以下は、ザ!世界仰天ニュースで扱われていた内容です。

2003年、中国蘇州市ルーズチェンに住む邱(キュウ)さん夫婦に一人の男の子が生まれた。名を『建文』と付けられ、両親から大切に育てられた。建文が1歳になった頃、母親がミルクをあげようとすると、建文の口の周りに白い粉がついていた。その後も口の周りに白い粉がつく日が続いていたことに気づいた。

注意深く建文を見ていると、何と白い粉の原因は壁だった。建文は壁をほじくり口にしていたのだった。慌てて母親が壁から離すと、建文は泣き出した。そして壁の粉を口にすると泣き止むのだった。父親が、壁の粉を食べてみたが、普通の土で食べられるものではなかった。そこで両親は、建文にタップリと食事を与え、壁を食べないように注意して見ていた。しかし、建文はまた壁を食べていた。そして3歳になっても建文は、ナイフや歯ブラシでごしごしと石灰を細かくしては口に運び続け、遂には家の壁に20センチもの大きな穴が開くほど削られてしまった。一向にやめる事はなく、とうとう建文のお腹は、膨れてカチカチに硬くなっていった。

そんなある日、建文が倒れてしまった。両親はすぐに病院で検査をしてもらい、1週間後、その検査結果が報告された。医師が告げた病名は『溶血性地中海貧血』。これは遺伝性疾患で、正常な血液をつくることができないために起こる病気。両親の両方がこの欠陥遺伝子を持っていなければ、この病気にはならないと説明された。しかも重症になると、最終的に死に至る難病だった。骨髄移植が出来れば治る可能性は高かったが、ドナーがすぐに見つかるのか…。

出来る限りの治療を続けている中、両親から建文が壁の土を食べていたと聞いた医師は、衝撃的なことを口にした。なんと、建文が壁を食べていたのは、生きるためだったという。これは一体どういう事なのか?建文は鉄分過剰な状態になった体を守るため、土壁に含まれているカルシウムを摂り、鉄の吸収を抑制していたのだ。つまり、土壁の石灰が薬になっていたという。そうとは知らず、建文を怒ってしまった両親は泣き崩れた。何とかして建文を助けたい。しかし、移植に40万元(約600万円)もかかりとても払える額ではなかった。

そんな中、病院に新聞社から電話が入った。そして建文の事を上海のマスコミが取り上げると、次々と多額の募金が集まった。しかし、まだ問題は解決していなかった。移植の費用はあっても肝心の骨髄がない。そこで両親は、もう1人子供を作ることを医師に相談。しかし、医師はもう1人産んだとしても、その子供も欠陥遺伝子を持って生まれる可能性が非常に高いとして反対した。

適合する骨髄が見つからないまま、建文の体は激しい苦痛と戦っていた。そして2006年12月、建文に素晴らしいクリスマスプレゼントが届いた。中国を訪れた台湾の女性歌手が建文のことを知り、台湾で募金活動が展開されニュースとして放送された。それを見た20歳の男性の骨髄が一致したのだ。そして2007年3月、中国と台湾の間で、命を守る善意の骨髄搬送が行われることになった。生きるために壁を食べるという奇妙な行動をとっていた建文。この建文の必死で生きようとした姿が、人々を動かし、小さな命を救ったのだった。


上記の疾患は、恐らくサラセミア(地中海性貧血 Mediterranean anemia)ではないかと思われます。地中海沿岸地方(ギリシア,イタリア,アフリカ)に多発する重症の先天性溶血性貧血で、ギリシア語の海(thalassa)にちなんで、サラセミア(地中海性貧血)と呼ばれるようになりました。

サラセミアとは、ヘモグロビンを構成するグロビン鎖の合成障害による疾患です。つまり、グロビン鎖の合成障害(4つのアミノ酸の鎖のうち1鎖の産生が不均衡なために生じる)があるため、正常な赤血球が作られません。産生が低下するグロビン鎖により、αサラセミア、βサラセミア、δβサラセミア、ヘモグロビン(Hb)構造変異型に分類されます。

産生が抑制されていない単鎖グロビン鎖は過剰に産生され、不安定な状態で赤血球内に変性沈殿します。この変性封入体をもつ赤芽球や赤血球(異常な赤血球)は脾臓の網内系で貪食され、溶血を起こします。

つまり、正常なヘモグロビン(グロビン鎖)を作り出せない→異常な赤血球が出来てくる→異常な赤血球をチェックしている(本来は、古くなった赤血球などを破壊している)脾臓が、その赤血球を破壊してしまう→貧血になる、という流れです。

日本でも、頻度は低いながらに患者さんはいらっしゃいます(βサラセミアは1,000人に1人の頻度、αサラセミアはそれより頻度が低い)。

臨床症状から、重症型や中等度型、軽症などに分けられます。
特に重症型(ヘモグロビンのα鎖グロビンやβ鎖グロビン合成を強く抑制した遺伝子を両親から受け継いだホモ接合体または二重ヘテロ接合体)などでは、胎児水腫(α鎖グロビン遺伝子の全てが欠損したαサラセミア-1のホモ接合体では)などで流死産してしまうこともあります。出生数か月後から、発熱や下痢などの消化器症状、皮膚色素沈着、肝脾腫、成長障害、高度の無効造血、溶血性貧血が起こります。残念ながら、成人に達するまでに、感染症などで死亡することが多いといわれています。

治療に関しては、以下のようなことが行われます。
一般に慢性溶血性貧血では、赤血球産生亢進に伴い葉酸の需要が高まるので(赤血球を作る上で必要になる)、葉酸(フォリアミン)の少量投与(0.15〜0.3mg/日)を行います。重症例では
輸血
→破壊されてしまった赤血球を補う目的である。重症の貧血の場合は、長期間にわたる計画的な輸血が必要。ただ、Hb7.5g/dl以上では発育・成長にあまり支障はないので、輸血はヘモシデローシスの発症をできるだけ予防するため、必要最小限にするのが望ましいとのこと。

摘脾
→頻回な輸血が必要な例では絶対的適応となる。他にも、巨大脾腫による機械的圧迫症状の出現(お腹の中で大きくなってしまい、他の臓器を圧迫している場合)、脾機能亢進による血小板・白血球減少が出現した場合も、摘脾の適応となります。

鉄キレート薬
→鉄の中毒など生体内に鉄が過剰に存在する時に用い、鉄とキレートを形成し、体外に排泄させる作用のある薬物。溶血によって、体の中に多くなりすぎた鉄を排泄する必要がある場合に用いる。

こうした治療の他に、根治治療として最近では、骨髄移植による治療も行われています。建文くんの場合も、骨髄移植が行われていました。

上記ニュースでは、「建文は鉄分過剰な状態になった体を守るため、土壁に含まれているカルシウムを摂り、鉄の吸収を抑制していたのだ」と説明していましたが、これは土壁が鉄キレート薬(デスフェラールなど)の代わりをしていたのではないか、と考えられます。

どうして食べ始めたのかは分かりませんが、そこは人間の本能というものでしょうか。結果、重篤なヘモクロマトーシス(体内に過剰に蓄積した鉄が全身の実質細胞に沈着してさまざまな臓器障害、特に肝や膵、心臓、下垂体などに異常をきたす疾患)は避けられたようです。非常に興味深いニュースでした。

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