東京都は19日までに、一部で出産の受け付け中止に追い込まれている都立病院の産科医不足解消に向け、2008年度から産科医の年収を最大約300万円アップさせることを決めた。「今できる範囲で最高の環境を整える」との姿勢で産科医確保に臨む。

都によると、「都道府県と政令指定都市の公立病院で一度にこれだけの待遇改善を図るのは聞いたことがない」という。

都立病院の医師は減少傾向にあり、特に産科医は定数47人に対し35人(昨年10月現在)にとどまるなど深刻。産科がある5病院のうち、豊島、墨東の2病院は平成18年から通常のお産の受け付けを中止している。

総務省の17年度調査によると、都立病院の医師の平均年収は約1200万円。都道府県と政令市の計61団体中、最下位のため、都は勤務条件の向上が必要と判断。

都立病院医師の給与に上乗せしている「初任給調整手当」を月約17万5000円から、産科医の部長や医長で約30万7000円、一般医で約26万9000円とし、産科以外の医師より増額幅を手厚くした。緊急手術を伴うお産を担当すれば、1件当たり4750円を支給する手当や、専門医の養成を担当した場合に日額4500円を払う指導医業務手当も新設する。

これらの改正で勤務状況によっては、35人の約半数の部長や医長は最大で約300万円の増収が見込まれるという。

産科以外でも指導医業務手当を適用するほか、調整手当も一律アップさせ「全国中位の給与水準に押し上げる」(都病院経営本部)としている。

また、女性医師らの育児と仕事の両立支援策として、24時間体制の院内保育室を20年度に都立病院の2カ所に設置するなど労働環境の改善を図る方針だ。
(産科医の年収300万円増 都が待遇改善へ)


朝日新聞が全国80大学の産婦人科医局に実施した調査で、大学病院でも医師不足が深刻になっている実態があきらかになっています。夜間の出産への対応に加え、トラブルがあればすぐに訴訟になるといった理由から敬遠傾向にある中、地域の病院に派遣していた医師を引き揚げても補えず、5年間で医師が半減した大学も多いそうです。

具体的には、西日本のある私立大の産婦人科医局は07年3月時点で、教授、講師、助手、大学院生の4人しかいない状況だったそうです。02年度以降、新規入局者はゼロ。病院での診療は、大学院生以外の3人で分担。当直は組めず、夜間の緊急時には教授が駆けつけることもあるそうです。2006年の分娩数は約170件で前年の半分ほど。新生児を診る医師も昨年やめ、母子の命にかかわるような危険なお産は受け入れられない、とのこと。

また、最近では群馬県で、群馬県立がんセンターの婦人科に派遣している医師3人のうち2人を、2007年4月に引き揚げることになりました。残る1人もいずれは引き揚げる予定で、すでに1月から新規の患者は受け入れていません。県内で婦人科のがんに十分対応できるのは、同センターを含め数施設。中でもセンターの手術件数は年約200件で最多だったため、地域の婦人科医療の中核が役割を果たせなくなってしまいました。

こうした状況を反映するかのように、医学生の産婦人科離れも進み、以下のような調査も出ています。
臨床研修で医学生と病院の取り次ぎを行う「医師臨床研修マッチング協議会」が昨年行った調査によると、「将来的に進みたい診療科」(回答数2224人)に、産婦人科を挙げた医学生(一部卒業生を含む)は131人。最も多かった内科(743人)の5分の1以下だそうです。

背景としては、やはりキツイ労働条件に訴訟リスクが高いといったことがあると思われます。昼夜を問わぬ分娩など、産婦人科医の労働条件は過酷だという。激務のうえに高い訴訟率、少ない診療報酬、医学生の産婦人科離れなどの要因が重なり、慢性的な医師不足から脱却できないでいるとのこと。他に、いわゆるメジャー(一般内科・外科)以外にはなかなか興味を持たれない、といったことがあるそうです。

こうした問題を受け、産科医の不足理由として挙げられる「非常に厳しい勤務環境」「訴訟リスク」を是正するため、まずは報酬面および無過失補償制度導入を目指すと方針を示したようです。

舛添要一厚生労働相は2007年9月、地方を中心に深刻化している産科の医師不足問題について「勤務医の勤務環境が非常に悪い。やはり報酬という面で見てあげないと。それはやりたい」と述べ、勤務医の診療報酬を引き上げる方針を示しています。

また、医師の過失を立証できなくても患者に金銭補償する無過失補償制度に関して、「まず脳性まひのケースについて具体的にスタートさせる」と強調。産科医減の原因の一つとして医療事故による訴訟リスク問題があることを踏まえ、制度導入に向け具体策作りを進めていることを明らかにしています。

こうした労働環境を見直すことは、もっと早く取り組んでいれば、と悔やまれます。病院運営ができないほどに深刻な状況に陥ってしまっては、人員確保などにも今後、時間が掛かり、その間に患者さんたちが大きな不利益を被ってしまうと考えられます。しかしながら、その改善の第一歩が取り組まれ始めたということは、歓迎すべきことではないでしょうか。

【関連記事】
医師不足問題のまとめ

産婦人科医数の地域格差が最大で2.3倍に