以下は、最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学で扱われていた内容です。

定年退職後、近所の駐車場で夜勤のアルバイトを始めたT・K(65)さん。ある朝、乾いた咳と微熱が出た彼は、2週間経っても症状が治まらないため病院を訪ねたところ、結核と診断されました。

幸い軽い症状だったため、入院の必要はなく外来で投薬治療を始めたT・Kさん。しかし、一日に飲む薬の量が膨大(9錠と一包を一日)な上、最低でも6ヶ月間服用し続けなければなりませんでした。それでも当初は薬をきちんと飲み続けたT・Kさんでしたが、2ヶ月後、症状が軽快すると、次第に薬を飲まなくなり、病院からも遠ざかってしまいました。

保健所から、「薬をしっかりと飲んでますか?」という連絡が入りましたが、「飲んでます」と嘘を吐いてしまいました。その後も、病院にも行かず、薬を飲むことも止めてしまいました。

しかし、その6ヶ月後、恐れていた事態が起こってしまいました。ある朝起きてみると、半年前のように乾いた咳がでる。「これは…再発か?」と思い、不安になりながら再び病院を訪れたT・Kさん。そこで医師は、「結核の専門病院を紹介します」と告げました。

1ヶ月後、専門病院に移ったT・K(65)さんに、医師は「薬が効かない結核菌に感染しています」と告げられてしまいました。さらに2年後、T・Kさんは亡くなってしまいました。

T・Kさんの命を蝕んだ病の正体は、以下のようなものでした。
T・Kさんは、「多剤耐性結核」を患っていました。
結核は、抗結核薬で治療を行います。現在は、耐性獲得の危険があるため単剤での治療は行いません。必ず、複数の併用療法を行います。イソニアジド (INH)、リファンピシン (RFP)、ピラジナミド (PZA)、エタンブトール (EB)(またはストレプトマイシン (SM))の4剤併用療法を行うべきであると考えられています。

ですが、T・Kさんのように薬を飲まなくなることや、副作用で薬が飲めなくなることなどで、「多剤耐性結核」を患ってしまうことがあります。そもそも結核菌は、病巣に1億個ほど存在し、その全てを殺さなければ完治はしません。

ところが、処方された薬を全て飲まなかったり、副作用で薬が飲めなくなったりすると、菌は生き残ってしまうばかりか、逆に薬に対して抵抗性を持った菌が残って増殖してしまいます。それまで効いていた薬が効かない、新たな結核菌になってしまうのです。特に、イソニアジドおよびリファンピシンの二者に耐性をもつ菌は多剤耐性結核菌と呼ばれ、治療に難渋することがあります。生存率は10年間で約60%であり、半数近くの人が死に至ってしまいます。

約10種類の有効な抗結核薬があり、3〜4種類の薬を6〜9カ月間服用することで治すことができます。治療を正確に完了した場合、再発率は5%未満とされています。ですが、治療中断により結核菌に耐性ができ、集団感染することが問題となっています。

こうした菌を生み出さないためには、薬が効く段階、つまり最初に結核と診断されたときに、最後まできちんと飲み続けることが大切です。

最近では、DOTS(Directly Observed Treatment,Short-course) 、日本語に訳せば直接監視下短期化学療法と呼ばれる取り組みが成されています。これは、結核患者を発見し治すために世界中で使われている戦略であり、薬の強力な組み合わせであるそれぞれの用量を患者が飲み込むのを直接確認し、そして患者が治癒するまで保健サービスが経過をモニターする、というものです。しかし、まだ十分に浸透しているとは言えない状況です。今後は、こうした治療が広まっていくことが期待されます。

治療が難しい多剤薬剤耐性結核が増加しないように、結核を治療中の方は、しっかりと薬を飲み続けてもらうようお願いいたします。

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