真夜中の病院に行ったことがおありだろうか。肝試しじゃないですよ。夜間の小児救急外来がここ最近、妙に混雑しているのだ。

東京西部のある大学病院には、一晩に数十人の親子連れが訪れる。「昼間、熱が出ていたようだ。今は落ち着いたが念のため診てほしい」「他の病院で風邪と言われたが、やはり心配になって来た」——。ほとんどは軽症の子どもたち。言っておくが、救急外来は本来、命に関わる重篤な症状や病状の急変を診るための窓口である。「もうコンビニ化してますよ」。この病院の小児科医は苦笑する。

親を責めるわけにはいかない。共働きでは、「子どもが熱を出した」と保育園から連絡が来ても帰れない。近所に住む親に引き取ってもらい、自分の退社後、ようやく医者に行ける。核家族化も進んだ。昔なら家庭に年長者がいて、適切な判断をしてくれた。「大丈夫。親御さんも安心して」の一言欲しさに、暗いなか、出かけていくのだ。

しかし、病院の当直医にはたまらない。朝から外来、昼ご飯も食べられず午後も外来。そのまま当直へ突入。回診だってある。患者はぽつぽつ現れるから、ウトウトしたころにたたき起こされ、結局一睡もできずに夜が明ける。翌日はまた朝から外来だ。

医師のバーンアウト(燃え尽き症候群)が起きても、これでは仕方ない。なかには、明け方やってきて「今日からハワイ旅行なので予防注射を打ってくれ」とか、「学校に提出する水ぼうそう証明書を書いてくれ」という親子までいる。こうなると、教育界で今、話題のモンスター・ペアレンツならぬ、モンスター・ペイシェント(理不尽な要求を突きつける患者)だ。

夜間はベストな診療体制ではない。十分な検査もできないし、院外薬局が閉まっているから薬だって1日分しか出ない。「安心の太鼓判」を与えるのなら、病院でなくてもいいはずだ。あなたもいずれは子を持つ身。決して別世界の出来事ではない。
(小児科医はパンク寸前!?夜間救急外来の“奇妙”な混雑)


平成11年8月に自殺した小児科医、中原利郎さん(享年44歳)の遺族が、労災保険法に基づく遺族補償給付金を受けられないのは違法として、不支給を決定した新宿労働基準監督署の処分取り消しを求めた訴訟の判決で、東京地裁は14日、自殺を労災と認め処分を取り消した、という事例があります。

8回の宿直勤務をこなし、当直の前後は平常勤務で、勤務時間は連続24時間以上に及んでいたそうです。4月は連続32時間勤務が4度もありました。いつ呼ばれるか、いつ終わるか分からない勤務態勢の中で、疲労が積み重なり、「病院に殺される」とさえ家族に語っていたといいます。

特に地方にいる勤務医は、程度の差はあれ、こうした激務にさらされていると思われます。その一因となっているのが、夜間外来の混雑振りがあるのではないでしょうか。さらに、昼間に病院へ行くことを渋って、夜間に駆け込んでくる、というご両親が少なからずいることが、この混雑振りに拍車をかけてしまう、と思われます。

勤務医の勤務実態としては、以下のような状況にあるという報告があります。
日本医療労働組合連合会のアンケート調査によると、病院の勤務医の90.0%が「医師不足」と感じ、9割以上の人が「疲れを感じている」ことが分かったそうです。

時間外労働は月平均63.3時間で、過労死認定基準の目安である「月80時間」を超える人が31.2%に達していた、とのこと。女性医師の97.9%は生理休暇を取れず、6割近くが妊娠時に「切迫流産」などの異常を経験していました。

宿直の月平均は2.9回で、当直明けの勤務は「ある」人が74.5%。最長の連続勤務時間は平均32.3時間に上り、36〜41時間が36.8%で最も多く、30時間以上が71%を占めています。

今の健康状態については、「健康」が53.1%と過半数を超えたが、「健康に不安」(34.4%)、「大変不安」(6.3%)も目立っています。出産経験のある女性医師のうち、妊娠の状況が「順調」だったのは42.6%しかなかったそうです。なんとも皮肉な結果です。

もちろん、本当にせっぱ詰まった状況ならば救急外来に駆け込むことも仕方のないことかも知れません。ですが、「念のため」「昼間は用事があるから」といった理由で夜間に外来を訪れるのはできるだけ避け、少しでも小児科医の先生の負担を低減してあげることが、地域医療を長らく存続させていく方法の一つであると思われます。こうした状況を理解し、必要のない混雑がなくなることを望んでおります。

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