口で呼吸をしていると、なぜ苦しいのか…。『健康は「呼吸」で決まる』の著者、西原克成先生に聞いてみた。

「それは、口が本来は呼吸器ではないからです。ほ乳動物の中で、口呼吸ができるのは人間のみ。人間は、600万年前に言葉を習得し、しゃべりやすい構造に進化した結果、口で呼吸ができるようになりました。そもそも、口は食べ物を摂取する器官、鼻が呼吸をする器官。人間以外のほ乳動物は、気道と食道がつながっていないんです」

つまり、物を喉に詰まらせて呼吸ができなくなるのも、人間だけなんですね…。鼻呼吸と口呼吸は、どう違うのですか?

「鼻で呼吸をすると、空気が鼻腔、副鼻腔、内耳などにより浄化、加湿され、酸素交換しやすい状態になります。しかし、口で呼吸をすると、酸素交換が十分にできないだけでなく、口の中や喉に住み着いているばい菌をそのまま体内に取り入れることに。これらのばい菌は白血球に入り、体中にばらまかれてしまうんです」

鼻呼吸を習慣づけるにはどうしたらいいのでしょうか?

「まずは、鼻呼吸を心がけてください。胸を張って姿勢を正し、思い切り胸に空気を入れて、お腹で息をします。物を食べるときは、口呼吸をしないよう口を閉じ、左右の歯を均等に使って30回以上噛むこと。寝るときには、柔らかい枕を使い、横向き寝、うつ伏せ寝をしない。また、普段から唇をテープなどで貼ったり、ひそかに赤ちゃん用のおしゃぶりを使うだけで、ずいぶん口呼吸を防げますよ。もうすぐ花粉の季節ですが、花粉症も口呼吸によってひどくなります。あまりにひどいときは、ドライヤーで鼻の周りの空気を温めると、鼻の働きがよくなりますよ」(同)
(鼻呼吸と口呼吸はいったい何が違うの?)


鼻腔は甲介(鼻腔の外側から飛び出しているひだのことで、3段の棚のようになっている)の存在により表面積が広く、吸気が通過する際に加温(鼻粘膜の海綿静脈叢の効果)、加湿(気道から蒸泄する水分の約1/2)、除塵(塵埃の45%を除くといわれる)の効果があります。

そのため、鼻呼吸ならこうした調節作用が働きますが、口呼吸の場合はこれらの作用は、ほとんどなくなってしまうわけです。逆に言えば、口呼吸だと乾いた冷たい空気がそのまま入ってきてしまい、塵埃などもそのまま吸い込んでしまうことになります。

結果、口の中が乾燥しやすく、細菌が繁殖しやすくなってしまい、口臭や虫歯、歯周病などの原因になってしまったり、(かぜなど)上気道炎の原因にもなると考えられます。

また、小児の口呼吸癖は顎成長に悪影響を与え、上顎前突、開咬の原因となり、さらに嚥下や発音時には舌突出させるため、歯列不正がより悪化するとも考えられます。将来的には、睡眠時無呼吸症候群の素因や口腔乾燥による歯周疾患の増悪因子となりうるわけです。

そもそも、口呼吸の原因は、以下のようなところにあると思われます。
口呼吸癖は、鼻炎やアデノイド(咽頭扁桃の肥大)のため、鼻がつまって鼻呼吸が困難な場合の代償であることが多いといわれています(鼻腔抵抗の増加や換気量の増大により、前鼻孔と後鼻孔の圧差が健常者で8〜10cmH2Oになると知らぬうちに鼻呼吸になるといわれています)。

鼻呼吸が改善されても、習癖として残っていることもあり、その後も鼻呼吸がクセになってしまっていることがあります。治療としては、耳鼻咽喉科における治療が本質的に必要となり、鼻炎などの鼻づまりの原因を除去したりすることが重要です。

基本的には、鼻咽頭疾患による気道の狭窄などが多いので、それを治療することになると思われます。たかが口呼吸、と思って放っておいたりするのではなく、一度、耳鼻咽喉科などを訪れてみるのもいいかもしれません。

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