以下は、ザ!世界仰天ニュースで扱われていた内容です。

2001年1月、イギリス・ヨーク州の小さな町で一匹の子犬が生まれた。名前はオルカ。オスのゴールデンレトリバーで、とりたてて優秀というわけではなかったが、穏やかで優しいオルカは、介助犬としての14ヶ月の厳しい訓練を終え、2003年3月、介助犬として初めてサポートすることとなった。

サポートする相手は、23歳の大学院生シェリル・スミス。彼女は不幸続きの人生を送ってきた。不幸は、12歳の時始まった。突然、左ひざに激痛が。病院での検査結果は「反射性交感神経性ジストロフィー」。

「反射性交感神経性ジストロフィー」とは、ケガなどでダメージを受けた交感神経系が正常に働かず、やがて骨も萎縮し始め激しい痛みに襲われるという極めて珍しい病気。命に関わる病気ではないが特効薬もなく、リハビリを続け、痛みをやわらげる薬を飲むしか、治療法はなく、痛みは今後ますますひどくなる一方だった。

実は彼女の両親は離婚していて、母は女手ひとつでシェリルを育ててきた。病気の恐怖、そして、母に負担をかけることが、シェリルを苦しめたが、「本をたくさん読み勉強しなさい。あなたの賢さは、病気なんて跳ね返すわ。困った時は遠慮しないで」という、教師の言葉に度々救われた。その教えを守り、勉強に励んだ。

そんな時母は、経済力のない男と再婚する。自分に居場所はないと感じたシェリルは、14歳で家を出て、信頼する教師の元から学校に通って勉強を続けた。そして、成績優秀者が得られる奨学金で高校に進学。そこでも、優れた成績を修め、名門・ヨーク大学に合格し、さらに、大学院にも飛び級した。1人暮らしとなり、誰にも頼らず生きていこうと決めたが、病は、容赦なく体をむしばむ。その痛みはやがて、左足全体になった。結果、車椅子での生活を余儀なくされた。

病気の進行とは裏腹に、弱いと思われたくない意識が高まる。車椅子で、困ることがあっても素直になれない。そんな中、濡れた床ですべり、転倒し、両腕を骨折した。ペンすら持てず、大学院は休学するしかなかった。「もう、生きる意味がわからない…」と絶望するシェリルに、大学院の教授からパートナーとして介助犬を薦められた。

そのパートナーがオルカだった。この日までの訓練で、105項目もの命令をこなせるようになっていた。だが、訓練士の「これからはあなたを助けながらオルカ自身新しいことを学んでいきます。…ただしあなたがオルカをパートナーとして信頼することが大切です。心が通わなければ、オルカは介助犬の役割を果たせません」という言葉ははシェリルには届いてなかった。

訓練された命令でなければ的確な行動を取れない。その上、シェリルはオルカを信頼しておらず、良い関係が築けない。オルカは混乱するばかりだった。それでもオルカは、シェリルの傍を離れなかった。

そして、オルカが来て2ヶ月。いつもと違う散歩道を車椅子で出かけるシェリルに拒絶されながらもオルカがついていった時、事件は起こった。車椅子の動きを遮られ、無理に抜け出そうとした。シェリルは、そのまま崖下へ6mの高さを滑り落ちてしまった。結果、泥池に顔から入ってしまった。その上、のしかかった車椅子が体とともに、泥に埋まり顔まで抑えつけられていた。

そこは人のいない静かな森。シェリルは初めてオルカを頼った。もちろん、こんな訓練など受けていないが、オルカは彼女の靴を噛み引っ張った。顔をあげていなければ泥に沈む。オルカは、車椅子を動かそうともしたが、どうすることもできない。生きる気力さえ失っていたシェリルだが今は生に執着した体温が奪われ、冷たくなっていく泥だらけの手。オルカが暖めようと舐めた。

そして、絶体絶命の危機を感じ取ったオルカは、崖の上へと駆け登った。森を抜けること2.5Km。オルカは町はずれへと出る。そこで、ジョギング中の男性をとらえた。すかさず駆け寄り、男性がそのまま走り出すとまた、駆け寄ってくるという行動を繰り返した。犬の謎の行動に男性も興味を持ち、後をついていった。そんな彼を、2.5Kmも時々、振り返りながら引っぱらなければならない。

半信半疑、ついてくる男性をたびたび立ち止っては振り返りチェックするオルカ。そして、ついに男性はオルカが駆け降りた崖下にシェリルを見つけた。転落から2時間が経過し、すでに体温は大分下がっていたが、意識も戻って彼女は助かった。


その後、オルカとも信頼関係を築くことが出来、現在では大切なパートナーとなっているようです。そしてシェリルは、もう1人のパートナーを得ました。彼女は、大学院を卒業後、化学の教師となり、そして彼女を救助した男性と結婚したそうです。

不幸続きの人生ですが、その中でも幸福は存在している…そんな希望を抱かせてくれるストーリーでした。

彼女の患っていた「反射性交感神経性ジストロフィー」とは、以下のようなものを指します。
「反射性交感神経性ジストロフィー」とは、外傷などの不完全の末梢感覚神経の損傷の後に、障害神経の支配部位を越えて燃えるような痛み感じることを特徴とした疾患です。

症状としては、慢性の疼痛が生じ、皮膚温低下、浮腫などの血管運動障害や、それに引き続いて筋萎縮、皮膚、爪の退行性変化や骨粗鬆症などの栄養障害をきたします。

発症の原因としては、骨折、捻挫、打撲などの外傷によって末梢神経が傷害により絶えず刺激され、体性感覚神経線維(体に『痛みが生じている!』と知らせる神経)を介して痛みの刺激が、脊髄で介在するニューロン群に入り、そこで痛み刺激を強化するそうです。そして、反射性の異常を生じ、この痛みの刺激が脊髄(側索)の神経細胞を刺激し、交感神経遠心線維を持続的に興奮させる、と考えられています。

つまり、ここまでをまとめると、以下のようなメカニズムが考えられます(もちろん、詳細は未だに分かっていない状態ですが)。
外傷によって末梢神経が傷害される。

末梢神経が傷害により絶えず刺激される。

痛みの刺激が脊髄で強化されてしまう。

その強化された刺激が、脊髄の側索に伝えられて、交感神経を刺激してしまう。

末梢神経に交感神経の過亢進状態が続き、血管収縮などを起こして局所の血流低下をもたらす。

ですので、慢性疼痛→血管運動障害→栄養障害→加えて運動麻痺、不随意運動など運動系の障害…といった症状が現れてくると考えられます。

もちろん交感神経の過亢進状態が原因にあるのですから、治療としては、交感神経節ブロックや静脈潅流などの交感神経遮断が考えられ、効くこともあるそうです。そして、そのことが反射性交感神経性ジストロフィーの診断の根拠ともなります。

ですが、長期的予後は必ずしも良好ではなく、重症例では筋は進行性に萎縮し、皮膚、骨は退行性に変性してしまうそうです。患者さんは患肢を使おうとせず、同じ肢位でじっとした姿勢を保ち、進行してしまうと、ついには廃用(機能を失ってしまう)に至ることもあります。

上記の通り、根本的な治療法はなく、交通事故などでこうした後遺症に苦しまれる方もいらっしゃるそうです。シェリルが自暴自棄になってしまうことになってしまうことも分かりますが、それを救ってくれたオルカの存在が非常に大きいと思われます。

介助犬は、全国で38頭(2007年5月時点)活躍しているそうです。今後、より身近に、そして介助犬に理解が広まることが望まれます。

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