【1.治験とは】
治験とは医薬品製造販売承認を得るために行われる臨床試験のことである。動物を対象とした前臨床試験(非臨床試験)により薬の候補物質の安全性および有効性を検討し、安全で有効な薬物となりうることが期待される場合に行われる。
次に、治験の流れについて記す。
治験は第I相から第IV相までの4段階で行われることが多い。ただし、第?相試験に多大な時間のかかる抗がん剤に関しては、第II相までの結果をもとに第?相の試験実施計画も併せて承認申請を行うことがある。
・第I相(フェーズ I)
自由意思に基づき志願した健常成人を対象とし、被験薬を少量から段階的に増量し、被験薬の薬物動態(吸収、分布、代謝、排泄)や安全性(有害事象、副作用)について検討することを主な目的とした探索的試験である。動物実験の結果をうけてヒトに適用する最初のステップであり、安全性を検討する上で重要なプロセスであるが、抗がん剤などの副作用が強いと予想されるものは倫理的な観点から健常人での試験を行わないことがある。また、抗がん剤の試験の場合は、次相で用いる用法・用量を検討することも重要な目的となる。
・第II相(フェーズ II)
第II相試験は第I相の結果をうけて、比較的軽度な少数例の患者を対象に、有効性・安全性・薬物動態などの検討を行う試験である。多くは、次相の試験で用いる用法・用量を検討するのが主な目的であるが、有効性・安全性を確認しながら徐々に投与量を増量させたり、プラセボ群を含む3群以上の用量群を設定して用量反応性を検討したり、その試験の目的に応じて様々な試験デザインが採用される。探索・検証の両方の目的を併せ持つことが少なくないため、探索的な前期第II相と検証的な後期第II相に分割することもある。その他にも、第I/II相として第I相と連続した試験デザインや、第II/III相として第III相に続けて移行する試験デザインもある。また、毒性の強い抗がん剤に関しては、この第II相で腫瘍縮小効果などの短期間に評価可能な指標を用いて有効性を検証し、承認申請を行うことがある。
・第?相(フェーズ III)
上市後に実際にその化合物を使用するであろう患者を対象に、有効性の検証や安全性の検討を主な目的として、より大きな規模で行われるのが第?相である。それまでに検討された有効性を証明するのが主な目的であるため、ランダム化や盲検化などの試験デザインが採用されることがほとんどである。数百例以上の規模になることもあるため、多施設共同で行う場合が多い。抗がん剤の場合は、製造販売後に実施されることが多い。
第I相から第III相までの試験成績をまとめ、医薬品製造販売申請が行われる。規制当局による審査を受けて承認されると医薬品としての販売が可能となる。
・第IV相(フェーズ IV)
製造販売後臨床試験と呼ばれ、実際に市販した後に広く使用されることにより、第III相まででは検出できなかった予期せぬ有害事象や副作用を検出するのが主な目的である。
また、試験の方法について以下に記す。 治験では、被験薬の効果を検討するために、実際には効果のない物質(偽薬、プラセボ)やすでに効果が確認され市販されている薬剤(実薬対照)との比較が行われるが、被験者が何を投与されたかがわかることでその効力が変化してしまうことがある。これを防ぐために、被験者には何を投与したかがわからないようにすることを盲検試験と呼ぶ。しかし、投与する医療機関のスタッフが何を投与しているか知っているとそれが態度に表れてしまう場合があり、あるいは有害事象等の評価に際して先入観が入り込んでしまうことがある。これを防ぐため、投与する医師にも投与しているのが被験薬であるのか対照薬であるのかわからなくするのが二重盲検試験(ダブルブラインド)である。この場合、治験薬(プラセボ、実薬対照、被験薬を含む治験で用いられる物質の総称)はコードで管理され、治験実施者から独立した割付責任者が割付コードを保管し、データ固定後に割付情報を開示(キーオープン)する。
【2.治験の要件】
