・診断
まずは問診にて、症状・経過について知りうることについて記す。
問診では、自覚症状の有無、発現の時期、妊娠・月経歴を聴取する。患者の年齢も、どのような種類の卵巣腫瘍であるかを考える上で重要である。症状としては、無症状のことが多い。また、症状が現れた頃にはほとんどの女性(75%)は症状が進行した状態を提示し、大部分がぼんやりした不特定の症状、例えば消化不良,膨隆,すぐに満腹感を覚える食欲不振,ガス痛,腰痛などをもっている。腫瘤の増大に伴い、下腹部痛や圧迫感も訴えることがある。最も一般的な初期発見は付属器の腫瘤で、腫瘤はしばしば固く不規則で固定されている。新生児頭大以上になると、自ら下腹部腫瘤として触れる。通常の骨盤部検査で腹部の腫瘤が発見されたり、または病状が進行するまで無症状の患者もいる。ときにより、卵巣腫瘤の捻転に二次的に伴う激しい腹部の痛みを示す患者もいる。病状進行の後期になると、卵巣の腫脹または無菌性液の蓄積のため、骨盤部疼痛,貧血,悪液質,腹部膨隆が一般的に生じる。胚細胞また間質の悪性腫瘍による機能への影響には,甲状腺亢進,女性化,男性化などがある。特に、エストロゲン産生腫瘍では、不正性器出血、無月経、早発思春期、老年女性の再女性化などが見られる。アンドロゲン産生腫瘍では、多毛などの男性化症状が見られる。
本症例では、主訴として右下腹部腫瘤感(自ら触れる)があり、かつ膀胱刺激症状として頻尿、尿漏れが起こっている。ただし、本症例ではホルモン産生腫瘍の存在を疑わせるような症状はみられていないため、症状からすれば、性索間質性腫瘍である可能性は薄いのではないかと考えられる。また、年齢からいって、肺細胞腫瘍は若年者に多く、上皮性腫瘍は40歳以上に多いとされている。本症例患者は52歳であり、上皮性腫瘍である可能性が高いのではないか、と推察される。
次に、視診、内診について記す。
視診では、腹部、陰毛、陰核、陰唇、膣の観察が必要となる。内診では、腫瘍の大きさ、硬度、可動性、表面の状況、さらには子宮との連続性について診断する。腹水の有無も重要となる。少量の場合には、内診によるダグラス窩の膨隆で診断されることが多い。表面粗造で固く、可動性に乏しく、腹水を伴う下腹部腫瘤を認めた場合には、卵巣悪性腫瘍が疑われる。本症では、右下腹部に膨隆が存在し、内診では固く、可動性に乏しい腫瘤を触れた。腹水は伴っていないといった所見が認められた。
次に、画像所見による所見について記す。
超音波断層法には、経腹法と経膣法とがある。一般に経膣法は小腫瘤の観察や腫瘍内構造の描出に優れており、日常臨床で多用されている。しかし、腹壁から容易に触知するような腫瘤に対しては、経膣法では全体像がつかみにくく、経腹法が有効である。エコーは、卵巣腫瘍のスクリーニングに適しているとされている。また、充実性か嚢胞性かの鑑別診断を行うことが出来る。充実性腫瘍の約70%は悪性であり、嚢胞性腫瘍はそのほとんどが良性であるため、良悪性の判定という大きな意義があると考えられる。さらに、組織型の判定もある程度可能であるとされている。たとえば、漿液性嚢胞腺癌の場合、単房性であり嚢胞壁の肥厚が見られる。粘液性嚢胞腺癌の場合、多房性で嚢胞壁の肥厚が見られる。類内膜腫瘍では、不整型の充実、嚢胞性の混在がみられる。卵黄嚢腫瘍では、出血を伴った充実性腫瘍がみられる、などである。また、MRIではどのような断面でも観察できるという特徴を有している。また、軟部組織の描出に優れていることから、腫瘍浸潤(たとえば子宮体部や膀胱、直腸などへの浸潤)の検索には威力を発揮する。
本症例では、腹部エコー検査所見にて右卵巣114×81mm大の嚢胞性腫瘤が認められ、内部に充実部が存在する。胸部および腹部CT検査所見では、まず子宮右側に内部均一、低濃度な被包化された95×90mmの腫瘤を認める。右内腔には造影される壁在性の充実性部分を認める。このことから、単房性、かつ充実部の存在が存在し、漿液性腺癌の疑いが強いと思われる。また、右総腸骨領域に10mm大のリンパ節、右傍結腸領域に8mm大の結節が存在することから、リンパ節転移が存在すると考えられる。ただし、胸水、腹水なく、肝・肺転移の所見はみられないと考えられる。
最後に、腫瘍マーカーについて記す。
表層上皮性卵巣癌関連した腫瘍マーカーとしては、CA125・CA19-9・CA72-4・STNなどがある。胚細胞腫瘍に関連した腫瘍マーカーとしては、AFP・hCG・LDH・ALPなどがある。ホルモン産生腫瘍に関連した物質としては、hCG・estrogen・androgenなどがある。本症例では、CEA・AFP・CA19-9・TPA・SCC・CA125が全て正常範囲内であった。漿液性腫瘍の場合、良性ではCA125の上昇がみられず、また、粘液性腫瘍に関しても、CA19-9およびCEAが正常の場合、良性と考えられる。本症例ではともに正常であり、腫瘍マーカーからは、比較的悪性度は低いのではないかと考えられる。
以上より、漿液性嚢胞腺癌の可能性が高いのではないかと思われる。
