以下は、ザ!世界仰天ニュースで扱われた内容です。

2004年5月、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州ウラドゥラに、父デヴィッドと母ゲイル、そして息子タイラーと妹エルの4人が住んでいた。そんなある日、タイラーが学校から帰ると、ガレージに父デヴィッドがいて、側には大型の四輪バイクがあった。タイラーはすっかりこの四輪バイクが気に入り、週末には父とキャンプをするのが習慣になった。

そして2004年05月08日、この日デヴィッドとタイラーは、最近知り合ったバイク仲間と山の中を回る予定になっていた。すると外からバイクのエンジン音が近付いたため、デヴィッドとタイラーは外を見た。ところが、なぜかバイクは家を通り過ぎてしまった。仲間が道に迷ったのか?慣れない山の中は迷いやすい。デヴィッドとタイラーは、四輪バイクに乗り山へ向かった。この時、デヴィッドとタイラーはすぐに戻るつもりだったので、ヘルメットとプロテクターを着けて行かなかった。

二人は、舗装されていない山の中を探し回ったが、仲間の姿はなかった。どんどん山深く入っていくデヴィッドとタイラー。その時!四輪バイクの片方の車輪が太い木の根に引っかかり、バイクは転倒!二人は投げ出された。そしてそこへ四輪バイクが直撃!二人は300キロもあるバイクの下敷きになってしまった。

デヴィッドは自分の体を起こそうとしたが、体の上に四輪バイクが載っていて体が動かない。しかも隣にはタイラーが倒れていた。そこでデヴィッドはタイラーを起こし、二人で何とか四輪バイクの下から脱出した。そしてホッとした瞬間、今までに感じた事の無い痛みがデヴィッドを襲った。すぐに戻るつもりだったので、携帯も何も持ってきていない。四輪バイクはひっくり返ったままで、起こして動かす事は不可能。残る手段は、歩いて家に戻り救急車を呼ぶしかない。

そこでデヴィッドとタイラーは、家までの道を歩き始めた。だが、30分も歩くと、デヴィッドは内臓の出血により意識が朦朧として、体を支える事が出来なくなってしまった。何とか起き上がろうとするデヴィッドだが、動けない。するとタイラーは「僕が救急車を呼んでくる…」と言って、一人、山の中を歩き始めた。だが、実はこの時タイラーは肋骨を9本折り、その骨が肺に刺さっている状態だった。タイラーは、歩くたびに激痛が走る中、歯を食いしばってそれに耐え、『大好きなパパを助けたい』という一心で険しい道を歩き続けた。


当時7歳の少年がこんな重傷を負い、それにも関わらず「父親を助けたい」という一心で歩き続けた姿は、非常に感動的でした。血の気を失い、真っ青な顔をしたタイラーは母親に助けを求めると、そのまま意識を失っってしまったそうです。父親も無事救助され、二人とも元気で暮らしているそうです。

彼の体の中ではどのようなことになっていたのか、肋骨骨折でどのようなことが起こるのかを以下に記してみたいと思います。
肋骨骨折は、胸部外傷のなかで最も多くみられるもののようです。折れ方から2種類に大別できて、1)外力が直接肋骨に作用してその部位が折れるもので(直達外力)、2)外力が加わった部位から離れた場所で肋骨が折れるもの(介達外力)と分けることが出来ます。他にも、ゴルフのスィングのしすぎで疲労骨折を起こしてしまう、なんてこともあります。

もちろん、今回の場合は外力が直接肋骨に作用してその部位が折れるもの(直達外力)であり、肺損傷を起こしてしまっています。肋骨骨折の好発部位は第4〜8肋骨で、それより上部の肋骨骨折では胸郭の出口付近の血管損傷を、またそれより下部の肋骨骨折では肝臓、脾臓、腎臓などの腹腔内臓器損傷を、それぞれ合併しやすくなっています。

今回の場合では、肝臓や腎臓などは損傷していなかったようです。ですが、血管損傷は起こしていたようで、血胸(胸膜腔へ血液が貯留した状態)を生じていました。歩いている途中で、吐血してしまったシーンがありました。もちろん、骨折部位に一致して痛みがあったり、肺の外に空気が漏れている(気胸)ため、呼吸も苦しかったと思われます。

普通の子供だったら、こうした怪我を負ってしまったら歩くこともままならなかったでしょうが、気力を振り絞ってタイラーは頑張っていました。誰かを守るため、という意志は、とてつもなく強いものであると再び思わされました。

【関連記事】
仰天ニュース系の症例集

心臓震盪で倒れた少年 救助された恩を返す