がん細胞に取り込まれると光り続ける蛍光物質を、米国立衛生研究所と東京大の研究チームが開発した。マウス実験では、従来の検査では見つけにくい小さながんでも強い光を発することが確認された。微小ながんを正確に見つける新しい診断薬の開発につながる可能性があるという。

研究チームは、がん細胞に取り込まれると光るスイッチが入り、スイッチが入っている間は、がん細胞の中やがん細胞表面にとどまる物質の開発に取り組んだ。
その結果、
1)がん細胞に取り込まれると分解されて光り始め、光ると水に溶けにくくなって細胞から排出されにくい。
2)事前にがん細胞が取り込んだ酵素で処理されると光り始め、水にも溶けにくくなる
3)がん細胞表面に張り付けた結合分子と結びつくと光り始め、結合が長く続く
 という性質を持つ3種の蛍光物質を開発した。いずれも従来の物質に比べ光が強いという。

研究チームは、マウスの腹部に多数のがん細胞を植え付け、これらの蛍光物質を散布して観察。0・8ミリ以上のがんの9割以上を見つけることができ、0・1ミリのがんまでとらえることができたという。

がんの詳細な画像診断法には、がんに集まる性質を持つ造影剤を使う陽電子放射断層撮影(PET)などがある。ただ、PETで見つかるがんは現在3ミリ程度までで、解像度には限界がある。

蛍光物質を使えば、微小な変化もとらえられるが、体の深い部分にあるがんの場合、蛍光物質の光は体外から確認することができない。

研究チームの小林久隆・米国立衛生研究所主任研究員は「最近は内視鏡や腹腔鏡を使う検査や手術が主流で、それらを使って患部に近づけば、がんか否かを正確に確認できるだろう。蛍光物質は眼科の検査で使われているものに近いので、新たな検査技術への活用も可能。5年程度での実用化を目指したい」と話している。
(がん細胞:「0.1ミリ」も見逃さず 日米チームが蛍光物質開発、検査に活用へ)


本技術が臨床応用されれば、腫瘍と正常部分の境界が分かり、侵襲性を減らしたり、術後の化学療法が必要かどうかを判断する材料にできそうです。

ですが、深部の癌は発見することが難しいといったことや、癌の種類が異なっても(表皮や筋、神経、骨腫瘍でも同様な効果がみられるのか)といったことが分からない、という疑問点などが残ります。

PET検査の場合、癌組織の多くがブドウ糖代謝が活発なことを利用しているため、検出感度の良くない悪性腫瘍(胃癌の一部(signet-ring-cell cancer)、細気管支肺胞上皮癌、肝細胞癌、脳のような生理的にブドウ糖代謝の旺盛な組織における悪性腫瘍、腎細胞癌を含めた腎尿路系など)もあります。こうしたことに関しては、本技術が補ってくれるようになるのかも知れません。

脳外科手術では、蛍光色素で脳腫瘍を発光させ腫瘍の局在を明らかとするレーザー発振装置などが既に実用化していますが、今回の技術は、より汎用性の高いものであると思われます。本技術がより精度の高い、患者さんの侵襲性を減らせるものとなることが望まれます。

【関連記事】
アトピー性皮膚炎も「電流」で分かる?

縫い合わせ不要の角膜再生技術を開発