まずは問診にて、症状・経過について知りうることについて記す。
問診では、自覚症状の有無、発現の時期、妊娠・月経歴を聴取する。患者の年齢も、どのような種類の卵巣腫瘍であるかを考える上で重要である。症状としては、無症状のことが多い。また、症状が現れた頃にはほとんどの女性(75%)は症状が進行した状態を提示し、大部分がぼんやりした不特定の症状、例えば消化不良,膨隆,すぐに満腹感を覚える食欲不振,ガス痛,腰痛などをもっている。腫瘤の増大に伴い、下腹部痛や圧迫感も訴えることがある。最も一般的な初期発見は付属器の腫瘤で、腫瘤はしばしば固く不規則で固定されている。新生児頭大以上になると、自ら下腹部腫瘤として触れる。通常の骨盤部検査で腹部の腫瘤が発見されたり、または病状が進行するまで無症状の患者もいる。ときにより、卵巣腫瘤の捻転に二次的に伴う激しい腹部の痛みを示す患者もいる。病状進行の後期になると、卵巣の腫脹または無菌性液の蓄積のため、骨盤部疼痛,貧血,悪液質,腹部膨隆が一般的に生じる。胚細胞また間質の悪性腫瘍による機能への影響には,甲状腺亢進,女性化,男性化などがある。特に、エストロゲン産生腫瘍では、不正性器出血、無月経、早発思春期、老年女性の再女性化などが見られる。アンドロゲン産生腫瘍では、多毛などの男性化症状が見られる。
本症例では、主訴として右下腹部腫瘤感(自ら触れる)があり、かつ膀胱刺激症状として頻尿、尿漏れが起こっている。ただし、本症例ではホルモン産生腫瘍の存在を疑わせるような症状はみられていないため、症状からすれば、性索間質性腫瘍である可能性は薄いのではないかと考えられる。また、年齢からいって、肺細胞腫瘍は若年者に多く、上皮性腫瘍は40歳以上に多いとされている。本症例患者は52歳であり、上皮性腫瘍である可能性が高いのではないか、と推察される。
次に、視診、内診について記す。
視診では、腹部、陰毛、陰核、陰唇、膣の観察が必要となる。内診では、腫瘍の大きさ、硬度、可動性、表面の状況、さらには子宮との連続性について診断する。腹水の有無も重要となる。少量の場合には、内診によるダグラス窩の膨隆で診断されることが多い。表面粗造で固く、可動性に乏しく、腹水を伴う下腹部腫瘤を認めた場合には、卵巣悪性腫瘍が疑われる。本症では、右下腹部に膨隆が存在し、内診では固く、可動性に乏しい腫瘤を触れた。腹水は伴っていないといった所見が認められた。
次に、画像所見による所見について記す。
超音波断層法には、経腹法と経膣法とがある。一般に経膣法は小腫瘤の観察や腫瘍内構造の描出に優れており、日常臨床で多用されている。しかし、腹壁から容易に触知するような腫瘤に対しては、経膣法では全体像がつかみにくく、経腹法が有効である。エコーは、卵巣腫瘍のスクリーニングに適しているとされている。また、充実性か嚢胞性かの鑑別診断を行うことが出来る。充実性腫瘍の約70%は悪性であり、嚢胞性腫瘍はそのほとんどが良性であるため、良悪性の判定という大きな意義があると考えられる。さらに、組織型の判定もある程度可能であるとされている。たとえば、漿液性嚢胞腺癌の場合、単房性であり嚢胞壁の肥厚が見られる。粘液性嚢胞腺癌の場合、多房性で嚢胞壁の肥厚が見られる。類内膜腫瘍では、不整型の充実、嚢胞性の混在がみられる。卵黄嚢腫瘍では、出血を伴った充実性腫瘍がみられる、などである。また、MRIではどのような断面でも観察できるという特徴を有している。また、軟部組織の描出に優れていることから、腫瘍浸潤(たとえば子宮体部や膀胱、直腸などへの浸潤)の検索には威力を発揮する。
本症例では、腹部エコー検査所見にて右卵巣114×81mm大の嚢胞性腫瘤が認められ、内部に充実部が存在する。胸部および腹部CT検査所見では、まず子宮右側に内部均一、低濃度な被包化された95×90mmの腫瘤を認める。右内腔には造影される壁在性の充実性部分を認める。このことから、単房性、かつ充実部の存在が存在し、漿液性腺癌の疑いが強いと思われる。また、右総腸骨領域に10mm大のリンパ節、右傍結腸領域に8mm大の結節が存在することから、リンパ節転移が存在すると考えられる。ただし、胸水、腹水なく、肝・肺転移の所見はみられないと考えられる。
最後に、腫瘍マーカーについて記す。
表層上皮性卵巣癌関連した腫瘍マーカーとしては、CA125・CA19-9・CA72-4・STNなどがある。胚細胞腫瘍に関連した腫瘍マーカーとしては、AFP・hCG・LDH・ALPなどがある。ホルモン産生腫瘍に関連した物質としては、hCG・estrogen・androgenなどがある。本症例では、CEA・AFP・CA19-9・TPA・SCC・CA125が全て正常範囲内であった。漿液性腫瘍の場合、良性ではCA125の上昇がみられず、また、粘液性腫瘍に関しても、CA19-9およびCEAが正常の場合、良性と考えられる。本症例ではともに正常であり、腫瘍マーカーからは、比較的悪性度は低いのではないかと考えられる。
以上より、漿液性嚢胞腺癌の可能性が高いのではないかと思われる。