以下は、ザ!世界仰天ニュースで扱われていた内容です。
1989年07月09日、アメリカ・ミズーリ州ヒルズバラ。パトリシア・ストーリングス(26)は生後5ヶ月の息子、ライアンを連れグレノン病院に駆けつけていた。激しい痙攣を起こしているライアン。もともとライアンは生まれたときから健康状態がおもわしくなく、よく体調を崩していた。そしてこの日、グレノン病院に来たライアンが血液検査を受けたことで、意外な事実が判明する。ライアンの血液からエチレン・グリコールという毒物が検出されたのだ。
ライアンは直ぐに集中治療室に運ばれ、事件性の疑いがあるとのことから警察が病院に駆けつけた。パトリシアは状況から犯人に違いないと疑いがかけられ、捜査上パトリシアからライアンが離されることとなった。まさか自分の妻が疑いをかけられているなんて…動揺を隠せない夫デイビッド。
そして幼い息子ライアンを里親施設に預けることとなったパトリシアだったが週1回、ライアンと面会する事が許されていた。8月31日、パトリシアがライアンとの対面時間を終えた4日後、ライアンは再び体調を崩し病院へ。すると今回もエチレン・グリコールが検出。警察はすぐさまパトリシアの家を捜査したところエチレン・グリコールを発見。パトリシアは逮捕された。その後ライアンは治療の甲斐も無く、9月7日にその幼い命に終わりを告げることになった。パトリシアは殺人事件の犯人として逮捕されることになった。そしてパトリシアは裁判開始まで刑務所に拘留される事となったのだが、驚くべきことが…なんとパトリシアは2人目の子を妊娠していたのが。
1990年02月17日、パトリシアは無事第2子を出産。生まれた男の子はデヴィッド・ジュニアと名付けられた。ところが、デヴィッド・ジュニアもライアンと同じくどこか具合が悪い様子。そこで血液検査をしたところ先天性の病気『メチルマロン酸血症』である事が判明。この病気は、食物を処理する体内の酵素の代謝に異常をきたし、体内に毒素が生成され重症の場合には、死に至るほどの病気。
そして1991年02月、母パトリシアは終身刑が言い渡された。このニュースは、連日地元で大きく報じられ、セントルイス大で遺伝子研究をしているシューメーカー博士の耳にも入った。シューメーカーはある疑惑からこの事件に興味を持ち、自ら調べてみた。すると亡くなったライアンもまた『メチルマロン酸血症』を患っていることが判明。さらにスライ博士やイェール大学の世界的に有名な遺伝子学のリナルド博士に協力を要請しライアンの死亡原因について徹底的に再調査をしてみた。その結果、なんとライアンの死因はパトリシアが飲ませた毒などではなく、『メチルマロン酸血症』という先天性の病気であることが分かった。
そして1991年07月30日、逮捕から2年後、晴れてパトリシアは自由の身になったのである。あの時、ライアンがすぐに『メチルマロン酸血症』だと分かっていれば…息子ライアンを失い、自らも息子殺しの容疑で逮捕という過酷な状況の中あきらめなかったパトリシア。自らの冤罪は晴らしたものの、この事件で失ったものは計り知れない。
メチルマロン酸血症とは、体液中に大量のメチルマロン酸が蓄積し、重篤なケトアシドーシスを生じる有機酸代謝異常の一つです。その大部分は、メチルマロニルCoAムターゼという酵素の異常によって起こります。
メチルマロニルCoAムターゼとは、分岐アミノ酸の中間代謝経路に位置しており、蛋白質や脂質などを分解して生じるメチルマロニルCoAをスクシニルCoAに変換するのに重要な酵素です。メチルマロン酸血症の患者さんは、それができずに細胞内にメチルマロニルCoAが大量に発生してしまい、その影響で、メチルマロン酸やプロピオン酸、メチルクエン酸、3-OHプロピオン酸などの異常な代謝産物も発生してしまいます。
なお、このメチルマロニルCoAムターゼという酵素は、ビタミンB12を補酵素としています。ですので、メチルマロニルCoAムターゼが正常に機能していても、生体内のビタミンB12の代謝経路に異常があれば、この反応は起こらなくなりメチルマロン酸血症となります。
よって、メチルマロニルCoAムターゼという酵素に異常があるか、もしくは、メチルマロニルCoAムターゼの補酵素であるビタミンB12が不足することが原因で、体内にメチルマロン酸を中心とした有機酸などが大量に発生してしまう、というわけです。
