痛みの治療では、鎮痛剤の服用や神経に薬剤を注射してマヒさせる神経ブロックなどが行われるが、それでは消えず、日常生活に障害となるような強い痛みを「難治性疼痛」という。

CRPSのほか、けがや手術で神経が傷ついて発する痛み、がんに伴うもの、糖尿病による神経障害、帯状疱疹後の神経痛、失った手足が痛む幻肢痛などつらい痛みに苦しんでいる人は少なくない。こうした難治性疼痛の患者は約220万人と推定されている。その治療法として普及が進むのが「脊髄刺激療法」だ。

痛みは、刺激を受けた部位の神経が出した電気信号が、脊髄を経由して脳に伝わって感じる。痛みを緩和するには、信号が脳に伝わるルートを遮断するか、伝わりにくくすればいい。「脊髄刺激療法」は、脊髄に微弱な電気刺激を与え、「痛み」の信号を脳に伝わりにくくする方法だ。

まず、脊髄の中で、痛む場所につながる神経が集中する部位をコンピューター断層撮影法(CT)検査で探し出す。その部位の脊髄を覆う膜の外側に、直径1ミリ以下の細長い電極を差し込む。

次に、電極に電流を流し、痛みが和らぐかどうか確かめる。効果があれば、1週間ほど入院し試験を継続。効果に納得すれば、電極に電流を流すための装置(最大約7センチ)を腹部に埋め込む。患者は、リモコンで刺激の強さを変えることができる。内蔵された電池の寿命は2〜5年で、交換の際は手術が必要だ。

NTT東日本関東病院ペインクリニック科長の大瀬戸清茂さんによると、じっとしていても感じる痛みは治療対象だが、一般の腰痛や関節痛のように、動いた時に感じる痛みには、ほとんど効かず、しびれも対象にならない。がんによる痛みでは、飲んでいる鎮痛剤を減らすために導入することもあるという。

脊髄刺激療法は保険適用されており、これまでに受けたのは約2000人。従来、電極は1本だけだったが、最近は、多様な電気刺激のパターンが出せるため、2本差し込むケースが増え、これまであまり効き目のなかった患者にも効果をあげているという。

ただし、効果には個人差が大きく、痛みが完全に取れるわけではない。同病院の患者では、痛みが9割減った人から半減程度の人までいる。大瀬戸さんは「難治性の痛みを、一つの方法だけで全くなくすのは難しい」と指摘する。

痛みが軽減する意味は大きい。歩くことができるようになり、トイレや風呂などに一人で行けるようになる患者もいる。「いくつかの治療を組み合わせて、痛みを少しでも取り除き、日常生活の質を向上させてほしい」と、大瀬戸さんは強調する。
(脊髄刺激療法)


癌性疼痛とは、癌の末期において、癌自体の浸潤・転移、神経圧迫などによる痛みや、癌治療(手術,放射線治療,化学療法など)に伴う痛み、衰弱・抑うつ・不安などにより引き起こされる痛みのことを言います。一説には、末期癌患者の70%に疼痛が発現するといわれています。

WHOの示した癌疼痛治療法の指針(3段階式で、痛みが強ければ次第にステップを上げる。まず第一段階は非ステロイド性抗炎症薬、などを用いる)による管理が推奨されていますが、一方で耐え難い痛みを緩和することができない人もいます。

他にも、幻肢痛(四肢切断後に欠損部が存在するかのように認識し、その部位に痛みを感じること)や帯状疱疹後神経痛(帯状疱疹の後による神経変性が起こり、耐えがたい痛みが残ること)など、難治性疼痛は、QOLに非常に大きく関わってきます。

一般的に、これらを神経因性疼痛といい、末梢神経や中枢神経の損傷や障害によってもたらされる疼痛症候群を指します。損傷された神経の支配領域の感覚鈍麻やシビレ感がみられるにもかかわらず、その部位が激しく痛んだりします。

原因としては、上記のような帯状疱疹後神経痛や糖尿病性神経症、悪性腫瘍の神経浸潤などが代表的です。これらは鎮痛剤などに反応しづらく、難治性です。抗うつ薬や抗痙攣薬、抗不整脈薬などの鎮痛補助薬を適切に使用することが重要であるといわれています。

その外科的治療の一つとして、脊髄刺激法がありますが、これは以下のようなものです。
脊髄刺激法とは、脊髄硬膜外に穿刺して、硬膜外腔に刺激電極を留置して有線または無線で脊髄に通電する鎮痛法です。Aβ線維(触圧覚を伝える神経線維。一方、痛みを伝えるのはAδ線維など)が集まっている脊髄後索を、電気刺激します。すると、その部分の鎮痛が得られます。

これを説明している一つの理論(未だに、痛みを完全に説明できる説はありませんが)として、「ゲート・コントロール説」という理論があります。この説の中心部分は、脊髄後角の求心性侵害受容ニューロンが、末梢からの非侵害性の情報(触覚情報など)を伝える太い神経線維の興奮により抑制され、細い侵害性線維の興奮で活性化される、というものです。

具体的な例でいえば、「痛いの、痛いの飛んでいけ〜」と、さすってもらったときに、痛みが軽くなる、ということでしょうか。これは、どうして「痛みが和らいだ」と思ったのかというと、触・圧感覚を伝える太い神経線維(Aβ線維)からの刺激によって、痛みを伝える細い神経(Aδ線維)が抑制されたからだ、と「ゲート・コントロール説」は説明しているワケです。

この理論で上記の脊髄刺激法を説明しようとすれば、「硬膜外から太い神経(Aβ線維)を刺激したために、痛み刺激を伝える(Aδ線維)の刺激を抑えられた」ということでしょうか。

もちろん、これだけで全てが説明できたわけではありませんが、除痛効果があるのは確かなようです。がんでの終末期医療などで、苦痛を取り除くことがどれほど大きな救いになるのか、といったことを考えると、今後、さらに重要な治療法であると考えられそうです。

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