MLF症候群


 MLF (medial longitudinal fasciculus)症候群は、核間性眼筋麻痺,失調性眼振ともいう。
 一眼または両眼の内転障害があるが、輻輳は保持され、さらに病変側の眼球が外転した場合に水平性眼振がみられる。発病は急激で復視が著しい。内側縦束(MLF)が外転神経核付近で障害された場合に生じる。
 理由としては、水平性眼球運動の刺激は同側の外転神経核に至り外直筋を収縮させる一方、反対側のMLFの中を上行し、反対側の動眼神経内直筋核に至り内直筋を収縮させるが、輻輳はMLFを介してはいないためである。原因は、外国では多発性硬化症が多く、わが国では血管性病変が多いとされている。
 側方凝視、たとえば左方凝視に際して、右眼の内転が起こらず、交叉性複視を伴う。このような麻痺は、しばしば動眼神経障害による内直筋麻痺に際してみられるが、核間麻痺において、これと根本的に異なるところは、両眼の輻湊に際しては、側方凝視に際して動かなかった眼球の内転が起こることである。すなわち、眼球の内転が側方凝視に際しては見られず、輻湊に際しては正常に見られるのが核間性麻痺である。動眼神経麻痺と異なる点は、さらに瞳孔の示す態度が正常である。核間性眼球運動麻痺は、一側の眼球に生ずることがあるが、多くの場合は両側性に見られる。
 この症状をきたす病変は、動眼神経核と外転神経核とを連絡する内側縦束にあるといわれ、すなわち上部脳橋から下部中脳の高さにおける内束縦束の障害によって生ずる。この場合、一側の内束縦束の障害によって同側の眼の内転が障害される。
 核間性眼球運動麻痺の病因としては、この麻痺が両側性に見られるとき、その多くは多発性硬化症によるものである。その際、この麻痺は長く存続するが、同時にまた可逆性で改善する。このほかには、脳幹を障害する脳炎、および後頭蓋窩腫瘍に見られる。すなわち脳橋部腫瘍および結核腫、小脳腫瘍及び膿瘍などに見られることがある。しかしながら脳橋部結核腫においては、核間性麻痺は一側性であり、逆に一側性の核間性麻痺の多くは、橋被蓋の結核腫によるとされている。その他には脳幹および下部中脳の脳軟化、あるいは出血にみられる。