メチルマロン酸血症の症状や治療としては、以下のようなものがあります。
1989年07月09日、アメリカ・ミズーリ州ヒルズバラ。パトリシア・ストーリングス(26)は生後5ヶ月の息子、ライアンを連れグレノン病院に駆けつけていた。激しい痙攣を起こしているライアン。もともとライアンは生まれたときから健康状態がおもわしくなく、よく体調を崩していた。そしてこの日、グレノン病院に来たライアンが血液検査を受けたことで、意外な事実が判明する。ライアンの血液からエチレン・グリコールという毒物が検出されたのだ。
ライアンは直ぐに集中治療室に運ばれ、事件性の疑いがあるとのことから警察が病院に駆けつけた。パトリシアは状況から犯人に違いないと疑いがかけられ、捜査上パトリシアからライアンが離されることとなった。まさか自分の妻が疑いをかけられているなんて…動揺を隠せない夫デイビッド。
そして幼い息子ライアンを里親施設に預けることとなったパトリシアだったが週1回、ライアンと面会する事が許されていた。8月31日、パトリシアがライアンとの対面時間を終えた4日後、ライアンは再び体調を崩し病院へ。すると今回もエチレン・グリコールが検出。警察はすぐさまパトリシアの家を捜査したところエチレン・グリコールを発見。パトリシアは逮捕された。その後ライアンは治療の甲斐も無く、9月7日にその幼い命に終わりを告げることになった。パトリシアは殺人事件の犯人として逮捕されることになった。そしてパトリシアは裁判開始まで刑務所に拘留される事となったのだが、驚くべきことが…なんとパトリシアは2人目の子を妊娠していたのが。
1990年02月17日、パトリシアは無事第2子を出産。生まれた男の子はデヴィッド・ジュニアと名付けられた。ところが、デヴィッド・ジュニアもライアンと同じくどこか具合が悪い様子。そこで血液検査をしたところ先天性の病気『メチルマロン酸血症』である事が判明。この病気は、食物を処理する体内の酵素の代謝に異常をきたし、体内に毒素が生成され重症の場合には、死に至るほどの病気。
そして1991年02月、母パトリシアは終身刑が言い渡された。このニュースは、連日地元で大きく報じられ、セントルイス大で遺伝子研究をしているシューメーカー博士の耳にも入った。シューメーカーはある疑惑からこの事件に興味を持ち、自ら調べてみた。すると亡くなったライアンもまた『メチルマロン酸血症』を患っていることが判明。さらにスライ博士やイェール大学の世界的に有名な遺伝子学のリナルド博士に協力を要請しライアンの死亡原因について徹底的に再調査をしてみた。その結果、なんとライアンの死因はパトリシアが飲ませた毒などではなく、『メチルマロン酸血症』という先天性の病気であることが分かった。
そして1991年07月30日、逮捕から2年後、晴れてパトリシアは自由の身になったのである。あの時、ライアンがすぐに『メチルマロン酸血症』だと分かっていれば…息子ライアンを失い、自らも息子殺しの容疑で逮捕という過酷な状況の中あきらめなかったパトリシア。自らの冤罪は晴らしたものの、この事件で失ったものは計り知れない。
メチルマロン酸血症とは、体液中に大量のメチルマロン酸が蓄積し、重篤なケトアシドーシスを生じる有機酸代謝異常の一つです。その大部分は、メチルマロニルCoAムターゼという酵素の異常によって起こります。
メチルマロニルCoAムターゼとは、分岐アミノ酸の中間代謝経路に位置しており、蛋白質や脂質などを分解して生じるメチルマロニルCoAをスクシニルCoAに変換するのに重要な酵素です。メチルマロン酸血症の患者さんは、それができずに細胞内にメチルマロニルCoAが大量に発生してしまい、その影響で、メチルマロン酸やプロピオン酸、メチルクエン酸、3-OHプロピオン酸などの異常な代謝産物も発生してしまいます。
なお、このメチルマロニルCoAムターゼという酵素は、ビタミンB12を補酵素としています。ですので、メチルマロニルCoAムターゼが正常に機能していても、生体内のビタミンB12の代謝経路に異常があれば、この反応は起こらなくなりメチルマロン酸血症となります。
よって、メチルマロニルCoAムターゼという酵素に異常があるか、もしくは、メチルマロニルCoAムターゼの補酵素であるビタミンB12が不足することが原因で、体内にメチルマロン酸を中心とした有機酸などが大量に発生してしまう、というわけです。