まず必要となるのが、患者に対するインフォームド・コンセントである。治験への参加に先立ち、実施される試験の目的や内容、ほかの治療法などについて詳しく説明し、本人の自由意思により治験に参加するかどうかを決める。インフォームド・コンセントは、ヘルシンキ宣言の中でも基本原則として重要な位置を占める。以下に、治験の要件となるヘルシンキ宣言の基本原則について記す。
?患者・被験者福利の尊重。
?本人の自発的・自由意思による参加。
?インフォームド・コンセント取得の必要。
?倫理審査委貞会の存在。
?常識的な医学研究であること
また、宣言の保護対象が単にヒトだけにとどまらず、ヒト由来の臓器・組織・細胞・遺伝子、さらには診療情報まで含むこと、および宣言の対象者が医学研究にかかわるすべての人々であることとされている。
インフォームドコンセントを行う際には、説明文書に以下のようなことが書かれる必要がある。すなわち、
・治験の目的、治験薬の使用方法、検査内容、参加する期間
・期待される効果と予想される副作用
・治験への参加はいつでもやめることができ、不参加の場合でも不利益は受けないこと
・副作用が起きて被害を受けた場合、補償を請求できること
・カルテ、検査結果などの医療記録を治験を依頼した製薬会社、厚生労働省、治験審査委 員会の担当者が見ること
・担当する医師の氏名、連絡先
・治験に関する質問、相談のための問い合わせ先
などである。また、カルテ、検査結果には、患者さんの名前や住所、電話番号などが記載されていますが、プライバシーは厳重に保護される、などの説明が医師に必要となる。
次に、関連する規制について述べる。治験を行う製薬会社、病院、医師は薬事法と、これに基づいて国が定めた「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(=GCP[Good Clinical Practiceの略])という規則を守らなければならない。GCPに関しては、厚生省令第28号「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(平成9年3月27日)、厚生労働省令第106号「医薬品の臨床試験の実施に関する省令の一部を改正する省令」(平成15年6月12日)、中央薬事審議会答申「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)の内容」(平成9年3月13日)がある。これらによって遵守すべき点は、以下のようなものである。
1.治験の内容を国に届け出ること
製薬会社は、治験を担当する医師が合意した「治験実施計画書」を厚生労働省に届け出る。厚生労働省は、この内容を調査し、問題があれば変更等の指示を出す。
2.治験審査委員会で治験の内容をあらかじめ審査すること
治験審査委員会では「治験実施計画書」が、治験に参加される患者さんの人権と福祉を守って「くすりの候補」のもつ効果を科学的に調べられる計画になっているか、治験を行う医師は適切か、参加される患者さんに治験の内容を正しく説明するようになっているかなどを審査する。
治験審査委員会には、医療を専門としない者と病院と利害関係がない独立した者が必ず参加する。製薬会社から治験を依頼された病院は、この委員会の審査を受けて、その指示に従わなければならない。
3.同意が得られた患者のみを治験に参加させること
治験の目的、方法、期待される効果、予測される副作用などの不利益、治験に参加されない場合の治療法などを文書で説明し、文書による患者さんの同意を得なければならない。
3.重大な副作用は国に報告すること
治験中に発生したこれまでに知られていない重大な副作用は治験を依頼した製薬会社から国に報告され、参加されている患者さんの安全を確保するため必要に応じて治験計画の見なおしなどが行われる。
4.製薬会社は、治験が適正に行われていることを確認すること
治験を依頼した製薬会社の担当者(モニター)は、治験の進行を調査して、「治験実施計画書」やGCPの規則を守って適正に行われていることを確認する。
【3.治験の問題点】
国内の治験の問題点としては、?治験完了までの時間が長期に及ぶ ?治験にかかる費用が高額である ?治験の精度としての質を高く保ち続けるのが難しい などである(平成14年厚生労働省『医薬品産業ビジョン』)。その理由としては、以下のようなものが上げられる。
