「子供の泣き声を聞いた時は、全身が震えるぐらいうれしかったです」
神奈川県伊勢原市の主婦A子さん(41)は昨年11月、体重2865グラムの元気な男の子を出産した。「私の指をぎゅっと握ってくるようになった」と、我が子の成長に目を細める。

だが、出産までには、つらい出来事もあった。流産と死産を経験したのだ。
最初の妊娠は、結婚半年後の2005年4月。つわりがひどく、超音波検査で「胎児の成長が遅い」と言われた。2か月後、流産したことが分かった。

「運が悪かった。でも、この先の妊娠に影響はないでしょう」。医師にそう言われ、翌年2月、2回目の妊娠をした。やはり胎児の成長が遅く、つわりもひどかったが、流産せずに何とかもちこたえた。

しかし、妊娠8か月目に入り、「発育不良で危険な状態」と言われ、入院した。胎児を保護する羊水が少なく、東海大病院(同市)に転送された。結局、死産となった。「出産」した赤ちゃんを抱くと、「ただ、小さいだけのきれいな子」だった。「なぜ息をしていないんだろう」。最初の流産より、ショックははるかに大きかった。

高年齢で妊娠したからなのか、つわりがひどくて食べられなかったからなのか――。自分を責めた。流産を繰り返したり、死産したりして、妊娠しても赤ちゃんが育たないことを「不育症」と言う。

日本産科婦人科学会は、流産を繰り返した場合、不育症かどうかを調べる検査項目を定めている。
不育症検査 主な内容
・黄体ホルモン、甲状腺ホルモンなどの分泌(血液検査)
・子宮の形態に異常がないか(エックス線検査)
・夫婦の染色体異常の有無(血液検査)
・抗リン脂質抗体などの免疫異常や血液凝固異常(同)

基準作りに携わった東海大産婦人科准教授の杉俊隆さんは「検査で原因がわかれば、対策を講じることもできます」と話す。ただ、原因が分からない場合があるほか、原因が分かっても確立した治療法がなく、さらに流産を繰り返す夫婦もいる。

A子さんは、同病院で死産の原因を調べたところ、血液検査で、血栓(血液の塊)ができやすくなる「抗リン脂質抗体症候群」と診断された。胎盤に血栓ができ、血流が滞って胎児に十分な栄養が供給されなかったとみられる。

「原因が分かっただけでもほっとしました」。次の妊娠で、治療しながら出産を目指すことになった。
(流産、死産…自分責める)


流産とは、妊娠の継続が停止することを指し、日本産科婦人科学会では「妊娠22週未満の妊娠中絶を流産」と定義し、22週以降の場合では、「死産」と定義されています。なお、妊娠12週未満の流産を「早期流産」、妊娠12週以降22週未満の流産を「後期流産」といいます。

原因としては、大きく分けて母体、胎児、夫婦間因子に問題があって流産してしまうと考えられます。

母体による流産原因としては、感染症や子宮の異常(子宮頸管無力症、子宮奇形、子宮筋腫など)、黄体機能不全、高プロラクチン血症、内分泌疾患などがあります。胎児による流産の原因としては、染色体の異常、遺伝子病などがあります。夫婦間因子による原因とは、免疫異常(免疫応答の異常など)や、血液型不適合妊娠(Rh+−の不適合など)といったものがあります。

さらに、習慣流産といって、連続3回以上流産を経験した場合もあります。特に、絨毛膜下血腫が原因である場合は、SLE(全身性エリテマトーデス)や抗リン脂質抗体症候群を疑います。また、2回以上自然流産(死産も含めて)を反復する場合(習慣流産を含めて)便宜的に「不育症」と呼びます。

抗リン脂質抗体とは、人間の体の中の主要な細胞膜構成成分である「リン脂質二重層」に対する自己抗体のことです。 最近では、間下このみさんが坑リン脂質抗体症候群であり、それを乗り越えて無事出産なさっています。

抗リン脂質抗体があると、血液凝固が亢進され、血栓形成が起こりやすいのです。妊娠週数が進むにつれて、胎盤内の絨毛間膣ならびにその周辺の小さな血管には、血液の凝固因子が増加しています。そのような状態になっている所に抗リン脂質抗体が反応すると、容易に子宮胎盤循環不全を起し、流産や死産という結果になると考えられています。

不育症とは、以下のようなものを指します。
不育症とは、成立した妊娠を完遂できず、健康な生児に恵まれない症例を指します。具体的には、3回以上流産を繰り返した場合です。

2回以上反復する妊娠中期以降の胎児死亡、生後1週間以内の新生児死亡なども、わずかではあるが含まれます。臨床的には習慣流産と同義語とも考えられます(習慣流産では、流産しやすい何らかの病因が存在して流産を繰り返している症例を意味するようです)。

初期流産の自然頻度は、15〜20%と推定されます。ですので、特に原因が見当たらない場合、というのもあるわけです。ですが、3回以上流産を繰り返した場合は、もはやその流産を偶然だけでは説明できず、原因を検索することが重要です。たとえば、日本産科婦人科学会の定める不育症の検査項目を調べることが必要です。

原因としては、染色体異常(夫婦いずれかの相互転座など)、子宮の因子(子宮奇形、子宮頸管無力症)、感染症、内科的疾患(糖尿病,甲状腺機能異常)、生殖系を含めた内分泌異常、免疫異常などがあります。

不育症で悩まれている方は、一度病院で検査を受け、適切なアドバイスを受けられることが勧められます。

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