2003年、カリフォルニア州に住むリンダ・ブラッドフィールドの元に、姉妹のリタとステファニー、いとこのデイビッドが遊びに来ていた。久しぶりの再会に4人は楽しんでいた。体調の不安を訴えるデイビッドは胃がんの多い家系のことも気にしていた。

実はブラッドフィールドの家系はガンで死ぬ親族が多く、リンダの祖母を筆頭にリンダ姉妹の親やデイビッドの親世代の8人中6人もガンで亡くなっていた。それから数日後、デイビッドが突然腹痛を訴え倒れた。すぐに病院で精密検査が行われたが、スキルス胃ガンのため、すでに手遅れになっていた。

医師の勧めもあり、デイビッドの血液を採取し遺伝性かを調べることにしたが、検査結果を待たず、デイビッドは40代の若さでこの世を去ってしまった。

それから数日間後、デイビッドの遺伝子検査の結果CDH1という遺伝子に、異常のある事が分かった。CDH1とは胃の内部のたんぱく質を作る遺伝子のひとつ。その遺伝子が変異すると、正常なたんぱく質が作れなくなり、胃がんの中でも悪性なスキルス胃がんを引き起こす可能性が高くなる。

デイビッドのケースは、祖母が変異したCDH1を持っていてそれが8人の子供たちに遺伝、さらに20人の孫たちにも遺伝している可能性があると考えられた。
直ちにデイビッドの妻は、この内容をデイビッドのいとこ達全員に資料を同封して送った。

手紙を受け取ったリンダ姉妹や従兄弟のダイアン、ビリーたちは、本当に自分達が胃ガンの遺伝子を受け継いでいるのか調べる事にした。そして19人が受けたDNA検査で、11人の従兄弟達に陽性反応が出た。

医師はその11人に、二つの選択肢を提示した。
一つは癌が発症しないことを祈りながら、そのまま経過観察。
もう一つは、癌が発生する前に胃を全摘してしまうということだった。

従弟達が選んだ選択肢は……。
(恐怖の家系 死の遺伝子)


スキルス胃癌とは本来、胃癌の進展様式(広がるときの形態)の一種です。したがって、厳密には胃癌の進行具合とは関係ありませんので、早期癌であってもスキルス形式の進展をするものもあります。

他の胃癌は粘膜から発生し、腫瘤を形成していくのに対し、スキルス胃癌は粘膜下に浸潤していくので、みつけにくいそうです。ただし、世間一般でスキルス癌というとスキルス形態で 進行した進行癌のことを指します。

これは、確かに予後が悪く、手術をしても再発率は非常に高くなっています。再発の形式としては、リンパ節再発、腹膜再発が多く、腹膜再発は癌性腹膜炎となり、治療の効果は非常に低く、癌の末期状態という状態です。

ですから、デイビッドさんは気づいたときには急逝なさってしまった、ということです。

CDH1とは、カドヘリンスーパーファミリーに属する標準的なカドヘリンです。
その突然変異は、胃癌、乳癌、結腸直腸癌、甲状腺癌、および卵巣癌と相関関係があると考えられています。機能の損失が、増殖、浸潤、あるいは転移の増加というかたちで、癌の進行に関与していると考えられます。

11人の選んだ選択肢は、胃の全摘でした。しかも、摘出された胃からは、早期胃癌が発見されたそうです。彼らの勇気ある選択は、正しかったのではないでしょうか。

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