東京都の30歳代の主婦は、流産を2回繰り返した後、昨年、男児を出産した。体外受精を行い、正常に妊娠を継続できる可能性の高い受精卵だけを子宮に戻す「着床前診断」を受けてのことだ。
日本産科婦人科学会の承認を受けて着床前診断を行い、出産した初のケースだった。
流産に終わった過去2回の自然妊娠では、一度は胎児の心拍を確かめていただけに、30歳代の夫は「妻は精神的にまいっていた」と振り返る。
流産の原因を調べるため夫婦で血液検査を受け、染色体の異常が見つかった。
染色体には、両親から受け継いだ遺伝情報が詰まっている。細胞内に23組46本あるが、この夫婦の場合、染色体の一部が切断されて別の染色体と入れ替わる「相互転座」があった。健康上の問題はないが、妊娠しても流産する確率が高まる。こうした染色体異常は、胎児が育たない不育症の原因の7〜8%を占めるとみられている。
そこで、体外受精でできた複数の受精卵から、染色体異常のない受精卵を選んで子宮に戻すのが着床前診断だ。学会は2006年、転座によって流産を繰り返す場合に、実施を認めた。「これ以上、流産したくない」。主婦はそう考え、昨年、北九州市のセントマザー産婦人科医院で着床前診断を受けた。1回目の体外受精で妊娠、出産した。
院長の田中温さんは、着床前診断について「流産で苦しむ夫婦にとって、確実に出産の可能性が広がる」と評価する。ただ、着床前診断をしても必ず妊娠できるわけではない。田中さんは、これまで8組に実施し、5組が妊娠した。このうち2組は無事に出産、別の2組は妊娠中、1組は流産した。
韓国での報告では、1回の着床前診断で出産に至るのは30%程度だ。一方、愛知県安城市の主婦(30)は同様の染色体異常があり、流産を3回繰り返した末、一昨年、4回目の自然妊娠で男児を出産した。「2人目も自然妊娠で頑張ろうという気持ちです」と話す。
この女性を診察した名古屋市立大産婦人科教授の杉浦真弓さんによると、夫婦どちらかに相互転座があると診断された不育症患者47組のうち、約30%の15組が次の自然妊娠で出産した。
杉浦さんは「着床前診断は流産を予防できる利点があるが、出産に至る率は自然妊娠と変わらず、夢の治療ではない」と語る。
着床前診断は、流産を繰り返す患者の新たな選択肢と言えるが、体外受精の際に排卵誘発剤を使うなど、体への負担や危険が伴うこともある。そうした点も考えて判断したい。
(染色体異常に着床前診断)
個人の遺伝情報などを利用して、それを診療に活かす、ということは既に現実として行われつつあります。遺伝子診断には、実施する時期によって、
に分類されます。
1)出生前遺伝子診断とは、羊水細胞、絨毛細胞、臍帯血細胞、あるいは母体血中に含まれる胎児成分(主に有核赤血球)を用いて、胎児の診断を行います。上記の着床前診断(いわゆる受精卵診断)はこの内の一つであり、体外受精卵を対象にした検査です。
着床前診断とは、体外受精により受精させて得られた4細胞期胚あるいは8細胞期の受精卵から、1〜2個の割球を採取(胚生検)し、遺伝子診断や染色体異常の診断を行います。生検により残った胚は診断結果が得られるまで培養が続けられ、診断目的とした疾患が発症する可能性のないことが判明した胚のみを子宮に移植します。
出生前診断が適応となるのは、『遺伝学的検査に関するガイドライン』で、以下の条件の場合、行うことができるとされています。
日本産科婦人科学会の承認を受けて着床前診断を行い、出産した初のケースだった。
流産に終わった過去2回の自然妊娠では、一度は胎児の心拍を確かめていただけに、30歳代の夫は「妻は精神的にまいっていた」と振り返る。
流産の原因を調べるため夫婦で血液検査を受け、染色体の異常が見つかった。
染色体には、両親から受け継いだ遺伝情報が詰まっている。細胞内に23組46本あるが、この夫婦の場合、染色体の一部が切断されて別の染色体と入れ替わる「相互転座」があった。健康上の問題はないが、妊娠しても流産する確率が高まる。こうした染色体異常は、胎児が育たない不育症の原因の7〜8%を占めるとみられている。
そこで、体外受精でできた複数の受精卵から、染色体異常のない受精卵を選んで子宮に戻すのが着床前診断だ。学会は2006年、転座によって流産を繰り返す場合に、実施を認めた。「これ以上、流産したくない」。主婦はそう考え、昨年、北九州市のセントマザー産婦人科医院で着床前診断を受けた。1回目の体外受精で妊娠、出産した。
院長の田中温さんは、着床前診断について「流産で苦しむ夫婦にとって、確実に出産の可能性が広がる」と評価する。ただ、着床前診断をしても必ず妊娠できるわけではない。田中さんは、これまで8組に実施し、5組が妊娠した。このうち2組は無事に出産、別の2組は妊娠中、1組は流産した。
