秋田大学医学部付属病院(秋田市)で昨年9月、がんの疑いがある腫瘍の見つかった母親(64)の腎臓を摘出し、腫瘍を切除した上で長男(39)に移植する生体腎移植を行っていたことが分かった。移植後の組織検査の結果、腫瘍は良性と判明したが、病院側は事前に、がんだった場合は転移の可能性がゼロではないことを文書で患者に説明し、同意を得て実施していた。病院は「がんであっても、形状などから転移のリスクは低いと判断した」としている。

昨年11月に表面化した宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)などの病腎移植例以外で、がんの疑いのある腎移植が表面化したのは国内では初めて。厚生労働省は、がんの病腎移植を一般医療で行うことを禁じる指針作りを進めている。

大学によると、長男は平成17年、慢性腎炎が悪化して腎不全となり、18年4月には週3回の血液透析が必要となった。既婚で子供が3人いるが、働けない状態となり、移植による腎機能回復を強く望んだという。

母親が提供に同意したが、CT検査の結果、左腎臓にがんの疑いがある直径約1センチの腫瘍があることが同年6月に判明。腫瘍のない右の腎臓を移植すれば、母親が腎不全に陥る恐れがあるため、病院側は左腎移植の可能性を模索した。米国の文献などを参考に、腫瘍の大きさや形状から、悪性度の低い「明細胞腺がん」か「乳頭状腺がん」であれば、部分切除で転移の可能性が低いと判断した。泌尿器科の羽渕友則教授が最終判断し、第三者による倫理審査などは行わなかったという。

病院側は手術に先立ち、通常の生体腎移植の患者に対する説明・同意手続きのほかに、がん転移のリスクに関する追加説明文書を作成し、同意署名を得た。

手術は昨年9月26日に実施。まず母親の左腎を摘出して腫瘍をくり抜き、顕微鏡による迅速病理診断を実施。その結果、悪性度の高い「紡錘細胞がん」ではないことが分かり、改めて長男に口頭で説明。同意を得た上で移植した。

移植後の病理診断で、腫瘍はがんではなかったことが確定した。長男の腎機能は回復し、母親の経過も良好という。
(がん疑いの腎臓移植 64歳母から息子に)


厚生労働省は4月23日、病気腎移植の原則禁止を盛り込んだ臓器移植法運用指針の改定案を公表しています。

宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)の万波誠医師らによる病気腎移植を契機にまとめられた関連4学会の声明を受け、改定案には「現時点では医学的妥当性がない」と明記しています。生体移植全般についても、提供者と患者の間で金銭の授受がないことを移植施設の倫理委員会で確認することなどを求めている。この夏にも運用が開始される予定のようです。

公表された改定指針案ではまず、健常な提供者にメスを入れる生体移植を「やむを得ない場合に例外として実施する」と規定。家族や移植関係者以外による提供者の意思確認と、医師の十分な説明と書面による同意を必要としています。

今回のケースでは、結局は病理診断にて腫瘍は癌ではなく、良性腫瘍であることが判明しており、"病気腎移植"のカテゴリーにはいるのかどうか難しいところです。その視点からいえば、家族間での移植であり、改定案においても問題は少ないのではないかと思われます。

ただし、病気腎移植に関しても、生体移植の一つとして治療の目的で行われる病気腎移植は、「医学的な妥当性はない」と否定していますが、将来の臨床応用を視野に入れた研究については禁止せず、その際は、国の臨床研究倫理指針に沿って移植施設の倫理委の審査を求めています。

禁止規定が有効化されたときに、今回のケースのような場合にも、審査が求められ、結果、どのように判断されるのか注目したいところです。このケースのように上手くいったという結果が積み重なっていき、ガイドラインが作成されるようになっていけば、と期待されます。

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