
「全米電子処方箋患者安全イニシアチブ(NEPSI)」は今年1月、全米の医師に電子処方箋のソフトウエアを無料提供するサービスを始めた。マイクロソフト、グーグルのほか、デルや米国富士通コンピュータ・プロダクツ、電子カルテ大手のオールスクリプツなど13社が参加。IT各社は同サービスに今後5年間で1億ドルを投入する計画で、「すべての医師に必要な技術を整備する重要な第一歩」(マイクロソフト)と強調する。
ITの巨人が電子処方箋に着目した背景には、処方ミスに対する米国の危機感がある。
米国医学研究所(IOM)は昨年7月発表した報告で、年間約80万件、35億ドル相当の薬物有害事象が発生したと指摘。2010年までに、すべての医師と薬局に電子処方箋導入を勧告した。
オールスクリプツのグレン・トゥルマン最高経営責任者(CEO)も今週の米誌タイムのインタビューで、「処方ミスによる死者が年間7,000人、被害者は150万人に上り、大半は電子処方箋で防げたはず」と述べている。
手書きの処方箋は、薬剤師が内容確認のために医師に電話で問い合わせるケースが頻発するが、電子情報ならば手間も省け、処方どおりの薬を短時間で提供できる。患者の医療記録をデータベースで管理する電子カルテと連動すれば、患者のアレルギーなどを確認して適切な処方が可能だ。
だが、米国で実際に電子処方箋を使用する医師は全体の25%にとどまり、全処方箋の6割が電子化されているスウェーデンなど北欧諸国に大きく後れを取る。ソフトウエアやデータ交換フォーマットが未整備なためだ。IT各社は医療市場で業界標準を確立させる機会とみて、先行投資に乗り出したといえる。
一方、日本国内の医療機関の多くでは、カルテはいまだに手書きだ。厚生省(現厚生労働省)は平成11年、カルテの電子媒体による保存を一定条件下で認める通達を出し、電子化推進に努めている。加えて政府のIT戦略本部も保健・医療・福祉分野をIT化の重点分野と位置づける。だが、電子カルテの普及率は病院・診療所の6〜7%程度にすぎない。
日本では電子カルテを採用している医療機関でさえ、他の病院などに紹介状を書く際、データや診療画像をフィルムや紙に印刷して患者に持たせたり、処方箋を薬局にファクス送信しているのが実情だ。一部で電子データを相互活用する動きもあるが、国内IT企業が提供する支援サービスは有料で、米国のような業界標準を目指す動きには至っていない。
(世界の医療標準狙う 米で「電子処方箋」無料サービス)
電子カルテやレントゲンなどのフィルムレス化など、"電子化"というのは今後の革新に関して、キーワードのようになっていくと思われます。
一方で、設備投資や現場医師たちの適応性などに関して、まだまだ浸透しているとは言いづらい状況です。上記記事では、「電子カルテの普及率は病院・診療所の6〜7%程度にすぎない」とのことであり、一部のところでしか行われていない。そういったところでも、外病院へ紹介する際などでは紹介状が必要となり、まだまだ情報の共有をオンライン化することは難しい様子とのこと。
電子カルテの利点としては、
1)カルテの物理的な管理が不要になり、紛失の恐れが少なくなる。長期の大量保存も容易。
2)テキストとして診療経過が保存されるため、文字が判読不能といった問題がなくなる。
3)院内をネットワーク化することにより、任意の場所でカルテを呼び出して参照できる。
4)検査結果や画像とリンクさせることで、画像に直接コメントを入れたり、データをその場で様々な切り口からグラフ化するなど従来できなかった記載が可能になる。
5)紹介状、診断書作成時や学会発表時などに、データの柔軟な再利用が可能。
6)処方や検査オーダーと一体化することで実際の実施内容と記載内容を容易に一致させられる。
欠点としては、
1)ディスプレイ上での一覧性は見開きの紙に比べて非常に低い。
2)ペン1本で記載できる紙と違い、操作に慣れが必要で入力時間もかかるうえ、入力内容の柔軟性も低い。
3)停電時、システムダウン時などに閲覧さえできなくなる危険性がある。このため、電力の供給停止や通信ネットワークの断絶が予測される災害時医療などには不向きである。
4)データ量が膨大である為、システム全体のレスポンスが悪い。
5)セキュリティへ配慮する必要性が高い。
6)デジタルな文字は記憶をたどることが難しくなる。
7)データの短時間で大規模な盗難が考えうる。
8)認証には通常パスワードや指紋認証などを利用するが、万全なものとは言い難い。
9)改変に際して証拠が残りづらい。
といったものがあるそうです。
たしかに、セキュリティや個人情報、設備投資といった観点からすれば、容易に取り入れることは難しいかも知れませんが、データを即座に、簡単に参照できる、カルテの保管といったスペースや煩雑な書類の山からは解放されるといった利点もある。恐らく、今後は電子化が進むのでしょう。大手IT企業タッグを組んでいることからも、期待できる流れだと思われます。