韓国での報告では、1回の着床前診断で出産に至るのは30%程度だ。一方、愛知県安城市の主婦(30)は同様の染色体異常があり、流産を3回繰り返した末、一昨年、4回目の自然妊娠で男児を出産した。「2人目も自然妊娠で頑張ろうという気持ちです」と話す。
この女性を診察した名古屋市立大産婦人科教授の杉浦真弓さんによると、夫婦どちらかに相互転座があると診断された不育症患者47組のうち、約30%の15組が次の自然妊娠で出産した。
杉浦さんは「着床前診断は流産を予防できる利点があるが、出産に至る率は自然妊娠と変わらず、夢の治療ではない」と語る。
着床前診断は、流産を繰り返す患者の新たな選択肢と言えるが、体外受精の際に排卵誘発剤を使うなど、体への負担や危険が伴うこともある。そうした点も考えて判断したい。
(染色体異常に着床前診断)
個人の遺伝情報などを利用して、それを診療に活かす、ということは既に現実として行われつつあります。遺伝子診断には、実施する時期によって、
1)出生前診断
2)発症前診断
3)発症後診断
に分類されます。
1)出生前遺伝子診断とは、羊水細胞、絨毛細胞、臍帯血細胞、あるいは母体血中に含まれる胎児成分(主に有核赤血球)を用いて、胎児の診断を行います。上記の着床前診断(いわゆる受精卵診断)はこの内の一つであり、体外受精卵を対象にした検査です。
着床前診断とは、体外受精により受精させて得られた4細胞期胚あるいは8細胞期の受精卵から、1〜2個の割球を採取(胚生検)し、遺伝子診断や染色体異常の診断を行います。生検により残った胚は診断結果が得られるまで培養が続けられ、診断目的とした疾患が発症する可能性のないことが判明した胚のみを子宮に移植します。
出生前診断が適応となるのは、『遺伝学的検査に関するガイドライン』で、以下の条件の場合、行うことができるとされています。
ご夫婦からの希望があり、かつ検査の意義について十分な理解が得られ、下記のような場合に行うとされています。
こうした適応を考える際、まず重要なのは「胎児が重篤な疾患に罹患する可能性のある場合」といった時であると思われます。たとえば、出産後まもなくに亡くなってしまう疾患や、小児期に発症する重篤な疾患で、かつ効果的な治療法がないもの、などでしょう。
他にも、上記のように何度も流産を繰り返してしまう場合です。流産の原因としては、大きく分けて母体、胎児、夫婦間因子に分類することが出来ますが、特に胎児による流産の原因としては、染色体の異常、遺伝子病などがあります。こうした場合、着床しても胚が途中で育たなかったりしてしまい、結果として流産してしまうわけです。
たしかに、流産のショックや重篤な疾患に罹ると分かっている場合、リスクを回避することができるのならばしたい、というお気持ちも分かります。しかしながら、そこには生命の選択といった倫理的な問題や、上記にある言葉の通り、「着床前診断は流産を予防できる利点があるが、出産に至る率は自然妊娠と変わらず、夢の治療ではない」といった実情もあります。
今後、さらに発展する可能性があるとはいえ、現在の所は判断に難しい技術であるといえるでしょう。
【関連記事】
5回もの流産の原因に…中隔子宮
不育症、流産…自分を責めてしまう妊婦
1)夫婦のいずれかが,染色体異常の保因者である場合
2)染色体異常症に罹患した児を妊娠,分娩した既往を有する場合
3)高齢妊娠の場合
4)妊婦が新生児期もしくは小児期に発症する重篤なX連鎖遺伝病のヘテロ接合体の場合
5)夫婦のいずれもが,新生児期もしくは小児期に発症する重篤な常染色体劣性遺伝病のヘテロ接合体の場合
6)夫婦のいずれかが,新生児期もしくは小児期に発症する重篤な常染色体優性遺伝病のヘテロ接合体の場合
7)その他,胎児が重篤な疾患に罹患する可能性のある場合
こうした適応を考える際、まず重要なのは「胎児が重篤な疾患に罹患する可能性のある場合」といった時であると思われます。たとえば、出産後まもなくに亡くなってしまう疾患や、小児期に発症する重篤な疾患で、かつ効果的な治療法がないもの、などでしょう。
他にも、上記のように何度も流産を繰り返してしまう場合です。流産の原因としては、大きく分けて母体、胎児、夫婦間因子に分類することが出来ますが、特に胎児による流産の原因としては、染色体の異常、遺伝子病などがあります。こうした場合、着床しても胚が途中で育たなかったりしてしまい、結果として流産してしまうわけです。
たしかに、流産のショックや重篤な疾患に罹ると分かっている場合、リスクを回避することができるのならばしたい、というお気持ちも分かります。しかしながら、そこには生命の選択といった倫理的な問題や、上記にある言葉の通り、「着床前診断は流産を予防できる利点があるが、出産に至る率は自然妊娠と変わらず、夢の治療ではない」といった実情もあります。
今後、さらに発展する可能性があるとはいえ、現在の所は判断に難しい技術であるといえるでしょう。
【関連記事】
5回もの流産の原因に…中隔子宮
不育症、流産…自分を責めてしまう妊婦