以下は、読売新聞 医療ルネッサンスで取り上げられていた内容です。

静岡県のDさん(75)は1993年、入浴の時に、肛門から陰嚢にかけて、少し盛り上がった1円玉大の赤黒い発疹が2個あることに気がついた。以来、毎年夏になるとかゆく、ジクジクして皮がむけた。

知人に話すと「インキンタムシだよ」と言われ、市販の薬を塗り続けたが、良くなったり悪くなったりを繰り返していた。8年が過ぎた2001年、ようやく皮膚科を受診したところ、「外陰部パジェット病」と診断された。

2001年、診断を受けた病院で手術を受けたが、2年後に再発。癌が陰茎や陰嚢、肛門にまで広がっていた。紹介された清原さんの執刀で、がんのある皮膚を広範囲に切除、両足の太ももと腹の皮膚の移植を受けた。

今ではすっかり元気になったDさんは「素人判断はいけないと、思い知らされました」と苦笑いする。


パジェット病は、皮膚のアポクリン汗腺にできる皮膚癌です。ほとんどが陰部や乳房にでき、稀にわきの下やへその下などに表れてきます。特に、乳房にできるものを(乳房)パジェット病といい、外陰部、腋の下、肛門周囲などに発生する病気のことを乳房外パジェット病と言います。

乳房外パジェット病は、皮膚がんの中でも少ないですが、患者は70歳以上の高齢者が多く、男性の方が悪化しやすいといわれています。

パジェット病を発症した皮膚は、赤くなってジクジクし、硬くなります。見た目は炎症を起こして赤い発疹ができた、まるで皮膚炎にかかったようにみえます。この部分に、かゆみと痛みを伴います。パジェット病の外観はよくある皮膚炎と似ているので、確定診断には生検が必要となることもあります。

パジェット病が怖いのは、以下のような特徴があるためです。
外陰部パジェット病がやっかいなのは、実は見逃されやすいためです。陰部のかゆみ、赤い発疹、かぶれといった症状から、インキンタムシ(股部白癬)と間違われやすい上に、恥ずかしさで受診は遅れがちになってしまいます。さらに、顔にできる皮膚がんと違い、本人が黙っていると、家族も気づきにくいという特徴があります。

早期のうちは表皮内にとどまっていますが、進行すると表皮の下の真皮に潜り込んできます。特に、パジェット病は、ほかの臓器に癌が存在する頻度が高いため、全身の癌のスクリーニング検査を考慮すべきとされています。進行すると、陰部や大腿が腫れ、排尿や排便にも苦労し、生活(QOL)が大きく損なわれてしまいます。肺、肝臓に転移すれば、生存率は大きく下がってしまいます。

治療としては、手術が治療の基本と考えられます。浸潤性の癌が共存しない場合は、病変から少なくとも2cm以上、正常に見える皮膚を含めて切除することが必要とされています。摘出した標本のなかに浸潤癌を認めることもあるので、皮下組織全体を残さずに切除することが大切です。
 
切除した摘出物に浸潤癌を認めた場合には、広汎外陰切除および両側鼠径リンパ節の郭清を行います。浸潤癌をみとめると、しばしばリンパ節転移や遠隔転移がみられ、予後は不良とされています。

早期治療によって、生存率やのちのちの生活の質(QOL)も変わってきます。できるだけ早めに皮膚科で診察を受けて、治療することが重要です。なかなか治らない赤い発疹や、かぶれなどがありましたら、自己判断をするのではなく、皮膚科を訪れることが勧められます。

【関連記事】
本当は怖い家庭の医学 症例集

「白血球が基準値より少ない」とお悩みの方へ