重症筋無力症の診断


 重症筋無力症とは、神経筋接合部の興奮伝達ブロックにより、筋の脱力,易疲労性が生じる疾患で、自己免疫疾患とされている。運動機能は末梢神経終末からアセチルコリンが分泌され、それがシナプス後筋線維膜に存在するアセチルコリン受容体タンパクと結合して終板電位を起こし、これが閾値に達すると筋活動電位が発生することで保たれている。本症においてはこのアセチルコリン受容体タンパクが障害を受けて減少し、そのために興奮伝達が阻害されている。
 症状としては眼症状が高頻度で、眼瞼下垂,外眼筋麻痺(初発症状となることが多い),複視がみられる。顔面筋,喉頭筋の症状も多く、嗄声,嚥下障害などをみる。四肢では肩,腰の筋の脱力が強い。こうした症状は少しの時間休養すると消失し、動作をくり返すと悪化する。また朝は比較的症状が軽く、夕方悪化することも多い(日内変動を認める)。こうした症状の不安定性と休息による回復性が本症の特徴である。こうした特徴に加えて、誘発筋電図での活動電位の減衰,抗コリンエステラーゼ薬の有効性(テンシロン試験),血清抗アセチルコリン受容体抗体価上昇などが確かめられれば診断は確定する。
 本症では胸腺肥大,胸腺腫の合併の頻度が高く、胸腺摘出が根治療法につながる重要な方法である。

 重症筋無力症の診断としては、以下のようなものがある(神経・筋疾患調査研究班の認定基準参考)。
確実例: 1 自覚症状の1つ以上,2 理学所見(a)〜(h)の1つ以上と(i),(j),3 検査所見(a),(b),(c)の1つ以上が陽性の場合
疑い例: 1 自覚症状の1つ以上,2 理学所見(a)〜(h)の1 つ以上と(i),(j),3 検査所見(a),(b),(c)が陰性の場合
1 自覚症状
(a) 眼瞼下垂 (b) 複視 (c) 四肢筋力低下 (d) 嚥下困難 (e) 言語障害
(f) 呼吸困難 (g) 易疲労性 (h) 症状の日内変動
2 理学所見
(a) 眼瞼下垂 (b) 眼球運動障害 (c) 顔面筋筋力低下 (d) 頸筋筋力低下
(e) 四肢・体幹筋力低下 (f) 嚥下障害 (g) 構音障害 (h) 呼吸困難
(i) 反復運動による症状増悪(易疲労性),休息で一時的に回復
(j) 症状の日内変動(朝が夕方より軽い)
3 検査所見
(a) エドロホニウム(テンシロン)試験陽性(症状軽快)
(b) Harvey-Masland 試験陽性(waning 現象)
(c) 血中抗アセチルコリンレセプター抗体陽性

[補足]
・テンシロン試験
 効果も早く分解も速いテンシロン(edrophonium chloride,アンチレックス)を用いて行う薬物試験。成人では通常1アンプル(1 mL,テンシロン10mg含有)を静注する。最初半量を注入し、異常が生じなければさらに半量を追加する。重症筋無力症の診断に簡便な検査で、静注後1〜3分の間に眼瞼下垂,複視などの眼症状や,四肢の筋力,誘発筋電図での活動電位漸減現象の改善があれば陽性。ときに他疾患での偽陽性もあり注意を要する。

・Harvey-Masland試験
筋電計を用いた低頻度の反復神経刺激試験(Harvey-Masland試験)において、低頻度(1〜3Hz)連続刺激で漸減現象(waning)がみられる。

・抗AChR抗体
重症筋無力症myasthenia gravis患者血中に抗AChR抗体(抗アセチルコリン受容体抗体)が高頻度に検出されており、この病因は自己免疫によることが明らかになりつつある。患者が産生する抗AChR抗体は骨格筋終板のアセチルコリン受容体に結合し、補体結合による膜の崩壊,マクロファージによる貪食などによりアセチルコリン受容体を減少させる。その主要抗原部位はアセチルコリン受容体のα鎖上に存在する。