以下は、ザ!世界仰天ニュースで取り上げられていた内容です。

1966年08月01日、アメリカ・テキサス州オースティン。テキサス大学オースティン校の平和なキャンパスが突然の惨劇に見舞われた。この大学で建築工学を学ぶ大学院生であるチャールズ・ホイットマンが、本館時計塔にカービン銃や狙撃ライフル等の銃器、食料等を持ち込み、午前11時48分、受付嬢や見学者を殺害した後に時計塔展望台に立て籠もり、眼下の人を次々に撃ち始めた。

すぐさま地元の警官隊が出動し、展望台の男に向かって銃撃を開始するも、90メートルもの高さを利用した男の射撃に歯が立たず、警官が地下水道からタワーに侵入してチャールズを射殺するまでの96分の間に警官や一般市民など14名(妊婦のお腹にいた胎児含む)の犠牲者と31名の負傷者を出した。

彼、チャールズ・ホイットマンはフロリダ州レイクワースで裕福な家庭の3人兄弟の長男として生まれ、6歳の時にはテストでIQ 138を出すなど、優秀で素直な子供だった。だが、父親は気難しく支配的な人間で、DVを行う男だった。

1959年、チャールズは18歳で家を出るため、父親に反対されるも海軍に入隊する。真面目で成績も優秀な模範兵だったチャールズは、1961年、奨学金を貰い、兵士の身分のまま大学で学ぶこととなった。大学入学の翌年、同じ大学のキャサリン・ライスナーと結婚。だがキューバ危機が発生し、チャールズは海軍に緊急招集され、大学も辞め、妻キャシーとも離れ離れに…。キャシーへの思いと再び建築学を学びたいという気持ちに海軍を辞める決意をする。こうして1964年、チャールズは海軍を円満除隊し、テキサス州に戻ってきた。チャールズとキャシーは順調な毎日を送っていたが、実家では相変わらず父親が母親に暴力を振るっていた。そんな頃、チャールズは突如原因不明の発作的な暴力衝動や激しい頭痛に悩まされるようになっていた。

1966年、チャールズの母は父である夫と別れることを決めた。チャールズの手伝いで、母親はフロリダからチャールズが住むオースティンへ引っ越してきた。だが、チャールズの衝動やひどい頭痛は更に悪化した。妻を殴った時の高揚感…あれほど憎んでいた父親と同じようになっている自分。後悔してもまた同じ衝動に駆られてしまう。

チャールズは、自身の精神状態を医師に相談した。チャールズはこれまでの生い立ちや精神状態を医師に説明した。医師の判断は、幼い頃、お父さんから受けた暴力が強烈なトラウマなんだろう、薬を出すから様子を見ようという軽いものだった。

そしてチャールズはある決意をし、母の元へ向かう。そして、翌日に起こることで悲しませたくない、という思いから自分の手に掛けてしまう。そして、その足で寝ている妻の元へと帰った。そして、同様に命を奪ってしまった。自分の衝動を抑えられない、とうとうイメージを行動に移してしまう…そのことを遺書に書き留めた。

そして08月01日、チャールズは本能の赴くままに大学へ向った。事件後、家宅捜索でチャールズの遺言が発見された。そこにはこう書かれていた。「自分で自分がわからない、最近では異常な考えがたえず頭に浮かんでいる。恐ろしくてたまらない。私が死んだら遺体を解剖して、異常がないか調べてもらいたい」と。チャールズの遺体はすぐに検視解剖が行われた、そこでとんでもない事実が明らかになる。

検視の結果、チャールズの脳の中には大きな腫瘍があることが判明した。その腫瘍の場所が問題だった。脳の中で感情を支配する扁桃体という部分にあった腫瘍が大きくなり、扁桃核を圧迫し、刺激していたのだ。そしてこの腫瘍が、制御不可能な衝動を生み出していたのではないかと最近では考えられている。


扁桃体(扁桃核 amygdaloid nucleus,扁桃複合体 amygdaloid complexとも言います)は、側頭葉前方部の内部に埋もれた神経核の複合体です。アーモンド(扁桃)の形に似ていることから名付けられました。

扁桃体は情動に関与するとされ、両側性に破壊されると、恐怖感の喪失や易順応性、感情鈍麻など、情動盲(特に、恐怖感喪失や感情鈍麻などから、感情の乏しい状態になる)といわれる症状を呈します。このことから、情動を作り出す上で重要な役割を果たしていると思われます。

特に、脳血管障害や頭部外傷などで側頭葉前内側部、特に鉤や海馬、扁桃核が両側性に障害されると起こる症状を、クリューヴァー・ビューシー症候群といいます。これは、上記のような症状や著明な記憶障害、食欲および性機能の異常亢進など、大脳辺縁系の症状などが現れてきます。

上記のケースでは、破壊されたのではなく、腫瘍により圧排され、正常な機能を果たせなくなった状態ではないか、と思われます。情動の中枢は、大脳辺縁系や視床下部を含む脳幹部に存在しているといわれています。ですが、表出や行動化には、大脳皮質の機能である認知、記憶、思考などによって統制されており、全ての感情がさらけ出されるわけではありません(そうなると、上手く社会生活を送れなくなってしまう)。

こうした機能が障害されたものを、情動障害といいます。具体的には、以下のようなものを指します。
情動障害とは、わずかの刺激で泣いたり笑ったりと、情動の調節がうまくいかなくなることですが、これは主に大脳皮質の機能の減弱などに起因します。たとえば、脳血管性認知症などでは、感情失禁とよばれる症状があります。これは、急に泣き出したりしてしまう症状ですが、これも情動の障害の一つです。

他にも、実験動物での話ですが、視床下部の刺激で、怒りと防御姿勢、攻撃性、交感神経緊張状態を来す部位が知られています。これを怒り反応と呼び、このことから怒りは、皮質以下の構造である視床下部のレベルで制御されているとみられており、この部位は大脳辺縁系である中隔野、扁桃体、海馬などからのコントロールを受けていると考えられます。

また、こうした怒り反応は、てんかん(精神運動発作)の患者さん、脳炎などの急性あるいは慢性神経疾患の一部にも観察されています。このことからも、上記のように怒りといった感情と、脳腫瘍の存在した部位との関係性が強いのではないか、と考えられます。

当時ではCTも無く、「長年、頭痛がする」と患者さんが訴えても検査することは難しく、生きている内は原因究明が不可能に近かったのではないか、とも思われます。もし、彼が現代の患者さんだったら、違った結末を迎えられたのではないか、とも思います。

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