メチルマロン酸血症の症状や治療としては、以下のようなものがあります。
メチルマロニルCoAやメチルマロン酸やプロピオン酸、メチルクエン酸などが異常にっ発生してしまうため、新生児期または乳児期からの著明な代謝性アシドーシス(体内のpHが酸性に傾いてしまう)が起こります。
患者さんの多くは、アシドーシス、ケトーシス、嘔吐、痙攣、意識障害などで発症します。上記のニュースのように、ライアンもミルクを飲んだ後、嘔吐を繰り返していました。頻回の嘔吐などを起こし、脱水で死亡する場合も多いと言われています。また、大量な有機酸はアンモニアの処理を阻害するため、高アンモニア血症もきたしす恐れがあります。将来的には、神経障害、腎機能の障害、心筋症を合併することもあります。
治療法としては、メチルマロニルCoAムターゼ欠損型(VitB12非反応性)の患者さんでは、体内から速やかにメチルマロニルCoAの除去を行うために補液、腹膜透析、血液交換を行い、急性期以降に食事療法による治療が行われています。
薬剤としては、腸内細菌によるプロピオン酸の産生抑制のためメトロニダゾール(抗生物質)を投与したり、吐き気の抑制のためにガスモチンを投与したりします。
これに対して、ビタミンB12代謝経路異常型(vitB12反応性)では、ビタミンB12の大量投与を行います。
食事療法としては、蛋白制限(1.0〜1.5g/kg/day)を行います。ただ、前駆体を除いたアミノ酸製剤により補充を行ったり、エネルギー、ビタミン、ミネラルを与えるために特殊ミルク(無蛋白ミルク)、ビタミン剤を摂取することも必要です。
このニュースの不幸の始まりとしては、病院で「エチレングリコールが検出された」と判断してしまったことや、メチルマロン酸血症であると診断することが出来なかったことにあると思われます。そのため、我が子を亡くしてしまい、こともあろうにその罪を疑われてしまう、という結果になってしまいました。
医師として働くことは、多くの患者さんの人生を預かることである、ということを再認識させられたニュースでした。
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仰天ニュース系の症例集
体温32℃で血液が固まってしまう病気−寒冷凝集素症
患者さんの多くは、アシドーシス、ケトーシス、嘔吐、痙攣、意識障害などで発症します。上記のニュースのように、ライアンもミルクを飲んだ後、嘔吐を繰り返していました。頻回の嘔吐などを起こし、脱水で死亡する場合も多いと言われています。また、大量な有機酸はアンモニアの処理を阻害するため、高アンモニア血症もきたしす恐れがあります。将来的には、神経障害、腎機能の障害、心筋症を合併することもあります。
治療法としては、メチルマロニルCoAムターゼ欠損型(VitB12非反応性)の患者さんでは、体内から速やかにメチルマロニルCoAの除去を行うために補液、腹膜透析、血液交換を行い、急性期以降に食事療法による治療が行われています。
薬剤としては、腸内細菌によるプロピオン酸の産生抑制のためメトロニダゾール(抗生物質)を投与したり、吐き気の抑制のためにガスモチンを投与したりします。
これに対して、ビタミンB12代謝経路異常型(vitB12反応性)では、ビタミンB12の大量投与を行います。
食事療法としては、蛋白制限(1.0〜1.5g/kg/day)を行います。ただ、前駆体を除いたアミノ酸製剤により補充を行ったり、エネルギー、ビタミン、ミネラルを与えるために特殊ミルク(無蛋白ミルク)、ビタミン剤を摂取することも必要です。
このニュースの不幸の始まりとしては、病院で「エチレングリコールが検出された」と判断してしまったことや、メチルマロン酸血症であると診断することが出来なかったことにあると思われます。そのため、我が子を亡くしてしまい、こともあろうにその罪を疑われてしまう、という結果になってしまいました。
医師として働くことは、多くの患者さんの人生を預かることである、ということを再認識させられたニュースでした。
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