1.被験者(患者)のインセンティブが低いこと
これに関しては、治験の意義が浸透していない、国民皆保険で経済インセンティブが低 いなどの理由があげられる。
2.実施研究者のインセンティブが低いこと
治験に対する学問的評価、経済インセンティブが低いためであると考えられる。
3.治験の実施体制が弱いこと
治験実施体制が整っている医療機関が少ない。医師及び協力者の養成が不十分などの理 由が考えられる。
4.着実に実施する医師・医療機関が不足していること(供給の不足)による競争不足
また、国内では治験の空洞化も問題となっている。その理由としては、治験の空洞化が引き起こすものとして、以下のようなことがもたらされると考えられる。
・患者においては、治験が停滞し、新薬の承認が遅れ、新薬へのアクセスが遅れる。
・製薬企業や研究機関においては、研究開発力が低下し、薬剤開発費が海外へ投資されるなど、企業の衰退、雇用の減少が生じる。
・医師や研究者においては、治療技術や研究水準が向上しない。
などである。我が国の保健水準や産業の国際競争力にとって大きな損失をもたらすと考えられる。
【4.考察】
上記問題点について考察を記す。
まず、スピードに関してであるが、生活習慣病など一部の疾患では欧米に匹敵する早さが確保されてきている様子である。ただし、全般的には欧米並みのスピードが確保されているとは言い難い。治験の進捗がある程度改善された理由としては、最初に登場したCRO(開発業務受託機関)に加え、新しく登場したCRC(治験コーディネーター)やSMO(医療機関支援機関)の普及と治験広告の実施であろうと考えられる。これらの活用により、治験のインフラが整っておらず、従来治験が不可能であった小規模な医療機関においても治験が可能となり、対象疾患に応じた適切な医療機関の選択と治験の円滑実施が可能となった。こうした背景から、かつて治験実施施設として中心的役割を担ってきた大学病院や国立病院における治験が減少して、クリニック・私立医療機関での治験が大きく増加したため、スピードの改善ができたと考えられる。ゆえに、さらなるインフラ整備を行い、より多くの病院に協力体制を敷くことが重要であると考えられる。さらに、治験に参加する患者の治験に対するインセンティブを高める必要があると考えられる。
次に、クオリティについて記す。この事に関しては、高い水準が確保されつつある。その理由としては、新GCPへの対応が各企業で定着し、品質管理機能が強化されたことに加え、医療機関に配置されたCRCの存在が大きいと考えられる。治験を担当する医師が実施する多様な業務(対象候補の患者の選択、患者への治験の説明、治験計画に沿った患者への助言、調査票への記入、資料類の保存や管理など)を医師の指示かでサポートすることは、医師の負担軽減だけでなく、治験の品質を確保する上で、意義が深いと思われる。また、モニタリング業務の一部として新GCPにおいてどうにゅうされた直接閲覧、さらに承認申請後に実施される信頼性調査における指摘も品質の向上に寄与していると考えられる。
最後に、コストについて記す。臨床評価部会で2004年度に実施した調査では、対外的に支払った経費で算出した1症例あたりの費用は、国内で314万円、欧米を主とする海外では219万円であった。結果、1.4倍もの算出がみられた。さらに、モニターの自社員比率が高い国内治験では、さらに症例単価が高まると考えられる。これは、インフラが未だに不整備であるという点や、医療機関に支払う経費のありかたが関係していると考えられる。ゆえに、これらを改善する必要があると考えられる。
今までの努力や取り組みの枠組みでは、改善は確かにあるものの、改善の内容やスピードが期待するほどには望めないということが考えられる。臨床研究振興の法律などの整備、臨床研究体制の充実、GCP・運用の改定と教育体系導入、医療機関の設立母体や規模に応じた治験の枠組みのあり方など、治験の諸問題の底にある課題を整理し、抜本的な対応をはかる時期にあると考えられる。
