、血管内皮細胞増殖因子 (VEGF) に対するモノクローナル抗体であるベバシズマブ(アバスチン Avastin)を加えて治療を行ったりもします。

また、上皮成長因子受容体(EGFR)の変異がある場合、チロシンキナーゼ阻害薬である経口薬、ゲフィチニブ(イレッサ)が用いられるケースもあります。

上記の論文は、点滴による化学療法であるカルボプラチン+タキソールと、点滴と内服薬による化学療法であるカルボプラチン+TS-1という治療の効果の比較を行った研究です。両者に差は無かった、という結果だったようです。

たとえば点滴による化学療法が行いにくい高齢者などでは、後者の治療も選択肢となれば、非常に有用であると考えられます。

TS-1という薬は、以下のようなものです。続きを読む