「(この顔は)私じゃない」。7日付フランス紙ルモンドは、2005年11月に世界初の顔面部分移植を受けたフランス人女性、イザベル・ディノワールさんのインタビューを掲載。移植前後の顔はまったく違うと述べ、複雑な胸の内をのぞかせた。

ディノワールさんは拒絶反応を抑えるために薬を飲み、半月に1度通院しているが、元気で日々快方に向かっているという。昨年2月の記者会見では言葉が不明瞭だったが、今回ルモンドは「ほぼ完璧」と指摘した。
 
ディノワールさんはドナーと家族への感謝を強調する一方、「この先も決して私にはならない。私の一部は永遠に失われてしまった」と述べた。つらい出来事として、英メディアが移植後のディノワールさんと生前のドナーの顔写真を並べた経験を挙げた。

ディノワールさんは05年5月、飼い犬に鼻と唇、あごの一部を食いちぎられ、同年11月に40代の脳死女性から提供された顔の皮膚や筋肉を移植する手術を受けた。
(再び悲劇「この顔、私じゃない!」顔面移植の仏女性)


顔面移植というと、映画『フェイス・オフ』のように、全く別人の顔をそのまますげ替えるようなイメージをもってしまったのですが、そうではなく、欠損した一部を補綴するために移植するようです。

ディノワールさんの場合、提供者の鼻や口の部分を中心に皮膚や皮下組織、筋肉、血管などを移植したそうです。

それならば、自身の一部の筋肉を使用すればいいのではないか、と思うかもしれません。ですが、顔の一部移植は患者自身の背中や尻、ももの皮膚や筋肉を利用して以前は手術が行われていたそうですが、皮膚が乾いたり、十分に機能しないなどの問題があったそうです。やはり、十分な機能や美容面での問題を克服するには、顔面の移植が必要になるようです。

こうした顔面移植は、事故などで外傷を負ってしまった場合や、神経線維腫症などの疾患による美容面の改善、悪性黒色腫などの腫瘍切除後にその部分を補填する、などに対して行われるようです。

もちろん、一般的な移植と同様に、拒絶反応や術後の感染症のような問題は存在します。以後は、免疫抑制剤を服用する必要があるでしょう。さらに、顔面移植となると、術前・術後の顔の様子はかなり感じが異なるでしょう。そうしたアイデンティティーに関する精神的な問題もディノワールさんの場合同様、生じてくるようです。今後、こうした手術が一般的になってくれば、精神的な支えなども含めた、術後のケアに関する議論も出てくるかと思われます。

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