治験とは医薬品製造販売承認を得るために行われる臨床試験のことである。動物を対象とした前臨床試験(非臨床試験)により薬の候補物質の安全性および有効性を検討し、安全で有効な薬物となりうることが期待される場合に行われる。
次に、治験の流れについて記す。
治験は第I相から第IV相までの4段階で行われることが多い。ただし、第?相試験に多大な時間のかかる抗がん剤に関しては、第II相までの結果をもとに第?相の試験実施計画も併せて承認申請を行うことがある。
・第I相(フェーズ I)
自由意思に基づき志願した健常成人を対象とし、被験薬を少量から段階的に増量し、被験薬の薬物動態(吸収、分布、代謝、排泄)や安全性(有害事象、副作用)について検討することを主な目的とした探索的試験である。動物実験の結果をうけてヒトに適用する最初のステップであり、安全性を検討する上で重要なプロセスであるが、抗がん剤などの副作用が強いと予想されるものは倫理的な観点から健常人での試験を行わないことがある。また、抗がん剤の試験の場合は、次相で用いる用法・用量を検討することも重要な目的となる。
・第II相(フェーズ II)
第II相試験は第I相の結果をうけて、比較的軽度な少数例の患者を対象に、有効性・安全性・薬物動態などの検討を行う試験である。多くは、次相の試験で用いる用法・用量を検討するのが主な目的であるが、有効性・安全性を確認しながら徐々に投与量を増量させたり、プラセボ群を含む3群以上の用量群を設定して用量反応性を検討したり、その試験の目的に応じて様々な試験デザインが採用される。探索・検証の両方の目的を併せ持つことが少なくないため、探索的な前期第II相と検証的な後期第II相に分割することもある。その他にも、第I/II相として第I相と連続した試験デザインや、第II/III相として第III相に続けて移行する試験デザインもある。また、毒性の強い抗がん剤に関しては、この第II相で腫瘍縮小効果などの短期間に評価可能な指標を用いて有効性を検証し、承認申請を行うことがある。
・第?相(フェーズ III)
上市後に実際にその化合物を使用するであろう患者を対象に、有効性の検証や安全性の検討を主な目的として、より大きな規模で行われるのが第?相である。それまでに検討された有効性を証明するのが主な目的であるため、ランダム化や盲検化などの試験デザインが採用されることがほとんどである。数百例以上の規模になることもあるため、多施設共同で行う場合が多い。抗がん剤の場合は、製造販売後に実施されることが多い。
第I相から第III相までの試験成績をまとめ、医薬品製造販売申請が行われる。規制当局による審査を受けて承認されると医薬品としての販売が可能となる。
・第IV相(フェーズ IV)
製造販売後臨床試験と呼ばれ、実際に市販した後に広く使用されることにより、第III相まででは検出できなかった予期せぬ有害事象や副作用を検出するのが主な目的である。
また、試験の方法について以下に記す。 治験では、被験薬の効果を検討するために、実際には効果のない物質(偽薬、プラセボ)やすでに効果が確認され市販されている薬剤(実薬対照)との比較が行われるが、被験者が何を投与されたかがわかることでその効力が変化してしまうことがある。これを防ぐために、被験者には何を投与したかがわからないようにすることを盲検試験と呼ぶ。しかし、投与する医療機関のスタッフが何を投与しているか知っているとそれが態度に表れてしまう場合があり、あるいは有害事象等の評価に際して先入観が入り込んでしまうことがある。これを防ぐため、投与する医師にも投与しているのが被験薬であるのか対照薬であるのかわからなくするのが二重盲検試験(ダブルブラインド)である。この場合、治験薬(プラセボ、実薬対照、被験薬を含む治験で用いられる物質の総称)はコードで管理され、治験実施者から独立した割付責任者が割付コードを保管し、データ固定後に割付情報を開示(キーオープン)する。
【2.治験の要件】
