ザ!世界仰天ニュースで取り上げられていた内容です。

1986年アメリカ、テキサス州。ここに出産を間近に控えた一組の夫婦がいた。
妻はすでに妊娠6ヶ月に入っていた。6ヶ月目に入ると赤ちゃんの身長は30cm程になり手の指に爪が生えてきて、赤ちゃんが動くのも感じられるようになる。早く生まれてこないかと待ち遠しい二人。しかし、この後ある運命が待っていた。それは定期健診に訪れた時のこと。超音波で調べてみると赤ちゃんにある命に関わる深刻な異常が見つかった。

「調べたところ、赤ちゃんの尿道が完全に塞がっている様です。このままでは、排尿ができず、無事育たないでしょう」と医師に言われてしまった。実は、胎児には閉塞性尿路奇形があり、水腎症をきたしていた。つまり、この赤ちゃんの場合、尿路が完全に閉鎖され、排尿ができなくなっていた。そのため、尿が腎臓に戻り、腎臓自体が圧迫され命に危険が及ぶ恐れがあった。

「この症状で、無事出産できたケースは今までありません…。方法がないわけではありませんが、助かる見込みはかなり低いと思います」と医師は続けた。その方法とは、まだ1Kgにも満たない胎児を母体から取り出し、塞がっている部分の尿道を切除、胎児を母体に戻すという、今まで成功例がない難しい手術だった。だが、このままでは命の保証は無い。

1%でも助かる見込みがあるならと二人は手術を決意。医師から紹介されたのがハリソン医師だった。彼は8年前から胎児手術の研究を始めた第一人者。そして1986年7月22日。胎児手術が行われた。

まずは、腹部を切り、子宮を取り出す。さらに子宮を切り赤ちゃんを取り出す。次に赤ちゃんの腹部を切り塞がっていた尿道を切り開き、終ると赤ちゃんの腹部を縫い合わせた。次に胎児を元の場所に戻し、無事手術は成功した。9週間後、2778gの赤ちゃんが無事に生まれた。世界で初めて成功した胎児手術だった。母親は赤ちゃんをこの手で抱くことが出来た。


最近では、エコーなどの画像診断技術の進歩により、胎児の異常を出生前に診断することが可能となってきました。それに伴い、これまで妊娠継続や出生後の生存が困難であった先天性疾患を胎児期に手術する試みがなされています(まだ、一般的な治療行為であるとは言うのは難しいですが)。

胎児手術は、直視下(上記ニュースのように、胎児を一時的に取り出して手術)や内視鏡下による手術が行われています。適応となっているのは、胎児肺腫瘍、脊髄髄膜瘤、先天性横隔膜ヘルニア、双胎間輸血症候群、無心胎、左心低形成などがあります。

胎児・胎盤手術は、術前の問題(胎児水腫・ミラー症候群、絨毛膜羊膜炎など)や術後合併症(胎盤早期剥離・子宮出血、羊膜剥離・破水、子宮収縮・流/早産・未熟児分娩など)などの問題点を含み、成功率は必ずしも高くありません。

それでも奇跡が起こることを求め、手術を選ぶというご両親の気持ちはよく分かります。上記ニュースのように、多くの奇跡が起こることを祈っております。

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