交通事故などの衝撃で脳を保護する脳脊髄液が漏れ、激しい頭痛や目まいを引き起こす「脳脊髄液減少症」について、患者が専門医に受診するまで平均2年半かかっていることが、同症の患者らで作るNPO「サン・クラブ」(大阪市)のアンケートで分かった。病気の認知度が低いことが原因とみられ、栂(とが)紀久代理事長は「病気の情報がなく、治療に健康保険が適用されないなど、患者が『医療難民』になっている実態を知ってほしい」と話している。

同クラブが会員200人を対象に郵送でアンケートを実施。6月末までに118人から回答があった。調査結果によると、専門医への受診までにかかった期間については、1年以上だった人が38人と最多で平均2年半。専門医に関する情報についても、「自分で探した」との回答が最も多い27人で、2番目の「患者団体(サン・クラブ)から」の25人と合わせて全体の44%を占めた一方、「医師の紹介」は20人(17%)にとどまった。医師の間でもまだ広く認知されていないため、患者が専門医にたどり着くのに時間がかかる現状が浮き彫りになった。

また原因は交通事故が73人と62%を占めたが、転倒も13人(11%)、出産やスポーツもそれぞれ5人(各4%)と、軽微な衝撃でも発症したケースがあった。脳脊髄液減少症は最近になって仕組みが分かってきた疾病で、日本脳神経外科学会も昨年10月、総会で初めて討議対象に取り上げた。医療機関でも認知され始めているものの、見逃されるケースも多いという。
(脳脊髄液減少症、専門医受診まで2年半も)


脳脊髄液減少症とは、交通事故などで何らかの衝撃で硬膜のどこかが破れて液が漏れると、脳や神経が引っ張られてしまい、結果として頭や首の痛み、視力障害、めまいなど様々な症状を招いた疾患です。症状は深刻で、いつまでも続いてしまうことが多いそうです。

診断としては、MRIにて大脳の位置が下がり、頭頂部の硬膜と脳のすき間が大きくなっていることも多い、という点がポイントとなります(症状は髄液の漏出部位と必ずしも一致しません)。他には、放射性同位元素を含む試験薬を髄液内に入れ、放射線を測定して、画像診断で漏れている個所を確かめる方法もあります。

有効な治療法の一つとして自己の血液を硬膜の損傷箇所から注入して、その凝固で穴を塞ぐブラッドパッチ法が挙げられます。ですが、現時点では、交通事故などによる鞭打ち状態と脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)発症の関連が詳しく解明されていないので健康保険は適用されていません(2007年7月時点)。

ブラッドパッチ法は、具体的に患者本人の腕から20〜40ml(男性30〜40ml、女性20〜25ml)の血を取り、背中から脊椎の硬膜外腔に注入します。血液が、糊のように裂け目をふさぎます。結果として髄液の漏れがなくなり、硬膜の中の髄液も一定の圧力となって、沈んだ脳も元に戻ってきます。

脳脊髄液減少症の診療ガイドラインも策定され、今後は保険適応などもされる動きがありそうです。長らく苦しんでこられた患者さんが、解放されることが期待されます。

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