米国で勤務先を通して医療保険に加入している人が急速に減少。雇用と医療保険は一体であるべきかどうかを問う議論が熱を帯びている。

2000年に69%とピークだった勤務先での医療保険加入率は今年、60%に低下。従業員3−9人の零細企業では01年の58%から45%に減少している。医療保険に入っていない人は01−05年の間に340万人増え、1900万人になった。これは全労働人口の17%に相当するという。

勤務先での保険加入者が減る主な原因は保険料の値上がりにある。ビジネスカーズ・トゥモロー社(テネシー州ナッシュビル)のライル・ケナガ社長は「これまで、15人の従業員の保険料全額を負担してきた。だが、2年間に20%も上昇すれば負担率を下げざるを得ない。今年から30%を従業員に負担してもらっている」と話す。
 
保険料は03年に13・9%も上昇したしたが、今年は6・1%の上昇にとどまっている。しかし、低所得者の負担は重い。年収4万ドル(約440万円)の人は今年、平均すると3281ドルの保険料を支払わなければならない。
 
現在、議会などで「医療保険料を税控除するという条件で個人負担にする」「行政の管理下で数人のグループで加入する」などの改革案が盛んに論じられている。

しかし、最も深刻なのは退職した人たちだ。アンジェラ・ラッギーロさんは退職して保険がなくなったため個人で入ろうとしたが、ささいな身体的不調のために保険会社が加入を認めてくれないという。「保険に入れないのはホームレスだけだと思っていたのに」と不安を募らせている。
(米国、次は企業負担の医療保険が破綻の恐れ)


以前、「貧血で倒れて1日入院しただけ」なのに病院から180万円請求された男性のことを取り上げたことがありました。この男性は、勤務部門のインド移転で解雇され、保険料月175ドルの健康保険を止めざるをえなかったそうです。会社の補助が消え、継続すると月800ドルになってしまうそうです。

どうして、こんなことになってしまったのかというと、以下のようなことが背景にあります。
大観光地などの人口の多い地域は競争が激しい分、保険会社への割引率が高く、無保険者には割高だということも、非常に高額な医療負担を強いることになったそうです。結果、CTスキャンやX線などの検査料が1.1万ドル(約130万円)、別に届いた診察料や救急車代も入れると1.5万ドル(約180万円)になったそうです。

医療保険に市場原理を取り入れてしまうことで、こうした歪みが生じる原因になると思われます。本来は、補助されるべき低所得者層が保険にはいることが出来ず、結果として高額な医療費を払わざるを得ないという現状があります。

また、企業向け保険が比較的割安にする代わりに、個人で保険に入ろうとすると高額になってしまっています。さらに、保険料の値上がりにともない、企業向け保険すら加入できない人たちも出てきている、と上記ニュースからも分かります。退職後に保険に入れないとなると、老後の健康を考えると、非常に大きな問題になると思われます。

破綻する保険会社が出てくるとなれば、国の医療を成立させることが出来なくなってしまう状況に陥るかも知れません。また、日本でも福祉税として消費税の増税が検討されているほど(来年度は見送られましたが)、逼迫しているという点からも、対岸の火事とは言えないのではないでしょうか。

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