
小さなころから、リンダ・ヒューマンさんを悩ませてきたことがあった。
それは、人の顔を覚えられないことだった。
クラスメイトの同じ友人にに、何度も自己紹介をしてまわったりしていた。
「クラスメイトは、毎日同じ人なの?先生も?」と母親に訊いたこともあった。毎日会っているにもかかわらず、同じ人物であると認識できなかった。
そこで、初めて自分の顔を覚える能力に問題があることを知る。そうやって恥ずかしい思いをするぐらいなら、と人に話しかけることをやめたリンダ。大きくなっても友達も出来ず、誕生日パーティーを開いてもらっても、来てくれる人たちは、知っている人たちのはずなのに、誰が誰か全くわからない。そして、彼女は、そのパーティーの写真を見ても誰が誰だか、わからないのだ。写真を必死に思い出そうとするが、顔にモザイクがかかったようで、はっきり見えない。自分はこの障害を持って生きていかなければならないと、確信したという。
それからは、壮絶とも言えるような"工夫"をして暮らしていったという。
待ち合わせのときは、時間よりもずっと前に場所に行き、探すのではなく、探されるのを待つ。さらに働くようになって、オフィスで人を探すときは、あせらず、自然に、人に尋ねながら、少しずつ探し求める人物に近づいていく。パーティーなどにはなるべく出席せず、遠くのスーパーまで買い物に行く。ばったり、知り合いにあってしまわないようにコソコソと生活する日々。
そんな生活に疲れた彼女は旅行に出た。旅先では、知り合いに会って、人違いをしてしまう心配はない。出会う人、全てに「はじめまして」とあいさつし、「さようなら」と言って別れればいいのだ。しかし、その大好きな旅で友人に秘密を知られてしまうことになってしまったのだ。
先天性相貌失認の患者さんの話は、他にも「人の顔がなかなか覚えられない」などで読むことが出来ます。
「SMAPがカツラを着けただけで認識できない」…という症状からも分かるとおり、日常生活を送るのが非常に難しそうだと思われます。
相貌失認とは、目は見えているものの、顔を見てもその表情の識別が出来ず、誰の顔が解らず、もって個人の識別が出来なくなる症状のこと。
顔を見分けることは脳の最も高度な機能の一つであり、これは後頭葉(fusiform face area (FFA) : 紡錘状回顔領域)で行なわれている。しかし後頭葉の損傷などによりこの機能が失われる事を相貌失認という。
損傷の箇所や規模によって実際の症状は変わり、表情を見分けられない、男女の区別ができない、自分や知人の顔が分からない、など様々があります。
もしかしたら、明らかになっていないだけで、結構な数の方がこうした症状で苦しんでいらっしゃるのかもしれませんね。高次脳機能障害に対して、周囲の方の理解が、広まることを願います。