まず必要となるのが、患者に対するインフォームド・コンセントである。治験への参加に先立ち、実施される試験の目的や内容、ほかの治療法などについて詳しく説明し、本人の自由意思により治験に参加するかどうかを決める。インフォームド・コンセントは、ヘルシンキ宣言の中でも基本原則として重要な位置を占める。以下に、治験の要件となるヘルシンキ宣言の基本原則について記す。
?患者・被験者福利の尊重。
?本人の自発的・自由意思による参加。
?インフォームド・コンセント取得の必要。
?倫理審査委貞会の存在。
?常識的な医学研究であること
また、宣言の保護対象が単にヒトだけにとどまらず、ヒト由来の臓器・組織・細胞・遺伝子、さらには診療情報まで含むこと、および宣言の対象者が医学研究にかかわるすべての人々であることとされている。
インフォームドコンセントを行う際には、説明文書に以下のようなことが書かれる必要がある。すなわち、
・治験の目的、治験薬の使用方法、検査内容、参加する期間
・期待される効果と予想される副作用
・治験への参加はいつでもやめることができ、不参加の場合でも不利益は受けないこと
・副作用が起きて被害を受けた場合、補償を請求できること
・カルテ、検査結果などの医療記録を治験を依頼した製薬会社、厚生労働省、治験審査委 員会の担当者が見ること
・担当する医師の氏名、連絡先
・治験に関する質問、相談のための問い合わせ先
などである。また、カルテ、検査結果には、患者さんの名前や住所、電話番号などが記載されていますが、プライバシーは厳重に保護される、などの説明が医師に必要となる。
次に、関連する規制について述べる。治験を行う製薬会社、病院、医師は薬事法と、これに基づいて国が定めた「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(=GCP[Good Clinical Practiceの略])という規則を守らなければならない。GCPに関しては、厚生省令第28号「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(平成9年3月27日)、厚生労働省令第106号「医薬品の臨床試験の実施に関する省令の一部を改正する省令」(平成15年6月12日)、中央薬事審議会答申「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)の内容」(平成9年3月13日)がある。これらによって遵守すべき点は、以下のようなものである。
1.治験の内容を国に届け出ること
製薬会社は、治験を担当する医師が合意した「治験実施計画書」を厚生労働省に届け出る。厚生労働省は、この内容を調査し、問題があれば変更等の指示を出す。
2.治験審査委員会で治験の内容をあらかじめ審査すること
治験審査委員会では「治験実施計画書」が、治験に参加される患者さんの人権と福祉を守って「くすりの候補」のもつ効果を科学的に調べられる計画になっているか、治験を行う医師は適切か、参加される患者さんに治験の内容を正しく説明するようになっているかなどを審査する。
治験審査委員会には、医療を専門としない者と病院と利害関係がない独立した者が必ず参加する。製薬会社から治験を依頼された病院は、この委員会の審査を受けて、その指示に従わなければならない。
3.同意が得られた患者のみを治験に参加させること
治験の目的、方法、期待される効果、予測される副作用などの不利益、治験に参加されない場合の治療法などを文書で説明し、文書による患者さんの同意を得なければならない。
3.重大な副作用は国に報告すること
治験中に発生したこれまでに知られていない重大な副作用は治験を依頼した製薬会社から国に報告され、参加されている患者さんの安全を確保するため必要に応じて治験計画の見なおしなどが行われる。
4.製薬会社は、治験が適正に行われていることを確認すること
治験を依頼した製薬会社の担当者(モニター)は、治験の進行を調査して、「治験実施計画書」やGCPの規則を守って適正に行われていることを確認する。
【3.治験の問題点】
国内の治験の問題点としては、?治験完了までの時間が長期に及ぶ ?治験にかかる費用が高額である ?治験の精度としての質を高く保ち続けるのが難しい などである(平成14年厚生労働省『医薬品産業ビジョン』)。その理由としては、以下のようなものが上げられる。
