日米の研究チームがヒトの人工多能性幹細胞(iPS細胞)作りに成功したことは、再生医療の実用化などへ向けた画期的な成果で、「ノーベル賞級」との賛辞も寄せられている。だが、安全面の課題は残り、1人の細胞から精子と卵子を作れる可能性があるなど新たな倫理的問題もある。
(再生医療など加速 倫理・安全面で課題も)

京都大による皮膚由来のヒト万能細胞の開発は、夢の再生医療に向けた大きな前進であり、医学・生物学における世界第一級の業績といえる。ES細胞につきまとう倫理的な問題を回避できる意義は大きく、再生医学の研究は一気に加速しそうだ。

開発成功は各国の研究者に衝撃を与えた。世界初の体細胞クローン羊「ドリー」の開発者は、京大チームの手法を評価してヒトクローン胚の研究を断念。国内からは「ノーベル賞級」との声も聞かれ、日本の技術が再生医学の本命に浮上する可能性も出てきた。
 
最大の課題は安全性の確保だ。万能細胞は作成過程でがんに関係する遺伝子やウイルスを使っているため、現状では「発がんの危険性により臨床応用は難しい」(中辻憲夫京大教授)。実用段階での激しい国際競争に日本が勝ち残るには、より多くの研究機関が参入できる体制づくりも重要になってくる。

一方、この万能細胞は精子や卵子も作れるため、自分と同じ遺伝子を持つ人間を作ることも原理的には可能という。クローン人間と違って現時点では法規制の枠組みがなく、新たな倫理問題を生じかねない。再生医療の実現を待ち望む多くの患者の期待に応えるためにも、研究の透明性を確保するルールづくりが必要だ。
(倫理問題回避する万能細胞 夢の再生医療へ前進)


幹細胞とは、細胞分裂を経ても、同じ分化能を維持する細胞のことです。発生における細胞系譜の幹 (stem) になることから「幹細胞」と名付けられています。

大きな特徴としては、幹細胞から生じた二つの娘細胞のうち、一方は別の種類の細胞に分化しますが、他方は再び同じ分化能を維持しています。この点で、他の細胞と異なっており、発生の過程や、組織・器官の維持において細胞を供給する役割を担っています。

また、幹細胞ではテロメラーゼが発現しているため、テロメア(細胞分裂の度に短くなり、いわば細胞の寿命を担っています)の長さが維持されている点も大きな特徴です。この幹細胞の性質が維持できなくなると、新たな細胞が供給されなくなり、早老症や不妊などの原因となります。

幹細胞は、以下のように分かれています。
1)胚性幹細胞(ES細胞)
→受精卵からつくられる胚性幹細胞(ES細胞)は全ての種類の細胞に分化する事ができる(全能性)
2)成体幹細胞(組織幹細胞、体性幹細胞)
→生体内の各組織にも成体幹細胞(組織幹細胞、体性幹細胞)と呼ばれる種々の幹細胞があり、通常は分化することができる細胞の種類が限定されている。

今回の場合は、性質としてES細胞の方に近いと思われます。全ての種類の細胞に分化する事ができる全能性をもち、ニュースでは心筋や神経細胞などにも分化できたと言っていました。

この発見には、以下のような利点があります。
再生医療の切り札ともいわれ、研究の中心だったES細胞を作製するには、ヒトの胚を使う必要があり、クローン技術を使うことにより、クローン人間に通じる研究にもつながることから、アメリカを始めとして各国では研究を規制する動きもありました。しかしながら、iPS細胞の登場により、ES細胞につきまとう倫理的な問題を回避できるという意義があります。

また、再生医療への応用という点では、臓器を自分自身の皮膚細胞から作り出すため、拒絶反応が回避できるということが大きいと思われます。そのため、慢性的なドナー不足も解消できると考えられます。

現に、イギリスのMagdi Yacoub博士率いる医療研究チームが、たった1つの幹細胞から、人間の心臓の組織を造り出すのに成功したという報告もあります。3年以内には人間の幹細胞から造った心臓の組織を、人間に移植する手術が可能になるだろうと報じられており、上記ニュースとともに、再生医療に大きな躍進をもたらしてくれると期待されます。

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