自宅で療養していた祖母の容体は目の前で急変した。高齢で病気ではあったが、それほど悪くはなかった。常に荒かった呼吸が静かになったと思ったら、もうほとんど息をしていなかった。動転して、何もできなかった。救急車で運ばれた病院で息を引き取った。十数年前のことだ。
 
目の前で命が消えた衝撃は大きかった。病気だったのだ、あのとき何をしてもどうしようもなかったのだと思いはしたものの、気持ちのもっていき場がなく、少したってから日本赤十字社のだと記憶しているが、救急法の講習に通った。
 
講習で、とっさの場合、早く、適切に対処すれば命を救うことができる可能性があると学んだ。経営、料理、古典、野球…世の中に学ぶべきことは数あれど、救急法ほどみんなが学んでおかねばならないことがあるのだろうかと痛感した。
 
横浜市の消防署に勤務する救急救命士、吉田茂男さん(50)が今月11日の横浜マラソンで2度目の人命救助を果たした。吉田さんは今年2月の東京マラソンでも、ほかの救急救命士らと一緒に心肺停止状態になった男性ランナーに人工呼吸やAED(自動体外式除細動器)を施し、救命していた。横浜マラソンでは完走後、ゴール付近で待機。ゴール直前に倒れ、心肺停止状態になった男性を人工呼吸などで蘇生させたという。
 
仕事柄とはいえ、人の命を2度も救うとはすごい。「救命活動は倒れた直後なら効果が高い」と語る吉田さんの言葉は重い。取り返しのつかないことはいくつもあるが、命にかかわることで取り返しのつかないことは、死に直結する。
 
講習を受けたあと、駅のホームで男性が昏倒するところに出くわした。とっさに体が動き男性を寝かせ、気道を確保した。軽い発作だったらしく、大事に至らず安心した。
 
たった数回の受講でも、やるとやらないのとでは大違い。もっと多くの人が救急法講習を受けることを願うし、AEDを広く設置できるように予算を使ってほしい。それが、自分を救う最後の手段になるかもしれないのだから。
(もっと救急法を…)


救命処置のうち、特殊な器具や医薬品を用いずに行う心肺蘇生法を一次救命処置(Basic Life Support; BLS)と呼び、救急救命士や医師による高度な蘇生処置(心肺蘇生以外も含む)を二次救命処置(Advanced Cardiac Life Support; ACLS)と呼びます。上記の事柄はBSLの方であり、一般市民ができる範囲での救命措置法です。

方法としては、以下のように説明できると思います。
まず、倒れている人に呼びかけて、意識の有無を確認します。そして、速やかに応援を呼びます。意識がない場合には周囲の人に声をかけ救急車を呼んでもらい、また可能であれば自動体外式除細動器(AED)を手配させます。

その後は、1.意識を確認 → 2.気道を確保し呼吸を確認 → 3.どちらもなければ心臓マッサージの順番で行います(ABCの順番で覚えます。Aは気道確保Air way、Bは人工呼吸Breathing、Cは心臓マッサージCirculationです)。

最近ガイドラインで変更になったのは、心肺蘇生法の胸骨圧迫対人工呼吸法の比率を『15:2から30:2に改める』など、従来よりも胸骨圧迫に注目した点です。

さらに、脈の確認は一般の方には難しいため(喉の突起部分[喉上軟骨]からそのまま沿って頸動脈を触れます)、意識がなく普段どおりの呼吸をしていない場合、心臓が停止しているものとみなして進めます。人工呼吸はやった方が良いのですが、できない場合(血だらけや吐物が着いているなど、抵抗がある場合)は省略する、などといったように講習会では教えるところが多いようです。

やはり、日頃から講習会などに参加する機会があれば、参加しておいた方がいざ、というときに動けると思います。こうした講習会が、より一般的に学校などで受けられるようになれば、と今後の広がりに期待したいと思われます。

【関連記事】
墓地の作業員に救命トレーニング

AEDの設置箇所 最短45秒で検索可能に