水は生命の源といわれている。しかし、大量の水は人を死に至らしめることがあるのだ。イギリスメディアは1月31日、水の飲みすぎによる死亡事件を報じた。

2007年9月、ショーン・マクナマラさん(35)が自宅の浴室で死んでいるのが発見された。当初、死因は心臓発作によるものだと思われたが、検死の結果、大量の水を飲みすぎたことによる大脳の膨張であることが確認された。

検死医のイアン・レッド氏は、「この仕事を35年間続けているが、このような事件にあったことは一度もない」と驚いている。同氏は、「水の大量摂取は、人の心理的な問題と関係があるのではないか」としている。

マクナマラさんの母親によると、マクナマラさんは長い間うつ病を患っており、2005年に薬の大量服用がもとで病院に担ぎ込まれた。しかし警察側は、今回、マクナマラさんが自殺を試みた痕跡はないとしている。

検死を行った別の医師は、次のように述べている。「マクナマラさんが大量の水を飲んで自殺を図ったという明確な証拠はない。おそらくこれは事故なのだろう。心理的要因の有無についてはわからない」。

水の大量摂取は、体内の水分とナトリウムのバランスを変化させ、頭痛や脳の膨張などを引き起こす。通常、こうした危険性が指摘されるのは、走り終わったマラソンランナーだ。
(うつ病の男性、「水飲みすぎ」で脳が膨張し死亡)


水中毒とは、体内が水過剰の状態になり、水分が細胞内まで広がり、体液浸透圧の低下や細胞の膨化を生じた状態です。中枢神経症状として頭痛、嘔吐、けいれん、意識障害、筋力低下、精神症状、また食欲不振、倦怠感などを示します。

2007年1月12日に、カリフォルニア州のラジオ局が主催した「大量の水を飲むことを競うイベント」で、水中毒による死者を出してしまったことがありました。7.6リットルもの水をトイレに行かずに飲み干した28歳の女性が、翌日に亡くなってしまいました。

原因としては、抗利尿ホルモンの分泌異常(尿への排泄を少なくして、体に水を留めようとする)、尿希釈力低下(尿はどんどん濃くなるが、血液の水成分が多くなって薄くなる)、多飲、低張輸液など浸透圧調節機序の障害か調節機能を上回る水負荷(血液の濃度を調節できなくなっている)などがあります。

具体的には、心因性多飲といって、何らかの心理的原因により過剰な水分摂取を行ってしまう疾患があります。

これは、口渇感や口腔内違和感の解消、不安や怒りなどの感情の鎮静、また欲求不満の代償として水を飲んでしまうようです。摂食障害で、食べる代わりに水を多く飲む、といった場合もあるようです。

こうした心因性多飲症の患者に、多尿だからといってバソプレシン(抗利尿ホルモン)を投与すると、水中毒になってしまいます。他にも、抗精神病薬の長期投与による副作用としても起こることがあるようです。

所見や治療としては、以下のようなものがあります。
水中毒が発生した場合、水分摂取の増大と同時に、排泄の抑制があることが重要です。他にも、上記のような中枢神経症状として頭痛、嘔吐。けいれん、意識障害、筋力低下、精神症状、また食欲不振、倦怠感などが起こってきます。

検査所見としては、血液生化学検査にて、血清Na濃度・ヘマトクリット値は低値を示すことがあげられます。とくに、10%以上のNa値の低下や、体重の7.5〜16%の水分の貯留がある場合では疑います。

治療としては、水分摂取の制限、高張食塩水の投与、利尿薬、マンニトール製剤の投与などが考えられます。

うつ病との関連性は分かりませんが、何らかの原因で水の多飲が問題となったということのようです。従来より用いられてきた、三環系あるいは四環系抗うつ薬は、口渇・便秘・眠気などの副作用が比較的多いことが知られています(抗コリン作用のため)。この副作用により、水を飲んでしまったことと関係しているのでしょうか。

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