ザ!世界仰天ニュースで取り上げられていた内容です。

不妊症のため、体外受精に挑戦していたが、妊娠しない夫婦がいた。原因は妻の卵子の細胞質。核の周りにある細胞質には、細胞分裂を行うのには欠かせない多くの栄養素が含まれている。だが、妻は、高齢のため、卵子の細胞質の老化が原因で、受精した後の細胞分裂が難しくなり、妊娠しにくくなっていたのだ。

そこで、アメリカ・ニュージャージー州セントバーナス医療センターのコーエン医師の「新しい不妊療法」を提案した。その不妊治療とは、健康な第三者の女性から卵子を提供してもらいその細胞質だけを少量吸引、そこに夫の精子を混ぜ妻の卵子に注入し受精させる方法。こうすることで、老化が原因で問題のあった妻の卵子が活性化し、妊娠に至るという画期的なものだった。

コーエン医師は、この治療法で1997年に最初に子供を誕生させて以来、30組の夫婦に、この治療を施してきた。うち17人は妊娠に失敗。1人は妊娠したものの流産。残りの12人は出産に成功し、うち3人は双子を産んでいた。コーエンの報告では、15人の赤ちゃんは皆、健康に育っているという。

2001年5月4日、無事赤ちゃんが誕生。しかし数日後、夫婦は思いもよらないことを告げられた。なんとドナーの女性から健康な卵子の細胞質を吸引したとき、ミトコンドリアDNAと呼ばれる遺伝物質も混入してしまった。結果、この子供には母親と夫とそしてドナーのDNAが存在することになってしまったことが判明。自然の妊娠・出産では絶対に有り得ない事。両親のほかに第三者のDNAが混在する子供。この子の将来にどんな事態が起こるのか?全く想像がつかなかった…。

「3人のDNAによって誕生した赤ちゃん」それは、センセーショナルに報じられた。赤ちゃんはすぐに検査され何の障害も無いことが分かったが、様々な憶測とともに賛否両論の声があがった。この画期的な治療法、その後、多くの医師が行ったが、誰一人、妊娠に成功していないなど、そこには不安材料も残されている。また、ドナーと本人のミトコンドリアDNAが共存することによる危険性がいまだ十分に検証されていないため、現在、この治療法は、全米では禁止されている。


以前、卵巣年齢について書きましたが、今回はその改善策の光と影を考えさせられるテーマでした。卵巣年齢は、実年齢と必ずしも一致しません。若くして、「卵巣年齢が高くなっている」ということもあるわけです。

これは、抗ミューラー管ホルモン(AMH:anti-müllerian hormone)というもので判断します。AMHは、発育卵胞から分泌されるといわれていて(ちなみに、男児の胎児精巣からも分泌されるホルモンで、この場合はミューラー管という女性の生殖器になる部分の発生を抑える役割をもちます)、若い人ほど数値が高いとされています。こうした性質から、抗ミューラー管ホルモン(AMH)を調べることで卵巣の機能をみることができるのではないか、と考えられているわけです。

実年齢とは必ずしもあっておらず、「卵巣年齢」が高い人は、妊娠を先延ばしにするとさらに妊娠する確率が低くなる、と予想することができます。

卵子の若返り術としては、他に核移植技術による方法があるそうです。これは、高齢不妊女性の未受精卵の核を若い女性の核を抜いた細胞質の中に入れてやり、成熟したのち夫の精子と一緒にして受精させ移植する方法です。

また、最近では北九州市のセントマザー産婦人科医院(田中温院長)などが開発した方法が話題を呼んでいます。従来の方法は、核が見えやすい未成熟段階で核を入れ替えておりましたが、この場合、途中で発達が止まり、体外受精を実施する前にもう一度別の卵子と核を入れ替える必要があり、提供卵子が2個必要でした。

ですが、成熟後の卵子の核を顕微鏡で見ることができる技術を開発したため、不妊治療で採取した卵子を体外で成熟させ、このZ術を使って取り出した核を、別の患者から採取し核を除去した卵子に移したそうです。顕微授精させたところ、結果、19個の卵子のうち14個が受精。このうち12個が分割を始め、5個が子宮に戻せる段階まで成長。核を1回入れ替えるだけで、高率の受精と成長に成功したそうです。

この方法なら、ミトコンドリアDNAが混じるといったことはなさそうですが、長期的な調査結果を待たない限り、問題はないと言い切れないのが怖いところです。上記の記事内容でも、思いも寄らなかった問題が(考えれば、可能性はあると分かりますが)出てきてしまったわけです。

今後、進化し続ける技術ではあると思いますが、安全が担保されていない危険な領域に達しつつあると考えられます。どこかで歯止めを掛ける必要があると、思われます。

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