1.被験者(患者)のインセンティブが低いこと
これに関しては、治験の意義が浸透していない、国民皆保険で経済インセンティブが低 いなどの理由があげられる。
2.実施研究者のインセンティブが低いこと
治験に対する学問的評価、経済インセンティブが低いためであると考えられる。
3.治験の実施体制が弱いこと
治験実施体制が整っている医療機関が少ない。医師及び協力者の養成が不十分などの理 由が考えられる。
4.着実に実施する医師・医療機関が不足していること(供給の不足)による競争不足
また、国内では治験の空洞化も問題となっている。その理由としては、治験の空洞化が引き起こすものとして、以下のようなことがもたらされると考えられる。
・患者においては、治験が停滞し、新薬の承認が遅れ、新薬へのアクセスが遅れる。
・製薬企業や研究機関においては、研究開発力が低下し、薬剤開発費が海外へ投資されるなど、企業の衰退、雇用の減少が生じる。
・医師や研究者においては、治療技術や研究水準が向上しない。
などである。我が国の保健水準や産業の国際競争力にとって大きな損失をもたらすと考えられる。
【4.考察】
上記問題点について考察を記す。
まず、スピードに関してであるが、生活習慣病など一部の疾患では欧米に匹敵する早さが確保されてきている様子である。ただし、全般的には欧米並みのスピードが確保されているとは言い難い。治験の進捗がある程度改善された理由としては、最初に登場したCRO(開発業務受託機関)に加え、新しく登場したCRC(治験コーディネーター)やSMO(医療機関支援機関)の普及と治験広告の実施であろうと考えられる。これらの活用により、治験のインフラが整っておらず、従来治験が不可能であった小規模な医療機関においても治験が可能となり、対象疾患に応じた適切な医療機関の選択と治験の円滑実施が可能となった。こうした背景から、かつて治験実施施設として中心的役割を担ってきた大学病院や国立病院における治験が減少して、クリニック・私立医療機関での治験が大きく増加したため、スピードの改善ができたと考えられる。ゆえに、さらなるインフラ整備を行い、より多くの病院に協力体制を敷くことが重要であると考えられる。さらに、治験に参加する患者の治験に対するインセンティブを高める必要があると考えられる。
次に、クオリティについて記す。この事に関しては、高い水準が確保されつつある。その理由としては、新GCPへの対応が各企業で定着し、品質管理機能が強化されたことに加え、医療機関に配置されたCRCの存在が大きいと考えられる。治験を担当する医師が実施する多様な業務(対象候補の患者の選択、患者への治験の説明、治験計画に沿った患者への助言、調査票への記入、資料類の保存や管理など)を医師の指示かでサポートすることは、医師の負担軽減だけでなく、治験の品質を確保する上で、意義が深いと思われる。また、モニタリング業務の一部として新GCPにおいてどうにゅうされた直接閲覧、さらに承認申請後に実施される信頼性調査における指摘も品質の向上に寄与していると考えられる。
最後に、コストについて記す。臨床評価部会で2004年度に実施した調査では、対外的に支払った経費で算出した1症例あたりの費用は、国内で314万円、欧米を主とする海外では219万円であった。結果、1.4倍もの算出がみられた。さらに、モニターの自社員比率が高い国内治験では、さらに症例単価が高まると考えられる。これは、インフラが未だに不整備であるという点や、医療機関に支払う経費のありかたが関係していると考えられる。ゆえに、これらを改善する必要があると考えられる。
今までの努力や取り組みの枠組みでは、改善は確かにあるものの、改善の内容やスピードが期待するほどには望めないということが考えられる。臨床研究振興の法律などの整備、臨床研究体制の充実、GCP・運用の改定と教育体系導入、医療機関の設立母体や規模に応じた治験の枠組みのあり方など、治験の諸問題の底にある課題を整理し、抜本的な対応をはかる時期にあると考えられる。