ザ!世界仰天ニュースで取り上げられていた内容です。

2002年7月。アメリカ・フロリダ州のある大豪邸で母の違う3人の子供達に見守られながら、一人のスーパースターが息を引き取った。享年83。彼の名は…テッド・ウィリアムズ。元メジャーリーガー。現在、松坂大輔投手と岡島秀樹投手が所属するボストン・レッドソックスで、1950年代に「打撃の神」と呼ばれ、不動の4番として活躍したスーパースター。獲得したタイトルは数知れず、中でも1941年、打率4割6厘という驚異の数字をたたき出したが、以後、メジャーリーグでは打率4割をマークしたものはいない。そんな国民的英雄だった彼の死後、長男であるジョンが、テッドの葬儀も行わず、埋葬もせずに死亡時の状態を保ち、保管すると宣言したのだ。

実はテッドが亡くなった日、腐敗処理をしたテッドの遺体はアリゾナ州・スコッツデールにある「アルコー延命財団」に運ばれ、全身を冷凍された。人体冷凍保存。クローン技術が進歩し人が再生できるその時まで故人や遺族の遺志により遺体を専用装置で冷凍保管しておけるシステムを利用しようというのだった。ジョンは父テッドの遺志によるものだと主張したが、この行動に関してマスコミは冷たかった。テッドの最初の妻との娘である長女ボビージョーはジョンに猛反対、通常の埋葬を主張した。

2002年9月、ボビージョーはジョンを訴えた。1997年に書かれた遺言書には、火葬しフロリダの海に遺灰を撒いて欲しいと本人の署名入りで実在していた。これに対しジョンは2000年11月2日に冷凍保存の同意書にサイン、そして判決は、2000年に作成された文書の有効性を示唆し冷凍保存を認める形となった。しかしボビーは再審を要求。再審では2000年にはテッドは昏睡状態であり、その意識が朦朧とした中でジョンはサインをさせていたという疑惑が浮かび上がった。更にテッドは生前、病床でジョンにはもう援助はしないと話していたこと、多額の借金に負われたジョンは事実、銀行2社から督促状を受け法的処置を取られていたことなどから、遺産が自分の手元に渡るかどうか分からない状況で、テッドのDNAを売ることを考えたのでは…とジョンを非難した。

結局、故・テッド・ウィリアムズの遺体の処理について、頭部は人体冷凍保存状態を維持し胴体部を遺族の元に返還火葬する決定の判決が下された。この裁判の焦点となった、冷凍保存の同意書。筆跡鑑定の結果は、本物であると認定され、有効性を認められた。一方で、ボビージョーが提出した遺言書の効力も無視できないとし、冷凍保存が頭部だけでも可能、というアルコー財団の提案を受けて切り離すことに…。両者がある程度納得しあう判決、ということになった。さらに父のDNAを売るのが目的という、ジョンの疑惑については証拠不十分とされた。こうして頭部をアルコー財団に残したまま胴体だけ火葬され遺灰は海に撒かれた。

生まれ変わってもテッドの息子でありたいと願うジョンは再生を決意。しかしそのジョンも急性白血病で余命宣告を受け、冷凍保存を求め生涯を閉じた。現在アルコー財団にはウィリアムズ親子を始め、多くの肉体が、今日も静かに眠っている。


「故人の生前における意志を尊重する」と言えば聞こえはいいですが、そこには多くの問題点を含んでいるということを考えさせられる話題でした。そもそも、しっかりとした「故人の意志」というものを吟味していないことが非常に大きな問題点であると思われます。

「死にゆく患者の意志」というのは、非常に難しい問題だと思われます。安楽死(延命拒否など、消極的安楽死を含む)などにおいても、どのような状態で残された意志なのか、本当の意志なのか、といったことが吟味すべきこととして挙げられます。

「これ以上、家族に迷惑をかけられない」と考え、延命を拒否した場合、はたしてそれは"本当の患者の意志"なのか、疑問が残ります。他にも、痛みから逃れたい一心で延命拒否を口にしているような場合や、意識レベルが下がってきていて正常な判断が下せないような状態にある場合もあるかもしれません。

ウィリアムズ親子の件でも、同様なことが言えるかも知れません。果たして、彼自身に冷凍保存のことはしっかりと説明され、テッド・ウィリアムズはそれに同意したのでしょうか。裁判では、その部分にしっかりとした答えは出ていなかったようです。

延命を望む意志があるように、「静かに眠りたい。安らかに葬って欲しい」という希望もあるでしょう。現にテッド・ウィリアムズは遺書で、火葬の後、海に散骨して欲しいと望んだようです。頭部を切り離して、保存して欲しいと、彼は望んだのでしょうか?

どうも、私は生きる者のエゴを押しつけ、冷凍保存したとしか思えません。もし蘇生技術が進歩し、見事よみがえらせることができたなら、第一声で彼は、息子に何と言うのでしょうか。気になるところです。

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